脳の老化に関連する疾患の病態解明に関する研究

文献情報

文献番号
199800211A
報告書区分
総括
研究課題名
脳の老化に関連する疾患の病態解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小阪 憲司(横浜市立大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小阪憲司(横浜市立大学医学部)
  • 橋詰良夫(愛知医大加齢医科学研究所)
  • 池田研二(東京都精神医学総合研究所)
  • 山田正仁(東京医科歯科大学医学部)
  • 石津秀樹(岡山大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳の老化と関連した疾患は多様であるが、このうち非アルツハイマー型変性性痴呆疾患は、重要な疾患が多いのにもかかわらず研究が遅れており、これらの疾患についての系統的研究は急を要する課題である。 今年度は、非アルツハイマー型変性性痴呆疾患のうち、“びまん性レビー小体病(D  LBD)"、“痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症(ALS-D)"、“皮質基底核変性症(CBD)"、“神経原線維変化型老年痴呆(SD-NFT)"、“石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC)"と、いずれも本邦の研究者により提唱ないし研究の端緒がつけられ、近年その重要性から世界的に研究が進められている5疾患に焦点を絞り、病態機序の研究と臨床病理学的診断基準案の作成を目的とする。        
研究方法
1)小阪は、DLBD14剖検例の大脳辺縁系病変について、抗α―シヌクレインと抗タウその他の抗体で免疫染色による検討を行い、α―シヌクレインとタウの共存細胞の割合を定量的に検討した。 また、α―シヌクレインによる免疫電顕を行った。 2)橋詰は、ALS-D14剖検例から中核となる診断的特徴を要約し、臨床病理診断基準案を作成した。 鑑別診断として臨床診断はALS-Dだが病理診断が異なっていた症例も検討した。 3)池田は、CBD8例を含む28剖検例について、病理診断に有用とされる項目を検索して点数化し、有意性の高い項目から3段階に分け、CBDの病理診断基準案を作成した。 4)山田は、SD-NFT5例を含む15剖検例の海馬領域について、抗シナプトフィジンその他の抗体で免疫染色による検討を行った。 また、SD-NFT2例についてタウ遺伝子の検索を行い、さらにSD-NFTの病理診断基準案を作成した。 5)石津は、DNTC4剖検例について、前頭・側頭葉白質の血管病変の血管壁の肥厚率を検討し、抗タウその他の抗体による免疫染色により血管関連の異常構造物の検討を行った。
結果と考察
1)DLBDのperforant pathwayの海馬内線維路の変性終末であるユビキチン陽性構造物はいずれもα―シヌクレイン陽性で、免疫電顕ではgranulo-filamentous componentsを含んでおり、LBと共通の構成成分を有していることが示された。 α―シヌクレインは“dying back変性"によって軸索末端から蓄積するものと考えられた。 大脳辺縁系においてはα―シヌクレインとタウが同一細胞内に高い共存率を示し、免疫電顕ではα―シヌクレインとpaired helical filamentsとは連続性がなく、LB形成の初期段階を示していると考えられるnon-filamentous componentsが認められた。   2)ALS-Dの典型例から抽出された臨床病理所見の特徴と鑑別例からの除外事項に基づいて、ALS-Dの診断基準案が作成された。 臨床症候として、家族性の有無、発症年齢、初発症状、経過、罹病期間、精神症状、前頭葉徴候、痴呆の程度、運動ニューロン障害、 検査所見が示された。 病理学的所見として、肉眼的所見、組織学的所見、免疫組織化学的所見が示された。 ALS-Dの臨床病理像は均質であるが、ALSと同様広範型と限局型の運動ニューロン変性の相違が存在し、広範型では高度な大脳皮質病変を示す。 鑑別疾患として、ALS、錐体路変性を伴うピック病などがあげられる。 3)CBDのスクリーニングとして大脳皮質の非特異的変性か皮質下核の少なくとも2カ所の変性、第2段階として、A.CBDに特異性の高い項目。 B.Aに次いで診断に有用な項目。 C.診断を支持する項目、が上げられ、Definite CBD,Probable CBD,Possible CBDの判定基準が定められた。 これらの項目は組織変性に関する
項目とタウ陽性を示す細胞病理所見に関する項目に分けられるが、統計学的操作を加えた結果、細胞病理所見がより特異性が高いA項目で、組織変性所見は特異性が低くB項目であった。 4)SD-NFTでは海馬領域にシナプトフィジン陽性シナプス密度の低下、GFAP陽性アストロサイトの増生、Ki-M1P陽性ミクログリアの増加がみられたが、SDATより軽度であった。 これはSD-NFTでは海馬領域でNFTがSDATより高密度に存在するにもかかわらず、神経ネットワークの破壊が軽いことを示す。 検索したタウ遺伝子の配列には異常を認めなかった。 NFTの特異的分布と老人斑の欠如、他の痴呆性疾患の除外、を骨子としてSD-NFTの病理診断基準案を作成したが、他の痴呆性疾患との鑑別は容易であるが、境界領域の高齢者脳のNFT病変との定量的差異が問題である。 5)DNTC4例のうち3例で血管の狭窄と血管壁の肥厚・線維化が認められた。 髄鞘の淡明化に血管病変は関与せず皮質病変による二次性変化であると考えられるが、DNTCでは正常加齢変化と比較して動脈硬化を起こしやすいこと示唆された。 血管に関連した構造物としてタウ陽性の変性突起様構造物を含む老人斑様構造物が観察され、これらは海馬、前頭・側頭葉の皮髄境界から白質に多くみられた。 その意義は不明であるが、病理診断上のマーカーになると思われる。
結論
DLBDのperforant pathwayの線維末端はα―シヌクレイン陽性でLBと同様の構造物を含み、大脳辺縁系ではLBとNFTとが同一細胞内に共存していた。 ALS-Dの臨床病理学的特徴と疾患のスペクトラムを明らかにし、臨床病理診断基準案が作成された。 CBDの診断に有用な病理項目について点数化し、統計学的に判定してCBDの病理診断基準案が作成された。 SD-NFTの海馬領域の検討がなされ、病理診断基準案が作成された。 DNTCの血管には線維化と肥厚がみられ、血管に関連して老人斑様構造物が観察された。

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