抗腫瘍サイトカインTNFの医薬品化を目指した活性増強型リジン欠損TNFに対する部位特異的バイオコンジュゲーションの最適化

文献情報

文献番号
201313071A
報告書区分
総括
研究課題名
抗腫瘍サイトカインTNFの医薬品化を目指した活性増強型リジン欠損TNFに対する部位特異的バイオコンジュゲーションの最適化
課題番号
H25-3次がん-若手-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
向 洋平(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬支援スクリーニングセンター 抗体スクリーニングプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腫瘍壊死因子TNFはその高い抗腫瘍活性から医薬品化が望まれたが、1990年代初頭の臨床治験にて全身投与時の副作用が問題となり、その医薬品化は断念された。1990年代後半には、堤らによりPEGなどの高分子でTNFを修飾するバイオコンジュゲーション(PEGylation)が、TNFの副作用を軽減し、その全身投与を実現可能であることが示されたものの、通常のリジン残基を修飾するPEGylationではTNFの比活性低下を避けることはできず、十分な技術とはなり得なかった。この点、申請者は堤らと共同で、独自の機能性人工蛋白質の創製技術によりTNF中の全てのリジン残基を欠損しつつも活性を増強したmutTNF-K90R(以下K90Rと略称)を創製し、そのN末端部位特異的なPEGylationによって、PEG化の致命的問題点を最小限に抑えることに成功した。この部位特異的PEGylationは、TNFの全身投与を達成し、その医薬品化を強力に推進可能な基盤技術となり得ることが期待されている。
そこで、本申請課題では、申請者らが開発した活性増強型TNF変異体K90Rに対し、異なる分子量のPEGを修飾し、それらPEG化体の物性評価、in vitro評価、in vivo評価を通じて、最適なPEG化体を決定することで、TNFの臨床応用のためのトランスレーショナルリサーチを推進することを目的とした検討を実施した。
研究方法
分子量5 kDa、10 kDa、20 kDaの活性化PEGを、K90RのPEG修飾に用いた。PEG-K90Rは、AKTA Explorer 100Sを用いたゲルろ過クロマトグラフィーによりを精製した。各々のPEG-K90Rの残存親和性を、BIAcore3000で測定し、TNFR1を介した生物活性をL-M assayで評価した。
結果と考察
全てのPEG-K90Rは、TNFR1に対しては、KD=1.2-2.3 nM、TNFR2に対しては、KD=1.2-2.8 nMという高い親和性を保持していた。次にその生物活性を評価する目的で、同様のサンプルを用いたL-M assayを実施した。その結果、生物活性においても、全てのPEG-K90Rは、未修飾のK90Rと同程度の比活性を保持していることが判明した。これまでの我々の検討から、ランダムPEGylationでTNFを修飾した場合、5 kDaのPEGが1分子結合するだけで、その親和性・生物活性は1/10以下にまで減少することが判明している。従って、K90Rに対し、より高分子量のPEGで修飾した修飾条件においても比活性がほとんど低下しないという事実は、K90RのN末端部位特異的PEGylationの有用性を強く示唆するものである。
結論
TNFは、その強力な抗腫瘍効果から、有望な抗がん剤として注目が集まったものの、その強い副作用によって全身投与が断念された経緯がある。その副作用を軽減し得る最適技術と期待されたPEGylationにおいても、致命的な比活性低下が問題となり、実用化に至っていない。本研究では、活性増強TNF変異体であるK90Rに対し、N末端特異的なPEGylationを行うことで、高いPEG修飾率(20 kDa PEGを2分子)においても、親和性・生物活性を保持し得ることを初めて明らかとした。これは、今までのPEG化TNFの致命的問題点を克服し得るものであり、難治性がんに対する画期的医薬として期待される、全身投与型TNFの開発に大きく貢献するものと考えられる。今後、in vivoでの安定性の評価、種々の腫瘍モデルマウスを用いた有用性の検証を行うことで、PEG-K90Rの実用化を目指す予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313071C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗腫瘍サイトカインとして期待されるもののその全身毒性により臨床応用が断念された腫瘍壊死因子TNFの医薬品化を目指し、申請者らが独自に開発した活性増強型リジン欠損TNF:mutTNF-K90Rに対し、分子量の異なるポリエチレングリコール(PEG)による部位特異的PEGylationを実施することにより、全身投与型TNF療法に最適なPEG化TNFを見出した。
臨床的観点からの成果
現在、TNFは、その全身投与時の副作用に懸念は残っているものの、その強力な抗腫瘍効果には未だ注目が集まっている。近年、全身投与型TNF製剤として、難治性固形腫瘍に対するL19-TNFや、悪性胸膜中皮腫に対するNGR-hTNF(腫瘍標的化ペプチドとTNFの融合体)が現在臨床治験中である。申請者らの開発した、比活性低下を伴わない部位特異的PEG化TNFは、PEG化による血中滞留性の上昇(投与間隔の拡大等)・副作用の軽減といった、先行品には無い特性を有しており、その高い臨床的な価値が期待できる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
2014年4月に、研究代表者は、共同研究者らと合同でシンポジウムを開催し、研究代表者による講演の中で本成果の一部を発表した。(シンポジウム名:抗体医薬開発NWキックオフミーティング)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201313071Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,200,000円
(2)補助金確定額
5,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,614,340円
人件費・謝金 0円
旅費 385,660円
その他 0円
間接経費 1,200,000円
合計 5,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-