文献情報
文献番号
201313054A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい薬物療法の導入とその最適化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-3次がん-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田村 友秀(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院 呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
- 小泉 史明(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所)
- 西尾 和人(近畿大学 医学部)
- 杉本 芳一(慶應義塾大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
18,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
分子標的治療薬を中心とした新しい薬物療法について、(1)臨床検体を用いた効果、毒性のバイオマーカーおおび規定因子の解析、(2)細胞株などを用いた基礎における薬剤感受性/耐性規定因子の解明により、治療の個別化・最適化を確立し、治療成績の飛躍的向上を狙う。
研究方法
本研究組織は、研究代表者の他、3名の分担研究者で構成する。基礎研究においては、生物の多様性の確保に関する法律、厚生労働省の所轄する実施機関における動物実験等の実施に関する基本方針等を遵守し、IRB承認を得て実施した。臨床研究および臨床材料を用いた解析については、疫学研究、臨床研究、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する各倫理指針に従い、IRB承認、被験者の同意、個人情報の厳守を必須とする。
結果と考察
(1)胃癌・食道癌におけるFGF/FGFR遺伝子異常
胃癌臨床検体のFGFR遺伝子増幅頻度は、FGFR1: 0% (0/152), FGFR2: 0% (11/267), FGFR3: 0% (0/152), FGFR4: 0% (0/152)であった。食道癌では、FGFR2遺伝子増幅を4% (8/196)に、FGF3/FGF4の存在する11q13領域の異常を40% (77/194)に認めた。FGFR1とFGF3/FGF4のco-amplificationを46% (13/28)に認めた。FGFR2遺伝子増幅胃癌細胞株、FGF4遺伝子導入肺癌・大腸癌細胞株はFGFR阻害剤に対し高い感受性を示した。
(2)抗体治療の感受性個体差予測
これまでに、Heat-aggrigated IgG(HAG)刺激した白血球のサイトカインmRNA発現でADCC個体差が評価でき効果とも相関することを示した。今回、多施設共同臨床試験の準備として、HAGを採血管内に付着させ採血と同時に刺激を開始、自動的に約4時間37度で保温できる持ち運び可能なシステムを開発した。
(3)EGFR阻害剤による肺障害関連遺伝子
疾患対象関連解析からEGFR阻害剤による肺障害に関わる遺伝子多型としてABCB1(P-gp)のrs28364274を報告した。本年は、この多型が、P-gpの発現と機能に及ぼす影響を検討した。本SNP型P-gpをNIH3T3細胞に安定発現させたところ、P-gp発現量に変化なく、ビンクリスチン輸送、ゲフィチニブによるP-gp阻害にも影響を与えず、この多型の役割を明らかにすることはできなかった。
(4)血管新生阻害剤におけるCEC(血中循環内皮細胞)
これまでに、血管新生阻害作用をもつパクリタキセルとカルボプラチンの併用療法において、治療前CEC値が効果予測因子である可能性を報告した。今回カルボプラチン+パクリタキセルと血管新生阻害剤とされる抗VEGF-A抗体ベバシズマブ併用療法において、同様の検討を行ったが、腫瘍縮小効果との関連を見出すことができなかった。
(5)P-gpの分解機構
P-gpのC末にFLAGタグとHAタグを付加したP-gp-Cの免疫沈降によりC末に結合する22候補タンパク質の1つとしてubiquitin E3 ligaseのFBXO15に同定した。プロテアソーム阻害薬MG132、リソソーム阻害薬を用いた検討から、P-gpの分解にユビキチン-プロテアソーム系が関与することを示した。さらにFBXO15とE2 enzymeであるUbe2r1が協同してユビキチン-プロテアソーム系によるP-gpのユビキチン化と分解に働くことを見い出した。
薬物療法では、臨床効果や毒性に大きな個体差が存在し、有効例でもいずれ耐性を生じる。最大限の効果を得るには、「適切な患者に適切な治療を」という薬物療法の最適化が必要である。本研究で得られた、効果毒性など薬力学的作用のメカニズム、バイオマーカー・感受性規定因子の解析、耐性機構の解明は、個別化治療に向けた重要な知見といえる。
胃癌臨床検体のFGFR遺伝子増幅頻度は、FGFR1: 0% (0/152), FGFR2: 0% (11/267), FGFR3: 0% (0/152), FGFR4: 0% (0/152)であった。食道癌では、FGFR2遺伝子増幅を4% (8/196)に、FGF3/FGF4の存在する11q13領域の異常を40% (77/194)に認めた。FGFR1とFGF3/FGF4のco-amplificationを46% (13/28)に認めた。FGFR2遺伝子増幅胃癌細胞株、FGF4遺伝子導入肺癌・大腸癌細胞株はFGFR阻害剤に対し高い感受性を示した。
(2)抗体治療の感受性個体差予測
これまでに、Heat-aggrigated IgG(HAG)刺激した白血球のサイトカインmRNA発現でADCC個体差が評価でき効果とも相関することを示した。今回、多施設共同臨床試験の準備として、HAGを採血管内に付着させ採血と同時に刺激を開始、自動的に約4時間37度で保温できる持ち運び可能なシステムを開発した。
(3)EGFR阻害剤による肺障害関連遺伝子
疾患対象関連解析からEGFR阻害剤による肺障害に関わる遺伝子多型としてABCB1(P-gp)のrs28364274を報告した。本年は、この多型が、P-gpの発現と機能に及ぼす影響を検討した。本SNP型P-gpをNIH3T3細胞に安定発現させたところ、P-gp発現量に変化なく、ビンクリスチン輸送、ゲフィチニブによるP-gp阻害にも影響を与えず、この多型の役割を明らかにすることはできなかった。
(4)血管新生阻害剤におけるCEC(血中循環内皮細胞)
これまでに、血管新生阻害作用をもつパクリタキセルとカルボプラチンの併用療法において、治療前CEC値が効果予測因子である可能性を報告した。今回カルボプラチン+パクリタキセルと血管新生阻害剤とされる抗VEGF-A抗体ベバシズマブ併用療法において、同様の検討を行ったが、腫瘍縮小効果との関連を見出すことができなかった。
(5)P-gpの分解機構
P-gpのC末にFLAGタグとHAタグを付加したP-gp-Cの免疫沈降によりC末に結合する22候補タンパク質の1つとしてubiquitin E3 ligaseのFBXO15に同定した。プロテアソーム阻害薬MG132、リソソーム阻害薬を用いた検討から、P-gpの分解にユビキチン-プロテアソーム系が関与することを示した。さらにFBXO15とE2 enzymeであるUbe2r1が協同してユビキチン-プロテアソーム系によるP-gpのユビキチン化と分解に働くことを見い出した。
薬物療法では、臨床効果や毒性に大きな個体差が存在し、有効例でもいずれ耐性を生じる。最大限の効果を得るには、「適切な患者に適切な治療を」という薬物療法の最適化が必要である。本研究で得られた、効果毒性など薬力学的作用のメカニズム、バイオマーカー・感受性規定因子の解析、耐性機構の解明は、個別化治療に向けた重要な知見といえる。
結論
(1)胃癌、食道癌の臨床検体においてFGFs、FGFR1-4の遺伝子増幅を認め、これらの異常をもつ細胞株はFGFR阻害剤に高い感受性を示した。(2)抗体治療効果に関わるADCC活性の個体差の臨床評価のため、採血と同時に白血球を刺激、一定時間自動保温するシステムを開発した。(3)EGFR阻害剤による急性肺障害研に関連する遺伝子多型として抽出したABCB1(P-gp)のrs28364274の機能解析では本多型の役割を明らかにすることはできなかった。(4)血管新生阻害剤であるベバシズマブ併用化学療法を受ける肺癌患者の検討で、CECの効果予測因子としての意義は見い出せなかった。(5) ubiquitin E3 ligaseのFBXO15が、ubiquitin E2 enzymeのUbe2r1と協同してP-gpのポリユビキチン化と分解を担うことを明らかにした。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
-