文献情報
文献番号
201313052A
報告書区分
総括
研究課題名
癌転移能を規定する宿主側のユビキチン化機構の解明
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-3次がん-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中山 敬一(国立大学法人九州大学 生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、癌転移における癌ニッチ細胞の影響性が注目されている。本研究課題では、癌転移抑制因子Fbxw7を基軸に、癌ニッチ形成により癌転移が促進される新規分子メカニズムを解明することを目的とした。
研究方法
骨髄細胞におけるFbxw7欠損により癌転移が促進する分子メカニズムを、生化学、細胞生物学、遺伝学的手法を用いて解析する。
① Fbxw7 欠損マウスのニッチ形成中心細胞の同定
② Fbxw7欠損により亢進するニッチ形成促進因子(もしくは減少するニッチ形成阻害因子)の同定
③ Fbxw7欠損による転移促進機構の解明
① Fbxw7 欠損マウスのニッチ形成中心細胞の同定
② Fbxw7欠損により亢進するニッチ形成促進因子(もしくは減少するニッチ形成阻害因子)の同定
③ Fbxw7欠損による転移促進機構の解明
結果と考察
ヒト乳癌患者の末梢血中のFbxw7 mRNAの量をリアルタイムRT-PCRで定量したところ、予想外のことに血中Fbxw7の高い群は予後が良く、低い群は予後が悪いことが明らかとなった。骨髄特異的Fbxw7コンディショナルノックアウトマウスに種々の癌細胞を尾静脈から注射し、肺転移能を調べることによって行った。その結果、骨髄特異的Fbxw7コンディショナルノックアウトマウスでは、有意に転移が促進していた。さらにT細胞、B細胞、骨髄細胞の特異的Fbxw7コンディショナルノックアウトマウスを用いて同様の実験を行ったが、いずれも静注された癌細胞の転移能の亢進は認められなかった。次に、癌周辺細胞から癌転移を制御する分子としてサイトカイン・ケモカインが知られているので、骨髄特異的Fbxw7コンディショナルノックアウトマウスにおける血中サイトカイン・ケモカインアレイを行って、その動態を解析した。その結果、骨髄特異的Fbxw7コンディショナルノックアウトマウスでは血中CCL2、CCL12、CXCL13が有意に上昇していることが判明した。このうちCCL2とCCL12はマクロファージの遊走に関わるケモカインであり、同じ受容体(CCR2)に結合し、活性化することが知られている。そこでCCR2の阻害剤であるプロパゲルマニウムをマウス餌に混合して投与したところ、骨髄特異的Fbxw7コンディショナルノックアウトマウスにおける癌転移促進作用は有意に抑制され、この作用はCCR2を介した効果であることが明らかとなった。
骨髄由来細胞の中で、CCL2の産生源の一つとして間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: MSC)が知られている。われわれは、MSCにおいてFbxw7が欠損すると何らかの機序によってCCL2の産生が増加するのではないかと考え、Fbxw7欠損MSCを作製した。そこでCCL2の発現量を調べると、細胞内および分泌されるCCL2量が有意に増加していることが明らかとなった。次にFbxw7によってユビキチン化を受ける既知の分子群の発現状態を調べたところ、c-MycとNotch1が蓄積していることが判明した。このうちNotch阻害剤であるDAPTで、Fbxw7欠損によるCCL2の発現増加が抑制されたため、Notch1がCCL2の転写量増加に寄与していることが推察された。CCL2プロモーター配列を調べると、その上流部にNotch結合コンセンサスがあり、その領域を欠失すると、CCL2プロモーター活性が低下することから、Notch1の結合によってCCL2の転写量が上昇することが裏付けられた。
Fbxw7は今まで非常に強力な癌抑制遺伝子だと考えられてきたが、今回の研究によって、Fbxw7は癌細胞内だけではなく、癌細胞の外(ニッチ)においても、癌転移を抑制していることが明らかとなった。また、このメカニズムは、骨髄由来の間葉系幹細胞でFbxw7が欠失することによって、それによってユビキチン化依存生分解を受けるNotch1が分解されずに蓄積し、その結果、癌転移に関わるケモカインCCL2が過剰に分泌されることによって、癌転移を誘発するニッチを形成していることが明らかとなった。これはCCL2の受容体であるCCR2を阻害する薬剤プロパゲルマニウム(商品名セロシオン)によって阻害することができた。このことは、癌転移をプロパゲルマニウムによって抑制することができる可能性を示唆している。プロパゲルマニウムは現在、肝炎の治療に実際に使用されている既存薬であり、これは癌転移抑制のための有望なドラッグリポジショニングの候補になり得ると期待される。
骨髄由来細胞の中で、CCL2の産生源の一つとして間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: MSC)が知られている。われわれは、MSCにおいてFbxw7が欠損すると何らかの機序によってCCL2の産生が増加するのではないかと考え、Fbxw7欠損MSCを作製した。そこでCCL2の発現量を調べると、細胞内および分泌されるCCL2量が有意に増加していることが明らかとなった。次にFbxw7によってユビキチン化を受ける既知の分子群の発現状態を調べたところ、c-MycとNotch1が蓄積していることが判明した。このうちNotch阻害剤であるDAPTで、Fbxw7欠損によるCCL2の発現増加が抑制されたため、Notch1がCCL2の転写量増加に寄与していることが推察された。CCL2プロモーター配列を調べると、その上流部にNotch結合コンセンサスがあり、その領域を欠失すると、CCL2プロモーター活性が低下することから、Notch1の結合によってCCL2の転写量が上昇することが裏付けられた。
Fbxw7は今まで非常に強力な癌抑制遺伝子だと考えられてきたが、今回の研究によって、Fbxw7は癌細胞内だけではなく、癌細胞の外(ニッチ)においても、癌転移を抑制していることが明らかとなった。また、このメカニズムは、骨髄由来の間葉系幹細胞でFbxw7が欠失することによって、それによってユビキチン化依存生分解を受けるNotch1が分解されずに蓄積し、その結果、癌転移に関わるケモカインCCL2が過剰に分泌されることによって、癌転移を誘発するニッチを形成していることが明らかとなった。これはCCL2の受容体であるCCR2を阻害する薬剤プロパゲルマニウム(商品名セロシオン)によって阻害することができた。このことは、癌転移をプロパゲルマニウムによって抑制することができる可能性を示唆している。プロパゲルマニウムは現在、肝炎の治療に実際に使用されている既存薬であり、これは癌転移抑制のための有望なドラッグリポジショニングの候補になり得ると期待される。
結論
Fbxw7は癌細胞だけでなく、その周辺環境においても、癌転移を抑制しているユビキチンリガーゼである。Fbxw7の欠失は、骨髄由来の間葉系幹細胞でNotch1の蓄積を引き起こし、その結果としてCCL2が過剰に分泌されることによって、癌転移が促進する。この効果は既存薬であるプロパゲルマニウムで抑制することが可能である。
公開日・更新日
公開日
2016-07-14
更新日
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