難治性乳癌の克服に向けた画期的治療法の開発基盤推進研究

文献情報

文献番号
201313047A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性乳癌の克服に向けた画期的治療法の開発基盤推進研究
課題番号
H24-3次がん-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
三木 義男(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 豊雅(徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター)
  • 太田 智彦(聖マリアンナ医科大学院医学研究科)
  • 中田慎一郎(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 林 慎一(東北大学大学院 医学系研究科)
  • 大竹 史明(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,154,000円
研究者交替、所属機関変更
研究者交替情報  なし 所属機関変更情報 研究分担者 大竹 史明 東京大学分子細胞生物学研究所( 平成24年4月1日~24年6月30日)→ 国立医薬品食品衛生研究所(平成24年7月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「難治性乳がん」であるTriple Negative(TN)乳がんとホルモン療法耐性Luminal乳がんを対象に、
1. エクソーム・遺伝子発現解析
2. DNA修復経路における合成致死解析
3. ホルモン療法耐性獲得機序の解明
の3種のサブテーマを柱に、新規治療法の開発に向けた基礎研究と治療開発基盤の構築に取り組む。

研究方法
1. エクソーム・遺伝子発現解析
発現解析およびエクソーム解析によるTR乳がん関連分子の同定とその機能解析を進めた。TN乳がんにおけるエクソーム解析の結果を検証するため、新たなTN乳がんによるreplicationシーケンス解析を行った。
2. DNA修復経路における合成致死解析
①DNA二本鎖切断修復において、BARD1とヒストン修飾及びHP1γを介したBRCA1安定化機構を解析した。また、同定したヒストンを阻害するChaetocin及びUNC0638の効果を解析した。 
②RAP80は、ユビキチン化依存的にDNA損傷部位に集積し相同組み換え修復を抑制する。このユビキチン化の脱ユビキチン化酵素の候補として5分子を得て、その中のOTUB2の機能について解析を行った。
3. ホルモン療法耐性獲得機序の解明
①ホルモン療法後の臨床検体から調製した乳癌初代培養細胞を用い、ホルモン療法耐性乳癌のエストロゲンシグナル経路を解析した。また、ホルモン療法耐性乳癌細胞株を樹立し、耐性増殖の原因を明らかにした。
②Arylhydrocarbon receptor(AhR)依存的なER蛋白分解促進機構を解析するため、ER蛋白分解促進因子探索の中でも、特異的リガンドを探索することとし、検討を行った。
結果と考察
1. エクソーム・遺伝子発現解析
TP53、BRCA2、PIK3CA、NF1に既報と同程度の、癌抑制機能を有し変異報告のない遺伝子(breast cancer mutated gene1, 2 : BCMG1、BCMG2)に各々10%以上の体細胞変異を検出した。さらに、新規癌特異的分子として、糖転移酵素をコードするB3GALNT2を同定した。その発現抑制が顕著な細胞増殖抑制を導くことから、新たな乳がんの分子標的候補となる可能性が示唆された。
2. DNA修復経路における合成致死解析
①DNA二本鎖切断修復において、DNA損傷部位のBRCA1の安定維持に必要なLys9ジメチル化ヒストンH3(H3K9me2)、HP1γ及びBARD1を介した新規メカニズムを発見した。H3K9me2ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)阻害剤ChaetocinによってIR照射後のBRCA1及びBARD1の損傷局所への集積は阻害され、また、ChaetocinとPARP阻害剤の相乗効果が認められた。
②OTUB2発現抑制下では、53BP1とRAP80のDNA損傷部位への急激な局在が起こり、DNA end resectionと相同組換え修復が抑制され、OTB2ノックダウン細胞はcamptothecinへ高感受性であった。これはDNA損傷部位における過剰なユビキチン化はDNA複製フォーク崩壊型のDNA損傷による細胞死を誘導することを示す。OTUB2はDNA損傷部位のユビキチン化レベルを微調整して相同組換え修復の選択を制御し、細胞のDNA損傷に対する抵抗性を保証していると考えられる。
3. ホルモン療法耐性獲得機序の解明
①樹立した5種類の機序の異なるアロマターゼ阻害剤耐性細胞株の耐性機序をさらに解析し報告した。さらに、新たに6番目の機序としてアンドロゲン受容体(AR)依存性の耐性株を樹立し、新規アンドロゲン依存性耐性機序を明らかにした(特許申請中2013-108774)。さらに、抗エストロゲン剤fulvestrantに対する耐性株も樹立し、その性質、耐性機序についても解析を進めた。
②AhRによるER蛋白分解に着目し、あるAhR部分アンタゴニストがAhRの転写活性化能をほとんど惹起しない用量でER分解を促進することが判明した。このAhRリガンドは、AhRの転写活性化能に必要なARNTとのヘテロダイマー形成を惹起せず、AhRとERとの相互作用では典型的アゴニストと同様の促進効果が見られた。従って、特異的化合物によるAhR-ARNTヘテロダイマー化の人工的な調節は、転写活性化能を伴わずにER蛋白分解を促進する上で鍵となる分子機構であると考えられた。
結論
TN乳がんおよびホルモン治療耐性乳がんの増殖機構の解明とその情報に基づく新規治療法開発を目指す本研究課題は、今後、これまでに述べた各成果を統合し系統的に解析することによって、乳がんにおける「エストロゲン非依存性が引き起こす難治病態」という最も重要な臨床的課題を解決する可能性があることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201313047B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性乳癌の克服に向けた画期的治療法の開発基盤推進研究
課題番号
H24-3次がん-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
三木 義男(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 豊雅(徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター)
  • 太田 智彦(聖マリアンナ医科大学院医学研究科)
  • 中田慎一郎(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 林 慎一(東北大学大学院医学系研究科)
  • 大竹 史明(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関変更情報 研究分担者 大竹 史明 東京大学分子細胞生物学研究所(平成24年4月1日~24年6月30日)→ 国立医薬品食品衛生研究所(平成24年7月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「難治性乳癌」であるTriple Negative (TN)乳癌とホルモン療法耐性Luminal乳癌を対象として、
1. エクソーム・遺伝子発現情報解析(三木・片桐)
2. DNA修復経路における合成致死解析(太田・中田)
3. ホルモン療法耐性獲得機序の解明(林・大竹)
の3プロジェクトを柱に新規治療法の開発に向けた基礎研究と治療開発基盤の構築に取り組む。
研究方法
1.エクソーム・遺伝子発現解析
遺伝子発現解析による治療標的分子の機能解明にエクソーム解析を加え、TN乳癌関連因子の探索、新規分子標的の同定を行い、それらの機能解析、抗腫瘍効果の検討、TN乳癌細胞増殖抑制分子の可能性を検証する。
2. DNA修復経路における合成致死解析
①BRCA1-E3機能を基盤に、合成致死性を生じる薬剤と遺伝子の新規組合せを解析した。また、培養細胞を用いたCPT-11とPARP阻害剤による候補因子の合成致死性及びマウスモデルによる候補因子の合成致死性を立証した。
②DNA損傷薬剤と合成致死を来す遺伝子の機能不全を探索し、DNA損傷応答への関与が未知である新規HR促進分子の抑制が、相同組換え修復を抑制する分子機構および薬剤感受性に与える影響を解析した。
3. ホルモン療法耐性獲得機序の解明
①耐性と乳癌幹細胞性との関係を明らかにするとともに、ホルモン療法耐性株5種を樹立し新規耐性機序を解析した。また、樹立したホルモン療法耐性株によるホルモン療法耐性機序の解析、各耐性機序を識別するバイオマーカーを開発した。
②「低分子リガンド依存的なArylhydrocarbon受容体 (AhR)の活性化によるエストロゲン受容体(ER)の分解促進と機能抑制」を基盤に、この新規作用機序に基づくER機能阻害戦略に取り組み、転写活性化を伴わずER蛋白分解を選択的に促進するリガンドを探索した。
結果と考察
(1) TP53、BRCA2、PIK3CA、NF1に既報と同程度の、癌抑制機能を有し変異報告のない遺伝子(breast cancer mutated gene1, 2 : BCMG1、BCMG2)に各々10%以上の体細胞変異を検出した。さらに、新規癌特異的分子として、糖転移酵素をコードするB3GALNT2を同定した。その発現抑制が顕著な細胞増殖抑制を導くことから、新たな乳がんの分子標的候補となる可能性が示唆された
(2)‐①DNA修復機構の異常と化学療法感受性の関係を解析し、BRCA1のユビキチンリガーゼ死活化乳癌にPARP阻害剤が奏功すること、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤がBRCA1/BARD1の損傷局所への誘導を阻害し、PARP阻害剤と相乗効果を示すことを明らかにした。
②BRCA1非依存性の相同組換え修復が機能することで薬剤耐性を示すBRCA1陰性乳癌においても、相同組換え修復を人為的に抑制できれば、抗腫瘍薬への感受性の回復が期待できる。本研究では、相同組換え修復の促進分子を2つ新たに見いだした。そのうちの1つはBRCA1陰性細胞において特異的に相同組換え修復を制御している可能性がある。
(3)‐①Luminal型乳癌培養細胞株を親株として6種類(Type 1~Type 6)の機序の異なるホルモン療法耐性細胞株を樹立した。Type 1~Type 3はそれぞれ特徴的な細胞内リン酸化経路の変化に依存した増殖を示した。Type 4~Type 6に関しては、細胞内のステロイド代謝の変化やアンドロゲンシグナルに適応した機序などが示された。これらのことから、ホルモン療法耐性には複数の複雑な機序が存在する可能性が示された。
②ある種のAhR部分アンタゴニストが、ER蛋白分解活性においてはアゴニストとして機能し、ER蛋白分解を選択的に促進することを見出した。AhR標的遺伝子であるCYP1A1を指標とした検討の結果、3,3’-diindolylmethane (DIM)はAhRの転写活性をほとんど活性化しない用量においてER蛋白分解を促進することを見出した。次にAhRの転写活性化能に必要なARNTとのヘテロダイマー形成はDIMにより惹起されず、一方、AhRとERとの相互作用に関しては典型的アゴニストと同様の促進効果が見られた。さらに、個体レベルで検討の結果、マウスにおいてエストロゲン標的遺伝子誘導が顕著に阻害されることを見出した。
結論
TN乳がんおよびホルモン治療耐性乳がんの増殖機構の解明とその情報に基づく新規治療法開発を目指す本研究課題は、今後、これまでに述べた各成果を統合し系統的に解析することによって、乳がんにおける「エストロゲン非依存性が引き起こす難治病態」という最も重要な臨床的課題を解決する可能性があることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313047C

収支報告書

文献番号
201313047Z