乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験

文献情報

文献番号
201313056A
報告書区分
総括
研究課題名
乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験
課題番号
H25-3次がん-指定-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大内 憲明(東北大学 医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 東野 英利子(公益財団法人筑波メディカルセンターつくば総合健診センター)
  • 祖父江 友孝(大阪大学大学院医学系研究科環境医学)
  • 斎藤 博(国立がん研究センター・がん予防検診センター・消化器学)
  • 山本 精一郎(国立がん研究センター・がん対策情報センター・生物統計学)
  • 遠藤 登喜子(国立病院機構名古屋医療センター放射線科)
  • 石田 孝宣(東北大学大学院医学系研究科・腫瘍外科学)
  • 深尾 彰(山形大学医学部・公衆衛生学)
  • 栗山 進一(東北大学災害科学国際研究所)
  • 山口 拓洋(東北大学大学院・医学系研究科・医学統計分野)
  • 川上 浩司(京都大学大学院医学研究科・薬剤疫学)
  • 鈴木 昭彦(東北大学病院・乳腺・内分泌外科)
  • 成川 洋子(東北大学・東北メディカル・メガバンク機構・予防医学・疫学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
114,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マンモグラフィは検診における死亡率低減効果が科学的に証明された唯一の乳がん検診法であり、我が国においても40歳以上の女性に対する検診方法として導入されている。しかし年齢階層別にその有効性を検証すると、50歳以上の女性では明らかな有効性が証明されているが、40歳代の検診に関してはその発見率の低さや、偽陽性率の高さなどから、有効性を疑問視する意見もある。
 本研究では、40歳代女性を対象とする乳がん検診の方法として、超音波による検診の標準化を図った上で、マンモグラフィに超音波検査を併用する(介入)群と併用しない(非介入)群との間でランダム化比較試験を行い、2群間で検診精度と有効性を検証することを目的とする。なお、がん検診の有効性評価の最も重要な指標はがん死亡率であるが、乳がんの自然史を考えるに、有意な群間差を観察するには研究期間は短すぎるため、終了後も追跡できる体制を整備することが必要となる。
研究方法
1.超音波検査による乳がん検診の標準化と普及にむけて超音波による乳がん検診ガイドラインを作成した。並びに、一次検診の主体となる医師、技師に対しての乳房超音波講習会を構成、開催し精度管理を行った。
 2.超音波による乳がん検診の有効性を検証するために、40歳から49歳女性を対象に、1) 超音波検診を併用する群(介入群):(マンモグラフィ+超音波、またはマンモグラフィ+視触診+超音波) 、2)超音波検診を併用しない群(非介入群):(マンモグラフィのみ、またはマンモグラフィ+視触診)の2群を設定して、ランダム化比較試験を実施した。目標受診者数は、各群5万人、両群で10万人である。
研究期間内に評価するプライマリ・エンドポイントとして、感度・特異度及び発見率を2群間で比較する。セカンダリ・エンドポイントとして、追跡期間中の累積*進行乳がん罹患率を2群間で比較する。
結果と考察
1)超音波検査による乳がん検診の標準化と普及
乳がん検診の標準化に向けて「超音波による乳がん検診ガイドライン」に改良を重ねた。さらに、当ガイドラインに沿った形で乳房超音波講習会を全国で開催し、受講者総数は医師1,814名、技師2,084名となった。
2)有効性検証のためのランダム化比較試験の実施
 平成19年度からの累積登録者数は76,196人(介入群38,313人、非介入群37,883人)となっている。
 登録数を研究デザイン別に見ると、個別RCTが71.0%(介入群35.5%、非介入群35.5%)、クラスターRCTが25.0%(介入群12.9%、非介入群12.1%)であり、非ランダム化比較試験は3.9%(介入群1.8%、非介入群2.1%)である。 平成24年度末までに予定されている2回目検診の受診は終了となり、平成25年度は検診結果の把握、精密検査結果の把握、2回目検診未受信者のアンケート調査、がん症例の登録とデータクリーニングを行っている。平成25年度に登録症例の追跡とデータクリーニングを行った結果、ランダム化の後に明らかとなった不適格症例や同意撤回症例を除いた介入群38,269例、非介入群37,534例に対して、初回検診の成績(プライマリ・エンドポイント)に関する集計を行っている。更に、初回検診で乳癌と診断された症例、検診を受けた後での同意撤回を申し出た症例などを除いた75,359例が、二回目検診の対象者として調査を進めており、74.5%が受診を完了、さらに22.0%の受診者にはアンケート、葉書での連絡の結果、追跡調査が済んでいる。受診予定者(初回登録者)の未把握率は平成25年12月末日時点で3.5%となり、研究計画時に目標とした5%未満の未把握率を達成できた。平成25年12月31日をもって初回検診のデータの固定を決定、平成26年度中の初期データの公表を準備している
結論
第一の目的である超音波による乳がん検診の標準化にしては、超音波講習会等の実施により、超音波による乳がん検診の普及と標準化がほぼ完成した。
 第二の目的である、ランダム化比較試験による乳がん検診の有効性の検証に関して、新規登録者数が76,196名に達した。8万人に迫るRCTはわが国初であり、世界でも最大規模である。登録症例の96.1%がRCTであり、さらにエビデンスレベルが最も高い個別RCTが71.1%であったことは特筆すべき成果と云える。
 本研究期間中の中間解析は、研究結果へのバイアスを回避するため、行って来なかったが、未把握率5%未満の達成を受けて、データモニタリング委員会及び統計解析委員会による議論の結果、平成25年12月31日をもって初回検診のデータの固定を決定した。平成26年度中にプライマリ・エンドポイントである感度・特異度、がん発見率等の解析結果を公表する計画である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313056C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 平成27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の補助金を受け、研究を継続実施している。  平成26年度は、データをクリーニングし、初回検診の感度、特異度、がん発見率(プライマリ・エンドポイント)のデータ集計と論文作成を行い、平成27年11月にThe Lancetに掲載となった。現在は、セカンダリ・エンドポイント解析に向けて、検診発見・中間期がんの病理データの把握につとめ、検診方法別の累積進行乳がん比率等の調査研究を進めている。
臨床的観点からの成果
平成26年度までに、超音波乳がん検診の標準化に関しては、乳房超音波検診に関する教育プログラムを策定し、全国的に講習会を実施した。医師1,814名、技師2,084名が受講を終了しており、超音波による乳がん検診の標準化・普及に向けて大きな成果が得られた。さらに、国内外の臨床及び検診で用いることができるよう超音波による乳癌検診のガイドラインを日本語および英語で作成した。
ガイドライン等の開発
 2010年9月「超音波による乳がん検診ガイドライン Ver.5.1」J-START研究班・日本乳癌検診学会・日本乳腺甲状腺超音波診断会議(共編)。2016年3月「Quality assurance guideline for adjunctive ultrasonography in breast cancer screening.」Eriko Tohno, Noriaki Ohuchi, et al(日本医療研究開発機構(AMED)事業).
その他行政的観点からの成果
平成27年4月23日の厚生労働省「第13回がん検診のあり方に関する検討会」に報告され、「超音波検査は特に高濃度乳腺の者に対してマンモグラフィ単独に比べて感度及びがん発見率が優れていることから対策型検診として導入される可能性がある。しかし、死亡率減少効果や実施体制等について引き続き検証していく必要がある」と中間報告書に記載されたことから行政的観点からの成果は極めて大きい。死亡率減少効果に関しては、住民票調査、地域がん登録および人口動態調査などの外部データと照合し、今後長期の経過観察を要する。
その他のインパクト
平成27年11月のThe Lancet掲載後、50を越える新聞・雑誌、テレビの全国版ニュースで成果が報告された。研究参加者には平成28年1月にニュースレターで成果と進捗を報告し、2015年10月の市民公開講座、2016年3月の日本医療研究開発機構(AMED)主催市民向け成果発表会【すすむがん研究 変わる未来 ― がん研究者たちの挑戦】を通じて広く国民への成果報告を行った。その他、海外の研究者・メディアからの問合せが殺到しており、すでに複数の論文に本研究論文が引用されている。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
36件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
54件
市民公開講座、メディア掲載。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohuchi N, Suzuki A, Sobue T, et al.
Sensitivity and specificity of ultrasound and mammography screening for breast cancer, and stage distribution of detected cancers: results of the Japan strategic anti-cancer randomised controlled trial (J-START).
The Lancet , 387 (10016) , 341-348  (2015)
doi: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)00774-6
原著論文2
Suzuki A, Ishida T, Ohuchi N.
Controversies in breast cancer screening for women aged 40-49 years.
9 years. Japanese Journal of Clinical Oncology , 44 (7) , 613-618  (2014)
doi: 10.1093/jjco/hyu054.
原著論文3
Shiono YN, Zheng YF, Kikuya M, Kawai M,et al.
Participants' understanding of a randomized controlled trial (RCT) through informed consent procedures in the RCT for breast cancer screening, J-START
Trials , 15 (375)  (2014)
doi:10.1186/1745-6215-15-375

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201313056Z