革新的な統計手法を用いたがん患者の生存時間分析とその情報還元に関する研究

文献情報

文献番号
201313069A
報告書区分
総括
研究課題名
革新的な統計手法を用いたがん患者の生存時間分析とその情報還元に関する研究
課題番号
H25-3次がん-若手-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 ゆり(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 疫学予防部)
  • 井岡 亜希子(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 松田 智大(独立行政法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん医療における診断・治療技術の向上により、がん患者の生存率は向上し、長期生存が可能となった。そのため、これまでに用いられてきた5年生存率では不十分で、より長期の生存率が必要となった。しかし、10年生存率を算出するには通常の方法では10年以上前に診断・治療された患者のデータに基づくこととなり、近年の医療技術の向上を反映することが出来ない。がん患者や医療現場では、「最新の治療状況を反映した長期の生存率を知りたい」というニーズが高まっていた。そこで本研究では、我が国における地域がん登録資料に生存解析の手法を適用し、最新の長期生存率やサバイバー生存率、治癒割合を算出し、その結果をがん患者やその家族、またがん医療従事者に対し、わかりやすい形式で情報提供を行うことを目的とした。また、長期生存率を算出するにあたり、必要な基盤について検討した。
研究方法
我が国において、長期間がん登録資料が集積されている6府県(山形、宮城、福井、新潟、大阪、長崎)の地域がん登録資料を用いて、がんの部位別(23部位)・性別・年齢階級別・進行度別に最新の長期生存率(period analysisを用いた10年生存率)、サバイバー生存率(conditional survival)、がん患者の治癒割合(cure modelの適用)を算出した。Period analysisによる生存率は直近に追跡された患者情報のみを用いて、長期生存率を推計する方法である。また、サバイバー生存率は推計した10年生存率を用いて、診断からの経過年数ごとのその後の5年生存率を示したもので、がんサバイバーのための新しい生存率の提示方法である。また、治癒割合はmixture cure fraction modelにより推定した。得られた統計指標に関しては地域がん登録関連の研究者や臨床医、患者会の方の協力を得て、わかりやすい提示方法及び解説文を検討した。
結果と考察
Period analysisによる2002-2006年追跡症例の10年相対生存率は男女とも甲状腺、皮膚がんでは85-90%を超えており、これらがんの患者の死亡リスクは10年以上経ってもほぼ一般集団の死亡リスクと変わらないことがわかった。また、前立腺がん、乳がんとも約80%と高い値を示した。一方、膵がん、肝がん患者の10年生存率は10%未満であった。サバイバー生存率は、部位により異なるパターンを示した。胃、大腸、胆のう・胆管、腎臓など多くの部位は、診断から2~3年以上経過したサバイバーのその後の5年生存率は100%に近い値を示した。一方、肝がんや多発性骨髄腫では、診断から年数が経過してもサバイバー生存率は向上せず、5年経過後においても50%未満の値を示した。前立腺がんや乳がん患者は元々高い5年生存率であるが、消化器系のがんなどと異なり、診断からの年数が経過してもサバイバー生存率は向上せず、100%には近づかなかった。治癒割合は、最も低い膵がんでは約5%、高い部位である子宮体がんや喉頭がんでは約75%と部位により大きく異なっていた。小児がん、AYA世代のがんの治癒割合の向上も著しく最新の2002-2006年追跡症例では70-80%が治癒に至ることが示された。
これらの網羅的な解析結果は部位別に見やすく視覚化し、図表の見方についても、要点を提示し、専門家によるその結果の解釈をつけたものを冊子として発行した。地域におけるがん診療やがん対策活動に役立ててもらうために、全国のがん診療連携拠点病院および各都道府県のがん登録室に発送した。本冊子の内容はWebにて公開予定である。
また、これらの研究結果を専門家のみならず、がん患者やその家族に対してわかりやすく情報提供するために、患者会の協力を得て提示方法や説明を検討し、一般の方向けにがん患者の生存率に関するリーフレットの案を作成した。さらに、最新の長期生存率を計測するための、情報基盤として、地域がん登録の生存確認調査の現状と今後の展望と課題について整理した。
結論
我が国において代表性の高い統計資料である地域がん登録資料を用いて、包括的にがん患者の長期生存率を報告し、また、サバイバー生存率や治癒割合など新しい統計資料の提示方法を提案し、情報提供を行った。また、がん患者や一般の方に対し、これらの統計資料をわかりやすく提示する方法を患者会とともに検討した。がん登録法の法制化により、全国がん登録が始まるにあたり、本研究班で提案した統計値が迅速かつ正確に算出できるような生存確認調査の体制整備が急務である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313069C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域がん登録資料を用いて最新の長期生存率を15-99歳については23部位および小児・AYA世代のがんについては4疾患について、年齢階級別・進行度別に包括的かつ網羅的にまとめ、情報還元を行った。また、がん患者の生存率における新しい統計指標であるサバイバー生存率および治癒割合についても示した。国際的に近年適用され始めた最新の統計手法を我が国の代表性の高い地域がん登録資料にはじめて適用した。
臨床的観点からの成果
これまで地域がん登録資料に基づく生存率に関する情報はあまり臨床分野において活用されてこなかった。本研究班で算出した統計値の解釈や提示方法については、臨床医からの意見も取り入れ、包括的かつ詳細に長期生存率、サバイバー生存率、治癒割合についてまとめた冊子を各がん診療連携拠点病院に発送した。
ガイドライン等の開発
今のところ特になし。
その他行政的観点からの成果
今のところ特になし。
その他のインパクト
NHKテレビニュース2回(2014年10月22日おはよう関西、2016年5月22日関西News)、毎日新聞朝刊掲載(2016年2月22日)。サバイバー生存率の普及のために13,000部冊子を発行、大阪府内の拠点病院を中心に配布。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
患者向け冊子作成、患者会作成の冊子へのデータ提供、Web掲載

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito Y, Nakayama T, Miyashiro I, et al.
Conditional survival for longer-term survivors from 2000--2004 using population-based cancer registry data in Osaka, Japan.
BMC Cancer , 13 (1) , 304-  (2013)
原著論文2
Ito Y, Miyashiro I, Ito H, Hosono S, Chihara D, Nakata-Yamada K, et al.
Long-term survival and conditional survival of cancer patients in Japan using population-based cancer registry data.
Cancer Science , 105 , 1480-1486  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201313069Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,400,000円
(2)補助金確定額
4,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 975,057円
人件費・謝金 482,790円
旅費 831,460円
その他 2,110,886円
間接経費 0円
合計 4,400,193円

備考

備考
物品購入において生じた端数193円の超過分は、自己資金にて支払った。

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-