腫瘍細胞選択的新規抗がん剤としての葉酸修飾メチル-β-シクロデキストリンの細胞死誘導機構の解明 

文献情報

文献番号
201313063A
報告書区分
総括
研究課題名
腫瘍細胞選択的新規抗がん剤としての葉酸修飾メチル-β-シクロデキストリンの細胞死誘導機構の解明 
課題番号
H24-3次がん-若手-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
本山 敬一(熊本大学 大学院生命科学研究部 製剤設計学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CyD)は形質膜上の脂質ラフトからコレステロールを遊離させることにより、PI3K-Akt-Bad経路を介した細胞生存シグナルを阻害し、アポトーシスを誘導することを明らかにした。一方、葉酸レセプター(FR-α)は各種上皮がんで過剰発現しているため、葉酸(FA)はがん標的リガンドとして汎用されている。これまで我々は、M-β-CyDのがん細胞選択性および抗腫瘍効果の増大を企図して、M-β-CyDにFAを導入したFA-M-β-CyDを新規に調製し、FA-M-β-CyDがFR-α高発現細胞に対して殺細胞効果を示すことを明らかにした。そこで本研究では、FA-M-β-CyDの抗腫瘍活性および細胞死誘導機構について検討した。
研究方法
FA-M-β-CyDのin vitro抗腫瘍活性は、FR-α高発現細胞であるKB細胞を用いてWST-1 法により評価した。FA-M-β-CyDの細胞会合は、TRITC-FA-M-β-CyDを用いて、フローサイトメトリーにて検討した。オートファゴソーム形成に及ぼすFA-M-β-CyDの影響は、Cyto-IDを用いて染色し、蛍光顕微鏡により観察した。FA-M-β-CyD のin vivo 抗腫瘍活性は、FR-α高発現がん細胞を用いて作成した担がんマウスに FA-M-β-CyDを尾静脈内に単回投与し、腫瘍体積および生存率について検討した。
結果と考察
FA-M-β-CyDは、KB細胞において濃度依存的かつ、DM-β-CyDには劣るものの、β-CyDおよびM-β-CyDと比較して有意に高い抗腫瘍活性を示した。一方、A549細胞においてDM-β-CyDはKB細胞と同様に強い細胞障害性を示したが、FA-M-β-CyDは10 mMまで抗腫瘍活性を示さなかった。一般に、CyDは親水性かつ分子量が約 1000と大きいことから細胞内に取り込まれにくいことが知られている。次に、TRITC-FA-M-β-CyDを用いて、各種FR-α高発現細胞との細胞会合に及ぼすFR 競合阻害剤の影響を検討した。その結果、TRITC-FA-M-β-CyDは、KB細胞と会合することが示唆された。また、TRITC-FA-M-β-CyD のヒストグラムのピークは、FA添加により左側にシフトした。また、蛍光顕微鏡による観察から、TRITC-FA-M-β-CyDはKB細胞内に取り込まれることが確認された。さらに、FAの蛍光強度を指標に、FA-M-β-CyDの細胞会合量を調べたところ、KB細胞に対するFA-M-β-CyDの会合量は、A549細胞の系よりも有意に高いことが示唆された。次に、オートファゴソーム形成に及ぼすFA-M-β-CyDの影響を検討した。M-β-CyDは適用後2時間でLC3-II由来の蛍光は観察されなかった。一方、FA-M-β-CyD では、LC3-II由来の蛍光が顕著に増大した。さらに、オートファジー阻害剤であるLY294002の添加により、LC3-II由来の蛍光は著しく減弱した。これらの結果より、FA-M-β-CyDは、オートファジーを誘導することが示唆された。次に、FA-M-β-CyDのin vivo抗腫瘍活性を検討するため、Colon-26細胞(FR-α(+))を用いて作成した担がんマウスに FA-M-β-CyDを尾静脈内に単回投与し、腫瘍体積、体重および生存率について検討した。担がんマウス尾静脈内に単回投与後の腫瘍体積変化を調べたところ、コントロール群と比較して、FA-M-β-CyD投与群では顕著に腫瘍の成長を抑制した。さらに、コントロール群では、Colon-26細胞を移植後 70日目までに全例死亡したのに対して、FA-M-β-CyD投与群では、140日目においても100% の生存率を示した。これらの結果より、FA-M-β-CyD はin vivoにおいても優れた抗腫瘍活性を有することが示唆された。
結論
FA-M-β-CyD は、in vitro および in vivo において FR-α 高発現細胞選択的抗がん剤として有用であり、その抗腫瘍効果に FR-αを介したがん細胞選択的な取り込みおよびオートファジーの関与が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201313063B
報告書区分
総合
研究課題名
腫瘍細胞選択的新規抗がん剤としての葉酸修飾メチル-β-シクロデキストリンの細胞死誘導機構の解明 
課題番号
H24-3次がん-若手-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
本山 敬一(熊本大学 大学院生命科学研究部 製剤設計学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CyD)は形質膜上の脂質ラフトからコレステロールを遊離させることにより、PI3K-Akt-Bad経路を介した細胞生存シグナルを阻害し、アポトーシスを誘導することを明らかにした。一方、葉酸レセプター(FR-α)は各種上皮がんで過剰発現しているため、葉酸(FA)はがん標的リガンドとして汎用されている。これまで我々は、M-β-CyDのがん細胞選択性および抗腫瘍効果の増大を企図して、M-β-CyDにFAを導入したFA-M-β-CyDを新規に調製し、FA-M-β-CyDがFR-α高発現細胞に対して殺細胞効果を示すことを明らかにした。そこで本研究では、FA-M-β-CyDの抗腫瘍活性および細胞死誘導機構について検討した。
研究方法
FA-M-β-CyDのin vitro抗腫瘍活性は、FR-α高発現細胞であるKB細胞を用いてWST-1 法により評価した。FA-M-β-CyDの細胞会合は、TRITC-FA-M-β-CyDを用いて、フローサイトメトリーにて検討した。オートファゴソーム形成に及ぼすFA-M-β-CyDの影響は、Cyto-IDを用いて染色し、蛍光顕微鏡により観察した。FA-M-β-CyD のin vivo 抗腫瘍活性は、FR-α高発現がん細胞を用いて作成した担がんマウスに FA-M-β-CyDを尾静脈内に単回投与し、腫瘍体積および生存率について検討した。
結果と考察
FA-M-β-CyDは、KB細胞において濃度依存的かつ、DM-β-CyDには劣るものの、β-CyDおよびM-β-CyDと比較して有意に高い抗腫瘍活性を示した。一方、A549細胞においてDM-β-CyDはKB細胞と同様に強い細胞障害性を示したが、FA-M-β-CyDは10 mMまで抗腫瘍活性を示さなかった。一般に、CyDは親水性かつ分子量が約 1000と大きいことから細胞内に取り込まれにくいことが知られている。次に、TRITC-FA-M-β-CyDを用いて、各種FR-α高発現細胞との細胞会合に及ぼすFR 競合阻害剤の影響を検討した。その結果、TRITC-FA-M-β-CyDは、KB細胞と会合することが示唆された。また、TRITC-FA-M-β-CyD のヒストグラムのピークは、FA添加により左側にシフトした。また、蛍光顕微鏡による観察から、TRITC-FA-M-β-CyDはKB細胞内に取り込まれることが確認された。さらに、FAの蛍光強度を指標に、FA-M-β-CyDの細胞会合量を調べたところ、KB細胞に対するFA-M-β-CyDの会合量は、A549細胞の系よりも有意に高いことが示唆された。次に、オートファゴソーム形成に及ぼすFA-M-β-CyDの影響を検討した。M-β-CyDは適用後2時間でLC3-II由来の蛍光は観察されなかった。一方、FA-M-β-CyD では、LC3-II由来の蛍光が顕著に増大した。さらに、オートファジー阻害剤であるLY294002の添加により、LC3-II由来の蛍光は著しく減弱した。これらの結果より、FA-M-β-CyDは、オートファジーを誘導することが示唆された。次に、FA-M-β-CyDのin vivo抗腫瘍活性を検討するため、Colon-26細胞(FR-α(+))を用いて作成した担がんマウスに FA-M-β-CyDを尾静脈内に単回投与し、腫瘍体積、体重および生存率について検討した。担がんマウス尾静脈内に単回投与後の腫瘍体積変化を調べたところ、コントロール群と比較して、FA-M-β-CyD投与群では顕著に腫瘍の成長を抑制した。さらに、コントロール群では、Colon-26細胞を移植後 70日目までに全例死亡したのに対して、FA-M-β-CyD投与群では、140日目においても100% の生存率を示した。これらの結果より、FA-M-β-CyD はin vivoにおいても優れた抗腫瘍活性を有することが示唆された。
結論
FA-M-β-CyD は、in vitro および in vivo において FR-α 高発現細胞選択的抗がん剤として有用であり、その抗腫瘍効果に FR-αを介したがん細胞選択的な取り込みおよびオートファジーの関与が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201313063C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の目的は、腫瘍細胞選択的新規抗がん剤として期待される葉酸修飾メチル-β-シクロデキストリン(FA-M-β-CyD)の抗腫瘍活性および細胞死誘導機構を明らかにすることである。FA-M-β-CyDは葉酸レセプター(FR)介して細胞会合し、オートファジー性の細胞死を誘導することが明らかとなった。担がんマウスに FA-M-β-CyD を尾静脈内に単回投与し、腫瘍体積および生存率について検討したところ、コントロール群と比較して、FA-M-β-CyD投与群では顕著に腫瘍の成長を抑制した。
臨床的観点からの成果
近年、我が国における新薬の創出が著しく減少している中、日本オリジナルの化合物を治験に進め、新薬を国内から創出させることは厚生労働行政の施策上、極めて重要である。本申請課題で対象とする FA-M--CyD は、優れた腫瘍細胞選択性を有し、新規作用メカニズムに基づく強力な抗腫瘍活性を有する抗がん剤候補化合物である。今後、FA-M-β-CyD の安全性、作用メカニズムの詳細を明らかにすることで、治験への道が開かれるものと期待する。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
本プロジェクトの内容が評価され、下記の賞を受賞した。2012年9月6日 シクロデキストリン学会奨励賞、2014年5月31日 The 17th International Cyclodextrin Symposium 2014 (Saarbrücken, Germany), The 1st Józef Szejtli Award、2014年12月6日 日本薬学会九州支部学術奨励賞、2016年5月20日 日本薬剤学会奨励賞

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
R. Onodera, K. Motoyama, A. Okamatsu, et al
Potential Use of Folate-appended Methyl-β-Cyclodextrin as an Anticancer Agent
Scintific Reports , 3 , 1-9  (2013)
原著論文2
R. Onodera, K. Motoyama, A. Okamatsu, et al
Involvement of Cholesterol Depletion from Lipid Rafts in Apoptosis Induced by Methyl-β-cyclodextrin
International Journal of Pharmaceutics , 452 , 116-123  (2013)
原著論文3
R. Onodera, K. Motoyama, N. Tanaka, et al
Involvement of Autophagy in Antitumor Activity of Foalte-appended Methyl-β-cyclodextrin
Scintific Reports , 4 , 1-8  (2014)
原著論文4
K. Motoyama, R. Onodera, N. Tanaka, K. Kameyama, T. Higashi, R. Kariya, S. Okada, H. Arima
Evaluation of antitumor effect of folate-conjugated methyl-β-cyclodextrin for melanoma
Biological&Pharmaceutical Bulletin , 38 , 374-379  (2015)
原著論文5
K. Kameyama, K. Motoyama, N. Tanaka, Y. Yamashita, T. Higashi, H. Arima
Induction of mitophagy-mediated antitumor activity with folate-appended methyl-β-cyclodextrin
International Journal of Nanomedicine , 12 , 3433-3446  (2017)
doi: 10.2147/IJN.S133482

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201313063Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,100,000円
(2)補助金確定額
4,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,916,220円
人件費・謝金 0円
旅費 218,980円
その他 18,800円
間接経費 946,000円
合計 4,100,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-