文献情報
文献番号
201313042A
報告書区分
総括
研究課題名
脳転移性エクソソームによる前転移ニッシェの解明
課題番号
H24-3次がん-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 畑田 出穂(群馬大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
癌の脳転移は近年増加傾向にある。とりわけ、乳がんでは、ある特定のサブタイプに脳転移を多く認め、その生物学的特性と転移臓器におけるトロピズムの存在が示唆される。近年の分子標的治療薬の進歩により生存期間が延長した癌患者に脳転移は今後頻発すると予測され、我が国において脳転移の治療と管理法の開発は緊急かつ重要な課題である。癌転移のメカニズムには、癌細胞が脳血管関門(BBB)を通過し、脳内で腫瘍を形成できるよう、あらかじめ血管内皮細胞や間質成分などがニッシェ(前転移ニッシェ)を形成することが癌細胞の定着や増殖の最初のプロセスに重要である。本研究の目的は、BBB通過の分子メカニズムや、その前転移ニッシェの分子機構の解明、脳転移機構におけるトロピズムを乳がん細胞の分泌する小胞顆粒であるエクソソームを中心に明らかにすることで、癌の脳転移を予防する新しい方策を開発することである。
研究方法
2年次となる平成25年度は、おもに脳転移における癌細胞がBBBを通過する仕組みを、細胞間の新たなコミュニケーションツールであるエクソソームの中のmicroRNAを中心に解析する目的で、初年度に樹立した脳に高転移性を示すヒト乳がん細胞株(落谷、小野)の分泌するエクソソームからRNAを抽出し,そのmicroRNAの網羅的発現解析を実施,そのデータを解析することで、BBB破綻を誘導するmicroRNAを同定し,その分子メカニズムを解明する。
結果と考察
エクソソームのmicroRNA網羅的発現解析の結果,脳に高転移する乳がん細胞から分泌されたエクソソームのBBB破壊は,エクソソームにパッケージされた特定のmicroRNA (miR-18X)が脳血管内皮細胞のタイトジャンクションを司る分子を制御する事で,タイトジャンクション,あるいは接着ジャンクションの破綻を誘導する結果を得た。さらにこのBBB破綻のmiR-18Xは、実際の脳転移を有する患者血清中に高い値を示す事も明らかとなり、臨床での実証研究も基礎研究データを支持するものであった。 以上の成果は,高転移の細胞由来のエクソソームにはBBBを破綻させる能力が有る事が示唆された。さらに、血管内皮細胞のタイトジャンクションを形成するoccludin, claudin等, あるいは接着ジャンクションを形成するN-cadherin等の分子の免疫染色を実施した結果,高転移の細胞由来のエクソソーム処理によって,これらの分子の細胞表面の局在が失われることが判明した。従ってエクソソームに由来するmiR-18Xの標的分子群が,これらのジャンクションを制御する分子あるいは関連制御分子である可能性が浮上した。また、国立がん研究センタ-中央病院の乳腺腫瘍科のコホート研究の一部の血清を用いて,ステージ3/4の転移患者のmiR-18Xの量を解析した結果,脳転移を有する患者群で、血清中のmiR-18Xの量が有意に高い事も判明した。以上,エクソソームによって引き起こされるBBB破壊のメカニズムを明らかにするに至るとともに,BBBを破壊するmicroRNAの臨床的意義にまで研究を発展する事が出来た。
結論
転移性乳癌細胞の分泌するエクソソームには、血液脳関門を破壊し,乳がん細胞を脳に転移するし機構が存在する事が示唆された。さらに、こうした現象の原因となりうるエクソソーム中のマイクロRNAの存在も,臨床検体の解析から示唆された事は意義の有る研究成果であり,今後診断,治療に向けた発展が期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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