キナーゼ活性化レベル測定SRM法による抗EGFR抗体薬効果予測診断法の開発

文献情報

文献番号
201313065A
報告書区分
総括
研究課題名
キナーゼ活性化レベル測定SRM法による抗EGFR抗体薬効果予測診断法の開発
課題番号
H24-3次がん-若手-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
久家 貴寿(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 朝長 毅(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト)
  • 足立 淳(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト)
  • 松原 久裕(千葉大学大学院 医学研究院 先端応用外科学)
  • 星野 敢(千葉大学医学部附属病院 消化器外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗EGFRチロシンキナーゼ抗体薬は大腸がんなどの治療薬として用いられている。抗EGFR抗体薬の効果予測は、KRAS遺伝子変異検査によって行われるが、適応患者と診断されても、依然として30~40%程度の奏功率である。KRAS遺伝子変異以外で、抗EGFR抗体薬に対する耐性化が生じるメカニズムとしては、EGFRシグナル関連キナーゼの恒常的活性化などが挙げられる。したがって、EGFR関連キナーゼの活性測定は、抗EGFR抗体薬効果予測法の改善策となりうる。本研究の目的は、EGFR関連キナーゼの活性化状態を、質量解析計を用いて、包括的に解析する技術を開発することであり、キナーゼ活性測定が、抗EGFR抗体薬の効果予測診断法となりうるのかを検証することである。
研究方法
多くのキナーゼは、活性化ループ領域などがリン酸化修飾される事で、活性型コンフォメーションに変換される。したがって、活性化ループなど特定部位のリン酸化修飾は、キナーゼの活性化状態を知るためのサロゲートマーカーになる。昨年度は、LC-MS/MSを使って、キナーゼの活性化指標リン酸化修飾を測定するための基盤技術開発を行った。本年度は、実際に、LC-MS/MSでキナーゼ活性が測定できる事を実証した。また、包括的キナーゼ活性測定で抗EGFR抗体薬の効果予測が可能なのかどうかを検討するために、大腸癌培養細胞株を抗EGFR抗体薬感受性株と耐性株に分類し、それらのキナーゼ活性化状態をプロファイリングした。具体的には、大腸癌培養細胞株からタンパク質を抽出し、35種の活性型キナーゼ抗体を用いたウエスタンブロットを行った。
結果と考察
キナーゼの活性化指標リン酸化修飾をLC-MS/MSで測定する技術のプロトタイプを2種類開発した。1つは、キナーゼの活性化指標リン酸化修飾を直接LC-MS/MSで測定する方法である。この方法は、リン酸化抗体を必要としない点で画期的である。タンパク質溶液をトリプシン消化し、リン酸化ペプチドをIMAC法で濃縮した後に、キナーゼ活性化指標リン酸化修飾を含むリン酸化ペプチドをLC-MS/MSで測定する。先ずは、キナーゼの活性化指標リン酸化修飾が実際にLC-MS/MSで測定できるのかどうかを調べた。200種類を超えるリコンビナントキナーゼのショットガンプロテオミクス解析などを行った結果、185種のキナーゼの活性化指標リン酸化修飾がLC-MS/MSで検出できることが明らかとなった。そのうちの60種のキナーゼについて、三連四重極型質量解析計を用いたSRM法で測定する条件を設定した。60種のキナーゼの活性化指標リン酸化ペプチドに対して、それぞれに安定同位体標識標準ペプチドを合成し、測定に必要なチャネル設定リストを作成した。60種のキナーゼうちの一部については、内在性レベルで活性測定できることを確認した。全てのキナーゼの活性化状態を内在性レベルで検出するには、まだ感度が足りなかったため、現在、測定法の改良を進めている。2つ目に開発した包括的キナーゼ活性測定法は、活性型キナーゼをアフィニティー精製し、精製した活性型キナーゼの量をLC-MS/MSで定量する方法である。この方法は、活性型キナーゼに対する抗体を必要とするが、ウエスタンブロットなどでは区別することのできない類似性の高いキナーゼでも、容易に区別して活性測定する事ができる。昨年度は、アフィニティー精製に使用可能な活性型キナーゼ抗体を24種類選別し、それらの抗体を使ったアフィニティー精製法を確立した。本年度は、アフィニティー精製したキナーゼをLC-MS/MSで測定する手順を確立し、実際にキナーゼ活性測定ができることを、大腸癌培養細胞を使って実証した。活性型Erk、Mek、TAOK抗体を用いたアフィニティー精製を行い、LC-MS/MSで定量した結果、Erk1/2/7、Mek1/2、TAOK1/2/3、PDPK1、SLK、STK10などを、サブファミリーを区別して活性測定することに成功した。24種の活性型キナーゼ抗体を同時に用いて、キナーゼ活性測定を行えば、理論上は40~50種類以上のキナーゼの活性測定が可能である。現在、複数の活性型キナーゼ抗体を同時に用いた精製法の開発を進めている。また、抗EGFR抗体薬感受性および耐性大腸癌細胞株のキナーゼ活性プロファイルを調べた結果は、特定のキナーゼの活性化状態が抗EGFR抗体薬の感受性と関係している事を示唆していた。
結論
本研究により、LC-MS/MSを用いた包括的キナーゼ活性測定法のプロトタイプが開発された。抗EGFR抗体薬に対する感受性が異なる大腸癌細胞株では、キナーゼ活性プロファイルが異なっていたため、LC-MS/MSを用いた包括的キナーゼ活性測定が抗EGFR抗体薬の効果予測に有用であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313065B
報告書区分
総合
研究課題名
キナーゼ活性化レベル測定SRM法による抗EGFR抗体薬効果予測診断法の開発
課題番号
H24-3次がん-若手-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
久家 貴寿(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 朝長 毅(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト )
  • 足立 淳(独立行政法人 医薬基盤研究所 創薬基盤研究部 プロテオームリサーチプロジェクト )
  • 松原 久裕(千葉大学大学院 医学研究院 先端応用外科学)
  • 星野 敢(千葉大学医学部附属病院 消化器外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗EGFRチロシンキナーゼ抗体薬は大腸がんなどの治療薬として用いられている。抗EGFR抗体薬の効果予測は、KRAS遺伝子変異検査によって行われるが、適応患者(KRAS遺伝子変異無し)と診断されても、依然として30~40%程度の奏功率である。KRAS遺伝子変異以外で、抗EGFR抗体薬に対する耐性化が生じるメカニズムとしては、EGFRシグナル関連キナーゼの恒常的活性化などが挙げられる。したがって、EGFR関連キナーゼの活性測定は、抗EGFR抗体薬効果予測法の改善策となりうる。本研究の目的は、EGFR関連キナーゼの活性化状態を、質量解析計を用いて、包括的に解析する技術を開発することであり、キナーゼ活性測定が、抗EGFR抗体薬の効果予測診断法となりうるのかを検証することである。
研究方法
多くのキナーゼは、活性化ループ領域などがリン酸化修飾される事で、活性型コンフォメーションに変換される。したがって、活性化ループなど特定部位のリン酸化修飾は、キナーゼの活性化状態を知るためのサロゲートマーカーになる。本研究では、LC-MS/MSを使って、各種キナーゼの活性化指標リン酸化修飾を包括的に測定する技術の開発を行った。特に、感度・特異度に優れた、三連四重極型質量解析計を用いたSRM法での測定法開発に力を入れた。また、包括的キナーゼ活性測定で抗EGFR抗体薬の効果予測が可能なのかどうかを検討するために、大腸癌培養細胞株を抗EGFR抗体薬感受性株と耐性株に分類し、それらのキナーゼ活性化状態をプロファイリングした。具体的には、大腸癌培養細胞株からタンパク質を抽出し、35種の活性型キナーゼ抗体を用いたウエスタンブロットを行った。
結果と考察
キナーゼの活性化指標リン酸化修飾をLC-MS/MSで測定する技術のプロトタイプを2種類完成させた。1つ目は、キナーゼの活性化指標リン酸化修飾を直接LC-MS/MSで検出する方法である。この方法は、リン酸化抗体を必要としない点で、これまでにない画期的な方法である。タンパク質溶液をトリプシン消化し、リン酸化ペプチドをIMAC法で濃縮した後に、キナーゼ活性化指標リン酸化修飾を含むリン酸化ペプチドをLC-MS/MSで測定する。先ずは、キナーゼの活性化指標リン酸化修飾が実際にLC-MS/MSで測定できるのかどうかを調べた。200種類を超えるリコンビナントキナーゼのショットガンプロテオミクス解析などを行った結果、185種のキナーゼの活性化指標リン酸化修飾がLC-MS/MSで検出できることが明らかとなった。そのうちの60種のキナーゼについて、SRM法で測定する条件を設定した。60種のキナーゼの活性化指標リン酸化ペプチドに対して、それぞれに安定同位体標識標準ペプチドを合成し、測定に必要なチャネル設定リストを作成した。60種のキナーゼうちの一部については、内在性レベルで活性測定できることを確認した。全てのキナーゼの活性化状態を内在性レベルで検出するには、まだ感度が足りなかったため、現在、測定法の改良を進めている。2つ目に開発した包括的キナーゼ活性測定法は、活性型キナーゼをアフィニティー精製し、精製した活性型キナーゼの量をLC-MS/MSで定量する方法である。この方法は、活性型キナーゼに対する抗体を必要とするが、ELISAなどでは区別することのできない類似性の高いキナーゼでも、容易に区別して活性測定する事ができる。先ずは、アフィニティー精製に使用可能な活性型キナーゼ抗体を市販抗体から検索し、24種類を選びだした。次に、それら抗体を使ったアフィニティー精製法を確立し、さらにアフィニティー精製したキナーゼをLC-MS/MSで測定する手順を確立した。この測定法で大腸癌培養細胞株を解析し、実際に、Erk1/2/7、Mek1/2、TAOK1/2/3などのサブファミリーを区別して活性測定できることを実証した。24種の活性型キナーゼ抗体を同時に用いて、キナーゼ活性測定を行えば、理論上は40~50種類以上のキナーゼの活性化状態を一度に測定する事ができる。現在、複数の活性型キナーゼ抗体を用いた精製法の開発を進めている。また、抗EGFR抗体薬感受性および耐性大腸癌細胞株のキナーゼ活性プロファイルを調べた結果は、特定のキナーゼの活性化状態が抗EGFR抗体薬の感受性と関係している事を示唆していた。
結論
本研究により、LC-MS/MSを用いた包括的キナーゼ活性測定法のプロトタイプが開発された。抗EGFR抗体薬に対する感受性が異なる大腸癌細胞株では、キナーゼ活性プロファイルが異なっていたため、LC-MS/MSを用いた包括的キナーゼ活性測定が抗EGFR抗体薬の効果予測に有用であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313065C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗EGFR抗体薬の効果予測は、KRASなどのEGFRシグナル構成因子の遺伝子変異検査で行う事ができる。しかし、遺伝子レベルで正常でも、抗EGFR抗体薬の奏功率は40%前後であり、さらなる予測精度が望まれる。本研究では、EGFRシグナル関連キナーゼの活性化状態を、LC-MS/MSで包括的に測定するための基盤技術を開発し、その技術が抗EGFR抗体薬の効果予測に有効である可能性を示した。LC-MS/MSを使った包括的キナーゼ活性測定法は、今後、基礎研究領域から応用研究領域まで広く貢献すると考えている。
臨床的観点からの成果
抗EGFR抗体薬はほとんどの患者で皮膚障害が生じるため、QOLに影響を与える。また、薬価も非常に高額なため、無駄な投薬は患者にとって大きなデメリットとなる。本研究期間では、新規抗EGFR抗体薬効果予測法の検証を、実際の臨床検体で行うには至らなかったため、この点については、今後の課題としたい。EGFRに限らず、多くのキナーゼががん治療の標的分子と目されている。LC-MS/MSを用いた包括的キナーゼ活性測定法は、他のキナーゼ標的薬の効果予測にも応用できるのではないかと考えている。
ガイドライン等の開発
本研究は、ガイドラインなどの開発には関わっていない。しかし、今後、革新的な抗EGFR抗体薬効果予測法を開発し、ガイドラインの改定に繋がるエビデンスを提示したいと考えている。
その他行政的観点からの成果
近年、分子標的薬の開発が盛んに行われており、それに伴って、コンパニオン診断の重要性も増している。高額な分子標的薬の効果予測を的確に行い、無駄な投薬を避けることができれば、それは医療費の削減につながる。包括的キナーゼ活性測定法が確立すれば、抗EGFR抗体薬の効果予測だけでなく、一度の試験で、それぞれの患者に最適なキナーゼ阻害剤を選択する事も可能になってくると期待している。今後、LC-MS/MSを使った革新的なキナーゼ標的薬効果予測法を確立する事で、医療財政に貢献したい。
その他のインパクト
質量解析計は抗体を必要とすることなく、バイオマーカーを高感度に検出する事の出来る機器ではあるが、医療現場での応用はほとんど進んでいない。我々は、研究分担者である朝長毅を中心に、質量解析計を用いた臨床診断技術の開発を進めている。今回の、キナーゼ活性化レベル測定SRM法による抗EGFR抗体薬効果予測法の開発も、上記目的の一環と言える。本研究を通じて、質量解析計の臨床応用化を進めたい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
大腸癌治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2013/003669
発明者名: 朝長 毅、久家貴寿、久米秀明
権利者名: 独立行政法人医薬基盤研究所
出願年月日: 20130611
特許の名称
大腸がんの判定方法
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2013/007292
発明者名: 朝長 毅、久米秀明
権利者名: 独立行政法人医薬基盤研究所
出願年月日: 20131211

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
2018-06-08

収支報告書

文献番号
201313065Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,998,940円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 1,060円
間接経費 900,000円
合計 3,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-