国民のがん情報不足感の解消に向けた「患者視点情報」のデータベース構築とその活用・影響に関する研究

文献情報

文献番号
201313029A
報告書区分
総括
研究課題名
国民のがん情報不足感の解消に向けた「患者視点情報」のデータベース構築とその活用・影響に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-042
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科 健康情報学 )
研究分担者(所属機関)
  • 山口 建(静岡県立静岡がんセンター)
  • 別府 宏圀(特定非営利活動法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」)
  • 吉田 雅博(国際医療福祉大学 臨床研究センター)
  • 朝倉 隆司(東京学芸大学 教育学部)
  • 隈本 邦彦(江戸川大学 メディアコミュニケーション学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は患者視点情報のデータベース化とアウトリーチ活動により、「国民のがん情報不足感」の解消を目指す。本研究を特徴づける仮説は、「生活の再構成・再適応の過程で、医療者が提供する『縦糸』的なの情報に加え、同病他者の体験など、共感性の高い患者視点情報が『横糸』として役立つ」こと、そして「情報発信者としての患者の役割が、不足している患者視点情報の充実に寄与すると共に、患者本人の自律を回復させる」ことである。情報の「利用者」だけでなく、「発信者」としての役割が認識され、国民が主体的に情報不足解消へ取り組んで行くことが、「国民のがん情報不足感」解消を実現する鍵と考え、本課題に取り組む。
研究方法
NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパンと協力して、大腸がんに関する面接調査を実施。ディペックスのサイトを医療系大学の卒前教育で試験的に利用。国内で出版された乳がん闘病記全180冊の内容分析を継続。県立静岡がんセンターでの患者への情報提供に関する先進的取り組、がん臨床系学会における患者参加、患者視点情報の活用、提供者側の環境整備について事例検討。4回目の患者・家族対象のWeb調査を実施。
結果と考察
大腸がん検診に関する面接調査36名(大腸がん経験者19名を含む)を終了。質的研究により知見を4つのトピック(便潜血検査の受診理由/便潜血検査の非受診理由、内視鏡検査の受診理由/内視鏡検査の非受診理由)に集約、3月16日に公開シンポジウム:このままでいいのか?大腸がん検診―「大腸がん検診の語り」とそこから見えてくるもの(東京・泉ガーデンコンファレンスセンター)を開催。平成25年6月8日の第48回「医学教育セミナーとワークショップ(京都大学)」において、医学部教育担当者を中心に、EBMとバランスを取りながら「ナラティブ情報を医学教育にどう取り入れていくか?」を考える企画を実施。8月8日の日本看護教育学会(仙台)交流セッション「患者の語り(ナラティブ)から何を学ぶか-健康と病いの語りデータベース(DIPEx-Japan)の教育的活用-」、10月26日には慶應義塾大学(信濃町)で教育的活用ワークショップを開催。ディペックスの保有するナラティブデータは、現在、8課題が倫理審査承認を受けてデータシェアリングを継続。乳がん闘病記全180冊の内容分析を継続。Engelの提起した医療モデル”Bio-Psycho-Social model”に池見(九大心療内科)が第4の視点としてEthical/Existential(実存)を加えて「全人的医療モデル」を提示したが、闘病記は「実存」領域の情報を多く含む可能性がある。県立静岡がんセンターにおいて、がん薬物療法に由来する副作用・合併症・後遺症を対象に、多職種チーム医療を駆使して情報整備やツールの開発。がん臨床系学会における患者参加、患者視点情報の活用、提供者側の環境整備について事例検討。4回目のWeb調査(N=2,754:患者本人1,715+家族1039)の結果をQLifeがんで公開。平成25年12月7日に公開フォーラム(ベルサール飯田橋)、患者を知りたい入門講座を2月16日(航空会館)、3月2日に闘病記研究会(航空会館)を開催。第8回 医療の質・安全学会学術集会(平成25年11月24 日 東京TFTホール)市民公開ワークショップ「患者と医療者の情報共有は医療をどう変えるのか~患者参加による情報作成~」において、代表者・中山が本課題の成果の一部を発表した。
結論
本研究の成果は、以下の諸点でがん対策推進基本計画の強調する「国民のがん情報不足感」の解消に資することが期待できる。
1) インタビューによるナラティブ情報は、NPO法人・健康と病いの語りディペックスジャパンのウェブサイトで広く一般に提供する。
2) 闘病記に関しては闘病記文庫設置マニュアルを作成し、全がん診療連携拠点病院に配布した(現在は病院内図書館だけでなく、自治体の公立図書館にもこれらの情報をどのように周知すべきか今後の課題)。
3) これらのナラティブ情報を適切に活用できる医療者の教育、患者支援者の育成にも本班の成果は大いに活用できる。
4) 患者会情報センターに登録されている患者会とは、双方向の情報交換が可能となる関係性を構築し、今後の患者会関連の活動を推進する基盤の一つとして整備する。
5) 県立静岡がんセンターにおける患者への提供情報のパッケージ化、情報処方のコンセプトは、他のがん診療拠点病院においても同様の取り組みを発展させる際のモデルとできる。
6) がん関連学会における患者参加の在り方を考える上では、日本がん治療学会の継続的な取り組みが貴重な示唆を与える。他の関連学会での取り組みの実情を把握と情報共有を進め、各学会での議論を促進する。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201313029B
報告書区分
総合
研究課題名
国民のがん情報不足感の解消に向けた「患者視点情報」のデータベース構築とその活用・影響に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-042
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科 健康情報学 )
研究分担者(所属機関)
  • 山口 建(静岡県立静岡がんセンター)
  • 別府 宏圀(特定非営利活動法人「健康と病いの語りディペックス・ジャパン」)
  • 吉田 雅博(国際医療福祉大学 臨床研究センター)
  • 朝倉 隆司(東京学芸大学 教育学部)
  • 隈本 邦彦(江戸川大学 メディアコミュニケーション学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は患者視点情報のデータベース化とアウトリーチ活動により、「国民のがん情報不足感」の解消を目指す。本研究を特徴づける仮説は、「生活の再構成・再適応の過程で、医療者が提供する『縦糸』的なの情報に加え、同病他者の体験など、共感性の高い患者視点情報が『横糸』として役立つ」こと、そして「情報発信者としての患者の役割が、不足している患者視点情報の充実に寄与すると共に、患者本人の自律を回復させる」ことである。情報の「利用者」だけでなく、「発信者」としての役割が認識され、国民が主体的に情報不足解消へ取り組んで行くことが、「国民のがん情報不足感」解消を実現する鍵と考え、本課題に取り組む。
研究方法
NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパンのナラティブデータベースの利用者調査(勇往法質問紙調査、Web調査)、大腸がんに関する面接調査。ディペックスのサイトを医療系大学の卒前教育で試験的に利用。国内で出版された乳がん闘病記の内容分析。県立静岡がんセンターでの患者への情報提供に関する先進的取り組み、がん臨床系学会における患者参加、患者視点情報の活用、提供者側の環境整備について事例検討。がん患者・家族を対象としたWeb調査。
結果と考察
NPO法人「健康と病いの語り」ディペックス・ジャパンの提供するがん患者の語り(ナラティブ)に関して、インターネット調査に回答した乳がん患者の9割が有用と評価し、その理由を「勇気づけられる」「患者の声が伝えられている」としていた。また本データベースを活用して患者の視点での予後告知はじめ、患者の視点に立つ複数の質的研究が進められた。大腸がん検診に関して36名(大腸がん経験者19名含む)の面接調査を実施し、便潜血検査や内視鏡検査についての語りを収集し、データベース化と公開を進めた。ディペックスの語りデータの医療者教育への利用に関しては大学等(医学部5、看護学部7、薬学部5、その他3)や企業の現任教育、一般対象のセミナーなど(総数26件)で試行した。闘病記の特性を明らかにするために国内で出版された乳がん闘病記全130冊の時系列に沿った内容分析を実施した。患者会情報センターは登録患者会が100を超えた。「情報処方」の概念に基づき、モデル医療機関(県立静岡がんセンター)において、がん薬物療法に由来する副作用・合併症・後遺症を対象に、多職種チーム医療を駆使して、予防、症状緩和、早期改善に務めるとともに、多数例の経験に基づく情報整備やツールの開発を進めた。がん臨床系学会における患者参加、患者視点情報の活用、提供者側の環境整備についてモデル的な検討を継続。2010年度からがん患者とその家族を対象に、「がん情報」に関するテーマを設定したインターネット調査を継続し、その結果をがん情報特化サイト「QLifeがん」上で公開した。
一般向けの活動報告と意見交換の場として4年間を通じて公開フォーラムを毎年開催、他に闘病記研究会、患者を知りたい入門講座、大腸がん検診の語りに関する公開シンポジウム、ナラティブ情報の教育的活用ワークショップを行った。
結論
本研究により、がん対策推進基本計画の強調する「国民のがん情報不足感」解消の推進が期待できる。研究成果の今後の発展性を以下に述べる。
・患者体験情報による患者・家族の疾病・治療課程の理解と準備の支援。
・患者・家族の「がんと共に生きる生活」へ(再)適応の支援。
・国際連携による患者のニーズ把握方法の整備、国際比較の可能性。
・医療従事者のコミュニケーションスキルの向上への応用。
・がん検診受診の阻害要因の解明を通した受診促進方法の策定。
・データベース二次利用による患者志向研究の活性化。
・闘病記の系統化によるがん情報としての意義・利便性の向上。
・がん拠点病院・公共図書館における闘病記情報の整備と患者情報サービスの充実。
・がん拠点病院における相談窓口、支援サービスのモデルの提示。
・診療ガイドライン・患者向けガイドラインにおける「患者の視点」反映の促進。
・協力を得る患者視点の諸活動の社会における持続発展可能性をモデルとしての提示
・患者会情報の整備による、「患者の声」を必要とする自治体や学会の適切な「患者(会)」選択の促進。
・「患者(会)」の社会的発言・参加機会の拡大。
・情報の「利用者」だけでなく、「発信者」としての役割の認識の広がりを通し、依存的・受動的な情報欲求から、国民自身による自律的・主体的な情報不足解消への取り組みの推進。
・患者・家族・一般市民と医療者との新たな協働の促進。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201313029C

収支報告書

文献番号
201313029Z