情報ネットワークを利用した高齢神経筋難病の症例データベースによる病態解析、治療法、ケア技術についての研究

文献情報

文献番号
199800215A
報告書区分
総括
研究課題名
情報ネットワークを利用した高齢神経筋難病の症例データベースによる病態解析、治療法、ケア技術についての研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
福原 信義(国立療養所犀潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院医長)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院医長)
  • 川井充(国立精神・神経センター武蔵病院部長)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院医長)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院医長)
  • 藤下敏(国立療養所川棚病院医長)
  • 福永秀俊(国立療養所南九州病院院長)
  • 吉野英(国立精神・神経センター国府台病院医長)
  • 安徳恭演(国立療養所筑後病院医長)
  • 田中正美(国立療養所西新潟中央病院医長)
  • 橋本和季(国立療養所道北病院医長)
  • 乾俊夫(国立療養所徳島病院医長)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院医長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経筋難病(脊髄小脳変性症,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症など)に分類される特定疾患は原因不明なものが多く、治療法、ケア技術なども十分に解明されていない。これらの疾患は加齢に伴って発症するが、高齢になるにつれてさらに治療やケア法が難しくなる特徴がある。今年度は脊髄小脳変性症の分析を試み、全国的な分布と老化にともなった難病患者の障害の分析を試みた、医療、在宅療養のためには、医学データの情報だけでなく、重症度の評価や日常生活評価(ADL)や患者のQOLをしめすデータを収集し解析することが必要である。国立病院など総合情報ネットワークシステム(以下HOSP net)は全国に張り巡らした唯一の医療専用の国立イントラネット網であり、プライバシーなども含めた患者情報の情報保全上適したネットワークである。この既存のネットワークに症例データベースを構築することで、専門医のデータを容易に集め解析することが可能となる。これにより、症例に対する検査、治療、在宅ケア技術などを相互に分析することが可能で、効率的で正確な診断治療法の確立、QOLの向上を目指したケア技術の確立、オーファンドラッグ開発や薬剤臨床試験の対象となる症例を明確化することことが可能である。昨年度は上記研究班組織にHOSP net端末を整備しデータベースサーバを国立療養所犀潟病院内に設置して、暗号化技術なども併用しイントラネット内であっても情報の保全が保てるか検討をおこなった。今年度は脊髄小脳変性症の全国調査をおこなった。痴呆などの知能障害、自律神経症状の有無、身体障害の程度それぞれの脊髄小脳変性症により異なっているかどうかを検討が必要である。遺伝子診断のほかに、International Co-operative ataxia rating scale(ICARS)とBarthel indexを利用した。HOSPnetを利用することで全国的な症例データベースが構築可能であることを脊髄小脳変性症という加齢にともない症状が増悪する疾患群で分析可能であることを検討した。
研究方法
今回の研究事業のもとで脊髄小脳変性症の非アイソトープ法でCAGリピートを測定する迅速な遺伝子診断技術を確立した。常染色体優性遺伝性を示す脊髄小脳変性症はSpinocerebellar ataxia 1(SCA1)、 SCA2, MachodoーJoseph病、 SCA6,SCA7,DRPLAが遺伝子診断可能で、これらの異常なCAG反復配列を測定可能である。全国調査の目的で、班員などの診療中の患者からそれぞれの施設でのやり方によりインフォームドコンセントが得られ、本研究の趣旨に合致するものに関して遺伝子診断を行った。ロータスノーツ上のソフトウエアとして、脊髄小脳変性症のデータベース作成を行ったが、これは通常のPC上で動作するアプリケーションであり、また、画像も張り込める電子カルテとし構築し、相互に共同研究をおこなった。International Co-operative Ataxia Rating Scale(ICARS)を日本語訳し、入力を容易にして、自動的に評価値が計算されるようにした。これにより、脊髄小脳変性症の臨床的重症度を数値的に評価可能とした。その他に、身体障害の自立度を数値的に評価する目的
でBarthelインデックスを入力と自動計算が可能なように作成した。H9年3月から運用されている国立病院、療養所、ナショナルセンター、厚生省をむすぶ全国で唯一の医療専用の情報ネットワーク網であるHOSP netを利用した。WindowsNTサーバ上にLotus noesを構築し、RSA方式の暗号化メールとデータベースの暗号化をおこないイントラネット内であってもプライバシー管理ができるデータ収集をおこなった。ファイルの外部持ち出し時で閲覧・使用できない機能。クライエントのIDとパスワードの両者による認証を行った。フィルターリングにより患者個人情報は他の研究者からは閲覧できない機能などを十分に作りこんだ。
結果と考察
昨年は情報ネットワークシステムの構築を中心におこなった。神経筋難病患者の医学・医療データ、および在宅医療データの収集と解析のために、情報システムを構築運用可能かどうか実証した。常染色体優性遺伝性を示す脊髄小脳変性症はSpinocerebellar ataxia 1(SCA1)、 SCA2, MachodoーJoseph病、 SCA6,SCA7,DRPLAが遺伝子診断可能で、これらの異常なCAG反復配列を共同利用で運用できるかどうか検討した。脊髄小脳変性症のデータベース作成をおこなった。自動計算機能をもつ電子カルテとして構築したが、データのセキュリティ管理、フィルタリング、暗号化、認証技術がうまく機能するかどうか検討した。症例データは、全体の統計分析をまとめた。分析できる132例のデータ入力が行われた。男性71人、女性61人で平均年齢は56歳(SD=13.6)であった。臨床診断の内訳では記載のない5人を除き、MJD:46人、OPCA:30人、DRPLA:10人、LCCA:8人、SCA6:5人、Menzel病:5人(そのうち遺伝子診断ではSCA1:2人、SCA6:1人)MSA:4人、Holmes病:3人、SCA2:2人、Friedreich病:2人、HSMNCA:1人、Shy-Drager症候群:1人、その他9人だった。HOSP netを利用することで、全国的に脊髄小脳変性症などの難病の遺伝子情報や症状の程度や加齢の影響が分析可能である。HOSP netは厚生省と国立療養所、病院、ナショナルセンターのみからなるコンピュータネットワーク(イントラネット)であり、情報のセキュリティ管理はインターネットと比較して十分と考えられる。今回のHOSPnetを利用した全国的な調査では分析できる132例のデータ入力が行われ、全国の多様な地域から数多く収集できたと思われる。今回の調査ではOPCAとMJDの比率が高かった。遺伝子診断をベースとした内訳では、MJD:44人、DRPLA:10人、SCA6:6人、SCA1:5人、SCA2:2人であり、犀潟病院の検査室レベルでの割合(内訳は、Machado-Joseph病が58%,SCA622%、DRPLAで15%)と類似していた。地域差としては、SCA1は北海道に多かったが今回は東北地方のデータがなかった。MJDは全国的な分布を示した。痴呆などの知能障害を持つ方は、DRPLA、OPCAに認められたが、DRPLAであっても知能障害がない高齢者でいたことは興味ぶかい。自律神経症状はDRPLA1、MJDなどでは少ないと考えられたが、今回は実際には存在することがわかった。MJDとDRPLAの今回の調査での平均年齢はほぼ同一だった。予想に反して、ICARSはDRPLAの方が低く小脳症状が軽度だったがBarthel indexでの自立度は悪かった。ICARSで症状は重かったが、SCA6は高齢なわりに日常生活での自立度が高くICARSとBarthel indexは必ずしも相関していないと考えられた。
結論
情報ネットワークを利用することで全国的な症例データベースが構築可能であることを脊髄小脳変性症という加齢にともない症状が増悪する疾患群で分析可能であることを示した。また、必要な情報の保全技術についても同時に検討をおこなった。

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