文献情報
文献番号
201313041A
報告書区分
総括
研究課題名
がん・精巣抗原を標的としたATLに対する新規免疫療法の開発
課題番号
H23-3次がん-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石田 高司(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 西川 博嘉(国立大学法人大阪大学大学院医学研究科)
- 稲垣 宏(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
- 宇都宮 與(公益財団法人慈愛会今村病院分院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
研究者らはATLに対する新規免疫療法の標的として、がん・精巣抗原を位置づけ、以下に示す3つの項目を研究目的に掲げた。
i) HTLV-1感染からATL発症に至るまでの免疫病態の解明
ii) HTLV-1キャリアのATL発症予防法の確立
iii) ATLに対するがん・精巣抗原を標的とした新規治療法の確立
昨年度までに
i) がん・精巣抗原はATL細胞に高頻度に発現している
ii) ATL患者ではがん・精巣抗原に対する液性免疫応答がみとめられる
iii). ATL患者ではがん・精巣抗原NY-ESO-1に対する細胞性免疫応答がみとめられる
v). がん・精巣抗原NY-ESO-1特異的CD8+T細胞は自己ATL細胞に反応する
v). HTLV-1無症候性キャリアの段階で、HTLV-1感染細胞はがん・精巣抗原の発現を獲得しており、さらにそれに対する特異的免疫応答が誘導されている。
事を明らかにした。
今年度は ATLに対するがん・精巣抗原を標的とした新規治療法の確立、特にCCR4抗体治療との併用を見据え、CCR4抗体治療中のATL患者におけるがん・精巣抗原、HTLV-1関連抗原に対する免疫応答を解析した。
i) HTLV-1感染からATL発症に至るまでの免疫病態の解明
ii) HTLV-1キャリアのATL発症予防法の確立
iii) ATLに対するがん・精巣抗原を標的とした新規治療法の確立
昨年度までに
i) がん・精巣抗原はATL細胞に高頻度に発現している
ii) ATL患者ではがん・精巣抗原に対する液性免疫応答がみとめられる
iii). ATL患者ではがん・精巣抗原NY-ESO-1に対する細胞性免疫応答がみとめられる
v). がん・精巣抗原NY-ESO-1特異的CD8+T細胞は自己ATL細胞に反応する
v). HTLV-1無症候性キャリアの段階で、HTLV-1感染細胞はがん・精巣抗原の発現を獲得しており、さらにそれに対する特異的免疫応答が誘導されている。
事を明らかにした。
今年度は ATLに対するがん・精巣抗原を標的とした新規治療法の確立、特にCCR4抗体治療との併用を見据え、CCR4抗体治療中のATL患者におけるがん・精巣抗原、HTLV-1関連抗原に対する免疫応答を解析した。
研究方法
モガムリズマブ治療中のATL患者において、effector Treg (CD45RAloFOXP3hi)の頻度、HTLV-1 Tax、NY-ESO-1に対する特異的細胞性免疫応答、液性免疫応答を解析した。
HTLV-1関連抗原治療標的としての可能性は、ATL患者由来の腫瘍細胞でATLマウス(NOG)を作成し、さらに同一の患者から 抗原特異的CTLを誘導し、治療実験を実施することにより評価した。
HTLV-1関連抗原治療標的としての可能性は、ATL患者由来の腫瘍細胞でATLマウス(NOG)を作成し、さらに同一の患者から 抗原特異的CTLを誘導し、治療実験を実施することにより評価した。
結果と考察
ヒトTregs はnaive Treg (CD45RAhiFOXP3lo)、effector Treg (CD45RAloFOXP3hi)、non-Treg (CD45RAloFOXP3lo)に分類される。CCR4の発現はnaive Tregでは認めず、effector Tregが強い。実際にCCR4抗体治療を受けたATL患者では、effector Tregの存在比率は著しく低下し、HTLV-1 Tax に対する特異的CTLは増加する傾向を認めた。このことは、CCR4抗体治療によってeffector Tregが除去されることにより、HTLV-1 Taxに対する免疫応答が増強することを意味している。
NY-ESO-1に対する免疫応答は、ウイルス抗原であるHTLV-1 Taxに対する免疫応答に比較し、その程度が軽度であり、さらに症例間の変化が大きく、CCR4抗体治療による、その動態の変化様式を結論するには至っていない。しかしながらCCR4抗体治療によって、NY-ESO-1に対する細胞性、液性免疫ともに増強し、良好な臨床反応を得ている症例が存在している。このことは、effector Tregが除去されることにより、NY-ESO-1に対する免疫応答も、HTLV-1 Tax に対する免疫応答と同様、増強される可能性を示している。
また、ATL患者より得たATL細胞を用いてATLモデルマウスを樹立、同一患者からHTLV-1 Tax特異的CD8陽性T細胞を増幅し、養子免疫治療実験を行った。結果、治療群では各臓器へのATL細胞の浸潤が抑制され、生存期間は有意に延長した。これらの結果は、ATL治療の標的分子としての、HTLV-1 Taxの妥当性を示すものである。
昨年度に引き続き、HTLV-1無症候性キャリアにおける、NY-ESO-1の発現および、免疫応答の有無、強弱の解析を、症例数を増やして実施した。結果NY-ESO-1に対する特異免疫がHTLV-1感染細胞の増殖を抑えていることを示唆するデータが得られた。
一般的に、NY-ESO-1をはじめとする、がん・精巣抗原の、がん細胞における機能は明らかになっていないが、固形がんにおいては病期の進行とともに発現を獲得し、その発現は予後不良因子になるとの報告が多い。しかしながらATL においては、NY-ESO-1の発現は生存に有意な影響を及ぼさなかった。NY-ESO-1発現ATL細胞に対する宿主側のNY-ESO-1特異免疫が、予後良好因子として作用している可能性が示唆され、更なる解析を必要とする。
NY-ESO-1に対する免疫応答は、ウイルス抗原であるHTLV-1 Taxに対する免疫応答に比較し、その程度が軽度であり、さらに症例間の変化が大きく、CCR4抗体治療による、その動態の変化様式を結論するには至っていない。しかしながらCCR4抗体治療によって、NY-ESO-1に対する細胞性、液性免疫ともに増強し、良好な臨床反応を得ている症例が存在している。このことは、effector Tregが除去されることにより、NY-ESO-1に対する免疫応答も、HTLV-1 Tax に対する免疫応答と同様、増強される可能性を示している。
また、ATL患者より得たATL細胞を用いてATLモデルマウスを樹立、同一患者からHTLV-1 Tax特異的CD8陽性T細胞を増幅し、養子免疫治療実験を行った。結果、治療群では各臓器へのATL細胞の浸潤が抑制され、生存期間は有意に延長した。これらの結果は、ATL治療の標的分子としての、HTLV-1 Taxの妥当性を示すものである。
昨年度に引き続き、HTLV-1無症候性キャリアにおける、NY-ESO-1の発現および、免疫応答の有無、強弱の解析を、症例数を増やして実施した。結果NY-ESO-1に対する特異免疫がHTLV-1感染細胞の増殖を抑えていることを示唆するデータが得られた。
一般的に、NY-ESO-1をはじめとする、がん・精巣抗原の、がん細胞における機能は明らかになっていないが、固形がんにおいては病期の進行とともに発現を獲得し、その発現は予後不良因子になるとの報告が多い。しかしながらATL においては、NY-ESO-1の発現は生存に有意な影響を及ぼさなかった。NY-ESO-1発現ATL細胞に対する宿主側のNY-ESO-1特異免疫が、予後良好因子として作用している可能性が示唆され、更なる解析を必要とする。
結論
CCR4抗体はTregsのうちeffector Tregs を特異的に除去する。この機序によりHTLV-1関連抗原のみならず、NY-ESO-1など、がん精巣抗原に対する免疫応答が増強される可能性がある。すなわち、がん精巣抗原を標的とする免疫療法とCCR4抗体療法の併用はATLの発症予防法、あるいはATLに対する新規治療法として有望であることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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