在宅がん患者・家族を支える医療・福祉の連携向上のためのシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
201313026A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅がん患者・家族を支える医療・福祉の連携向上のためのシステム構築に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-037
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
山口 建(静岡県立静岡がんセンター )
研究分担者(所属機関)
  • 野村 和弘(独立行政法人労働者健康福祉機構 東京労災病院)
  • 土居 弘幸(岡山大学 大学院)
  • 片山 壽(片山医院)
  • 濃沼 信夫(東北薬科大学 )
  • 山口 直人(東京女子医科大学 医学部)
  • 北村 有子(静岡県立静岡がんセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,520,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん患者と家族の暮らしを守るという「がんの社会学」の視点に立ち、在宅がん医療のモデル化を進め、医療スタッフの技術向上と患者目線の情報作りに努め、全国的な普及を目指すことを目的とする。
研究方法
1)これまでの研究成果を元に、在宅がん患者・家族を支える医療連携システムについて基本的な考えをまとめた。
2)がんの在宅医療において、病院と地域とをシームレスに結ぶことを目的として病院に設置された患者家族支援センターや在宅終末期緩和ケアにおける小規模多機能型居宅介護施設の活用を検討した。
3)がん薬物療法における副作用対策を目的として、処方別がん薬物療法説明書の作成を進めた。
4)がん患者の就労支援については、離職者の再就労支援を実践した。
5)将来、本研究の成果を全国に普及させた場合の医療経済学的効果や情報提供の在り方について検討を行った。
6)2003年度に実施した“がん生存者の悩みや負担に関する実態調査”を前回とほぼ同じ規模、設問様式で行うための計画を進めた。
結果と考察
1)がんの在宅医療の基本となる考え方
在宅がん患者のための医療連携については、抗がん治療を継続している患者については病院が積極的に主導し、在宅終末期緩和ケアを目指す場合には、地域の医療チームに全面的にゆだねることを原則とすることが望ましい。その上で、がん医療の効率化を図る必要がある。
2)がんの在宅医療についての新たな動き
病院に設置され、積極的に患者・家族に働きかける患者家族支援センターは患者・家族満足度の向上につながっている。また、小規模多機能型居宅介護施設は、地域の多職種チーム医療において重要な役割を果たす新たなインフラストラクチャーである。さらに、本研究で標準化が進められた退院前、退院時患者ケアカンファレンスの手法をもとに、岡山市の医療連携において、地域医療福祉連携の質を評価する技術が開発された。
3)がん薬物療法の副作用対策
“情報処方”のコンセプトに基づき、約百種類のがん薬物療法について、処方別がん薬物療法説明書の作成を開始した。現時点で、四種類が作成されたが、この説明書は、患者・家族や医療スタッフが共有する“座右の書”となりうる。
4)がん患者の就労支援
離職を防ぐ努力の一環として、Personal Health Recordシステムは、患者が不必要に自信を失うことを防ぐという観点からも重要である。今後、患者、医療スタッフ、地域行政機関、地域経済団体などの協働作業によって支援が進み、再就労の成功例が増えていくことが期待される。
5)がん医療における医療経済学的分析
がんによる逸失利益の算定は、がん医療の経済学的評価の指標になるとともに、医療資源投入の合理性を示すものとなる。その改善のためには、胃がん、肺がん、肝がん等での救命率の向上が必要と考えられた。
6)患者・家族支援のための全国的な情報提供
現在、患者・家族に提供されている診療ガイドライン等の経験からは、本研究の成果を情報提供する場合、患者・家族の理解を深めるための用語解説などの支援が必須であると考えられた。
7)がん生存者の悩みや負担に関する実態調査
新たなアンケート調査により、がん医療の進歩、患者・家族の意識変化、がん対策基本法施行の影響などに基づく悩みや負担の変化を捉えることが可能となる。また、“在宅がん薬物療法”、“終末期在宅緩和ケア”、“がん患者の就労支援”の三課題について、がん患者の悩みや負担の実態変化が把握され、積極的な対応のためのノウハウが蓄積される。
結論
在宅がん患者・家族を支える医療連携システムについての基本的考えとして、在宅抗がん治療では病院が積極的に関与し、一方、在宅での看取りは、地域の医療チームに全面的にゆだねることが望ましいと考えられた。また、在宅での積極的な抗がん治療には、患者ケアを積極的に行う患者家族支援センターが重要であることを明らかにした。
患者・家族に必要な情報を積極的に提供するための情報処方においては、処方別がん薬物療法説明書を作成した。
終末期がん患者に対する在宅緩和ケアについては、“退院前、退院時患者ケアカンファレンス”が重要であり、その手法は終末期在宅緩和ケアの標準化に有用であった。また、小規模多機能居宅介護施設の活用により良好な終末期緩和ケアが実践できた。さらに、岡山市全域における在宅医療のシステム化のための評価表が作成された。
2003年度に実施した“がん生存者の悩みや負担に関する実態調査”をほぼ同じ規模、同じ設問で実施するための計画も進められた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313026B
報告書区分
総合
研究課題名
在宅がん患者・家族を支える医療・福祉の連携向上のためのシステム構築に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-037
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
山口 建(静岡県立静岡がんセンター )
研究分担者(所属機関)
  • 野村 和弘(独立行政法人労働者健康福祉機構 東京労災病院)
  • 土居 弘幸(岡山大学 大学院)
  • 片山 壽(片山医院)
  • 濃沼 信夫(東北薬科大学 )
  • 山口 直人(東京女子医科大学 医学部)
  • 北村 有子(静岡県立静岡がんセンター 研究所)
  • 山下 浩介(社会医療法人 北斗病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
片山壽  平成22年度~平成23年度迄 社団法人 尾道市医師会 平成24年度~ 片山医院 濃沼信夫 平成22年度~平成24年度迄 東北大学 大学院 平成25年度 東北薬科大学 山下浩介(故人) 平成22年度~平成23年度迄

研究報告書(概要版)

研究目的
がん患者と家族の暮らしを守るという「がんの社会学」の視点に立ち、在宅がん医療のモデル化を進め、医療スタッフの技術向上と患者目線の情報作りに努め、全国的な普及を目指す。
研究方法
1)中核都市、中小都市、過疎地を代表する全国3地域を分析し、いずれにも共通する在宅がん患者・家族を支える医療連携システムの基本的な考えをまとめた。
2)がんの在宅医療において、病院と地域とをシームレスに結ぶことを目的として病院に設置された患者家族支援センターや在宅終末期緩和ケアにおける小規模多機能型居宅介護施設の活用を検討した。
3)がん薬物療法における副作用対策を中心に検討し、がん薬物療法副作用説明書や処方別がん薬物療法説明書の作成を試みた。
4)がん患者の就労支援については、離職者の再就労支援を実践した。
5)将来、本研究の成果を全国に普及させた場合の医療経済学的検討や情報提供の在り方について検討を行った。
6)2003年度に実施した“がん生存者の悩みや負担に関する実態調査”を前回とほぼ同じ規模、設問様式で行うための計画を進めた。
結果と考察
1)がんの在宅医療の基本となる考え方
がんの在宅療法については、①病院主導の在宅抗がん治療と診療所主導の在宅終末期緩和ケアとの明確な区別、②病院と地域における多職種チーム医療を構築し、両者をシームレスに結ぶ連携の確立、という二点が重要と考えられた。ここで、病院に設置される患者家族支援センターは患者・家族満足度の向上につながることが明らかにされた。
2)がん薬物療法の副作用対策
“情報処方”のコンセプトに基づき、在宅でのがん薬物療法について、副作用対処技術の確立、副作用別説明書の作成、医療スタッフや患者・家族を対象とした副作用情報セミナーの開催などを行った。さらに、約百種類のがん薬物療法について、処方別がん薬物療法説明書の作成を開始した。この説明書は、患者・家族や医療スタッフが共有する“座右の書”となる。
3)終末期在宅緩和ケアの強化
在宅がん患者・家族を支えるためのツールとして、尾道市医師会システムで実施されている“退院前、退院時患者ケアカンファレンス”の標準化を推進した。この結果は、岡山市の広域在宅医療システムに生かされた。さらに、小規模多機能型居宅介護施設の運用が開始された。
4)がん患者の就労支援
離職を防ぐ努力の一環として、Personal Health Recordシステムは、患者が不必要に自信を失うことを防ぐという観点からも重要である。今後、患者、医療スタッフ、地域行政機関、地域経済団体などの協働作業によって、支援が進み、再就労の成功例が増えていくことが期待される。
5)がん医療における医療経済学的分析
がんによる逸失利益の算定に基づき、その改善には、胃がん、肺がん、肝がん等での救命率の向上が必要とされた。
6)患者・家族支援のための全国的な情報提供
ケアに関する内容についての情報提供には、患者・家族の理解を深めるための用語解説などの支援が必須であることが明らかになった。
7)がん生存者の悩みや負担に関する実態調査
新たなアンケート調査により、がん医療の進歩、患者・家族の意識変化、がん対策基本法施行の影響などに基づく悩みや負担の変化を捉えることが可能となる。また、“在宅がん薬物療法”、“終末期在宅緩和ケア”、“がん患者の就労支援”の三課題について、がん患者の悩みや負担の実態変化が把握され、積極的な対応のためのノウハウが蓄積される。
結論
在宅がん患者・家族を支える医療連携システムについての基本的考えとして、在宅抗がん治療では病院が積極的に関与し、一方、在宅での看取りは、地域の医療チームに全面的にゆだねることが望ましいと考えられた。また、在宅での積極的な抗がん治療には、患者ケアを積極的に行う患者家族支援センターが重要であることを明らかにした。
患者・家族に必要な情報を積極的に提供するための情報処方においては、がん薬物療法の副作用対策として、副作用別説明書と処方別説明書を作成した。
終末期がん患者に対する在宅緩和ケアについては、“退院前、退院時患者ケアカンファレンス”が重要であり、そのチェックシートは、終末期在宅緩和ケアの標準化に有用であった。また、看護師複数配置の小規模多機能居宅介護施設の活用により良好な終末期緩和ケアが実践できた。
2003年度に実施した“がん生存者の悩みや負担に関する実態調査”をほぼ同じ規模、同じ設問で実施するための計画も進められた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313026C

成果

専門的・学術的観点からの成果
■ がんの在宅医療の基本として、①病院主導の在宅抗がん治療と診療所主導の在宅終末期緩和ケアとの明確な区別、②病院と地域における多職種チーム医療をシームレスに結ぶ連携確立、の二点が重要である。
■ がん在宅医療の円滑な運用において、患者家族支援センター、がん薬物療法の説明書、退院前・退院時患者ケアカンファレンスの標準化、小規模多機能型居宅介護施設などのツールやインフラの重要性が明らかになった。
臨床的観点からの成果
■ 病院に設置される患者家族支援センターは患者満足度の向上につながる。
■ “情報処方”のコンセプトに基づき作成されたがん薬物療法副作用別説明書や処方別がん薬物療法説明書は、患者・家族にとって、安全を確保し、不安を取り除くための“座右の書”となる。
■ 退院時カンファレンスの標準化は、在宅終末期緩和ケアの質の向上に有用である。
■ 小規模多機能型居宅介護施設は、家族の介護力が乏しい患者の看取りに有効である。
ガイドライン等の開発
■ がん薬物療法副作用説明書は、食事の摂取、口腔粘膜炎、脱毛、眼の症状を対象とした小冊子として、全国の拠点病院等に配布され活用されている。
■ 小冊子は、WEBサイトでも公開されており、月間の閲覧数は12万回を越えている。
■ 退院時カンファレンスの標準化に基づき、がん患者の在宅医療の質を評価する手法が開発された。
その他行政的観点からの成果
■ 2011年1月28日、第17回がん対策推進協議会にて拠点病院機能に関しての意見具申を行った。
■ 2013年度制定の静岡県がん対策推進計画に貢献した。
■ 2013年度より検討が開始された静岡県がん対策条例策定に当たって参考にされている。
その他のインパクト
■ 本研究を具現化した静岡がんセンターの患者・家族支援活動は2012年の朝日がん大賞を受賞した。
■ 静岡がんセンターのがん患者・家族支援活動は、4年間の研究期間中、新聞・雑誌等で61回報道され、テレビ等で28回放映された。
■ 尾道医師会の活動は、NHK Eテレで「最期まで地域で過ごしたい~地無で支える広島尾道」として放映された。
■ 本研究班の活動は、毎年7回行われる静岡新聞がん講座で地域住民に報告された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
76件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201313026Z