肺がんの浸潤・転移を抑制可能な分子標的の同定に基づく革新的テーラーメイド治療法の開発

文献情報

文献番号
201313020A
報告書区分
総括
研究課題名
肺がんの浸潤・転移を抑制可能な分子標的の同定に基づく革新的テーラーメイド治療法の開発
課題番号
H22-3次がん-一般-030
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 隆(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 長田 啓隆(愛知県がんセンター研究所)
  • 柳澤 聖(名古屋大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
12,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺がんの浸潤・転移に関わるCLCP1とCIMを分子標的とする革新的な分子診断・治療法開発の基盤を構築するとともに、新規転移関連分子の探索・同定を進める。
研究方法
CLCP1とCIMの肺がんの浸潤・転移における役割について、生化学的及び分子細胞生物学的に検討を加える。また、高転移性ヒト肺癌細胞株NCI-H460-LNM35(以下LNM35)株及びその低転移性親株(NCI-H460-N15(以下N15)株、並びに、ヒト肺がんと膵がんの腫瘍組織のプロテオミクス解析を統合的に進めることによって、新規転移関連分子の探索・同定を進める。
結果と考察
免疫沈降-ウェスタンブロット法及び、proximity ligation assay (PLA)法による検討によって、HGF非依存性の内因性のCLCP1とMETの結合を明らかとした。また、phos-tag法によって内因性CLCP1のリン酸化を検討し、EGF或いはMET添加によってリン酸化が亢進し、逆にEGFR・METのチロシンキナーゼ阻害剤によって、CLCP1のリン酸化は低下することを明らかとした。これらの研究成果によって、内因性のCLCP1とRTKとの結合とシグナルクロストークが強く示唆された。また、CLCP1の発現抑制によって、高転移性肺がん細胞株LNM35株のマウス移植腫瘍の増殖と、肺及びリンパ節への転移の抑制が観察された。同様に、他の複数の肺がん細胞株においても、有意な増殖抑制が見られた。
CIMと複合体を形成する分子として同定した、細胞運動能の付与に関わると考えられるCD2AP及びSH3KBP1との複合体形成に関し、CIMの N末とC末に存在するOS-9と相同性を有するドメインの欠失変異体を作成して免疫沈降法による解析を加えた。その結果、CIMはこれらの分子と、マンノース6リン酸受容体とも高い相同性を示すC末側のOS-9相同領域を介して結合することが明らかとなった。
がん転移の制御につながる新規候補標的分子として同定したDPYSL3の発現については、手術摘出膵がん組織検体を用いた検討を行った結果、正常主膵管組織と比較して、膵がん症例22検体中16検体(72.7%)において高発現を認めた。また、in vivoにおけるDPYSL3の転移への関わりについて、DPYSL3高発現膵がん細胞株CFPAC-1にDPYSLに対するsiRNAを導入後に、マウス尾静脈から注入して検討した。その結果、コントロールsiRNA処理群に比較して、顕著な肺への転移能の抑制を認めた。同様にDPYSL3を高発現するLNM35細胞株を用いた検討においても、DPYSL3の発現抑制による実験的肺転移能の減弱が観察された。
新たな転移関連分子の探索も継続した。LNM35株とN15株間で有意な発現差を示す約300種類の蛋白群について、肺がん手術摘出腫瘍組織119検体のプロテオミクス解析を通じて同定した術後予後と関連する約500種類の蛋白群との間で、統合的な比較検討を加えた結果、DPYSL3を含む約50種類の蛋白が共通していることが明らかとなった。
結論
本研究によって、CLCP1がSEMA4Bをリガンドとするとともに、EGFR及びMETと結合してシグナルのクロストークを示すことが明らかとなった。また、これまでに得られた研究成果とともに、分泌型SEMA4B及び分泌型CLCP1や、抗CLCP1抗体等を用いた分子標的薬の創薬開発に向け重要な基盤情報となるものと考えられる。予備的検討において、抗CLCP1抗体が細胞内に効率的に取り込まれることを見出しており、CLCP1の極めて高い腫瘍特異性と併せて考えると、武装化抗体への応用を含め、今後の診断・治療法の開発への応用が大いに期待される。
CIMが、がん細胞の微小環境における低酸素や小胞体ストレスに対する耐性を付与することを明らかとしてきた。さらに本年度の研究において、CIMによる運動能・浸潤能の制御機序に関わる結合分子として同定した、CD2AP及びSH3KBP1との結合ドメインの特定に成功した。今後、両分子との結合を阻害する化合物のスクリーニング法の樹立等へ向けた基盤情報として活用していきたい。
一方、高転移性LNM35株のプロテオミクス解析データについては、肺がん患者試料から得た情報との統合的解析を進めて、分子標的候補として、機能的な関与を明らかとしたDPYSL3を含む50種類余りに絞り込むことに成功しており、今後さらに検討を進めていきたいと考えている。 
以上の本研究によって得られた成果は、我が国のがん死亡原因第一位であり、年間7万超の生命を奪っている、難治がんの代表例たる肺がんの革新的治療法の開発に寄与するものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313020B
報告書区分
総合
研究課題名
肺がんの浸潤・転移を抑制可能な分子標的の同定に基づく革新的テーラーメイド治療法の開発
課題番号
H22-3次がん-一般-030
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 隆(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 長田 啓隆(愛知県がんセンター 研究所)
  • 柳澤 聖(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々が樹立した高転移性ヒト肺癌細胞亜株NCI-H460-LNM35(以下、LNM35)株を用いて、がんの浸潤・転移の抑制を可能とする新たな分子標的探索を進め、これまでに肺がんで過剰発現されているCLCP1とCIMの二つの転移関連分子を単離・同定してきた。本研究においては、これらの分子を中心に、肺がん死に至る病態の本態である浸潤と転移の分子機構の解明を進めて、革新的なテーラーメイド分子診断・治療法の開発の基盤となる情報を得ることを目指した。また、LNM35株と難治がん腫瘍組織試料を活用した横断的プロテオミクス解析を通じて、さらなる分子標的の探索・同定を目指した。
研究方法
CLCP1とCIMの肺がんの浸潤・転移における役割について、生化学的及び分子細胞生物学的に検討を加えた。また、高転移性ヒト肺癌細胞株LNM35株及びその低転移性親株NCI-H460-N15(以下、N15)株、並びに、ヒト肺がんと膵がんの腫瘍組織のプロテオミクス解析を統合的に進めることによって、新規転移関連分子の探索・同定を進めた。
結果と考察
CLCP1と、EGFR及びMET受容体型チロシンキナーゼ(RTK)との結合を見い出し、さらにCLCP1とRTK間のクロストークの存在を明らかとした。また、RTK以外のCLCP1結合分子のプロテオミクス解析による探索を行って、non-muscle myosin IIA及びβ-actinを同定した。さらに、CLCP1の発現抑制によって、運動能・浸潤能のみならず増殖能も低下させ得ることや、CLCP1の極めて高い腫瘍特異性を明らかとし、分子標的として武装化抗体等の開発に最適であることを示唆する結果を得た。
一方、CIMに関しては、HIF-1αを負に制御するOS-9に結合して抑制し、HIF-1αを正に制御すること、及び、BiPと結合し小胞体ストレス応答を正に制御することを明らかとした。また、プロテオミクス解析によるCIM結合タンパクの探索を進めて、CD2APとSH3KBP1の2つの分子を同定し、その結合がCIMによる肺がん細胞の運動能と転移能の付与に関わっていることを示唆する結果を得た。
また、LNM35株とN15株のプロテオミクス解析を行い、新規がん転移関連分子の探索を進めて、DPYSL3(dihydropyrimidinase-like 3)を同定し、運動能・浸潤能、及び、転移能の付与への機能的関与を明らかとした。DPYSL3結合蛋白の網羅的探索を通じて、ERM蛋白の一つのEzrinを同定するとともに、DPYSL3とEzrinの結合が、c-SrcによるEzrinのリン酸化を促進し、Ezrinとadhesion complex構成分子との会合を正に制御することを示した。さらに、LNM35株とN15株間で有意な発現差を示す約300種類の蛋白群について、肺がん手術摘出腫瘍組織119検体のプロテオミクス解析を通じて同定した術後予後と関連する約500種類の蛋白群との間で、統合的な比較検討を加えた結果、DPYSL3を含む約50種類の蛋白が共通していることを明らかとした。
結論
CLCP1の高い腫瘍特異性と肺がんの発生・進展に関わる分子機序を明らかとした本研究成果は、その分子標的としての有用性を強く示唆している。分泌型SEMA4Bや分泌型CLCP1、或いは、抗CLCP1抗体等を用いた、CLCP1を分子標的とする開発を推進し、高い独自性を持つ革新的な診断・治療法の実現へとつなげていきたい。
一方、CIMについては、低酸素への応答、或いはグルコース・アミノ酸などの栄養供給の低下やpH変化などによって惹起される小胞体ストレスの制御に関わり、癌細胞の転移成立過程における不十分な微小環境への適応に寄与して、がん細胞に転移能を賦与していることを示唆する結果が得られた。さらに、CIMによるがん細胞への運動能・浸潤能の付与に関わる分子機序についても、プロテオミクス技術を応用した網羅的探索を通じたCIM結合蛋白の同定を通じて重要な示唆を得ることができた。今後は得られた情報をもとに、がん細胞の転移能阻害活性を持つ化合物のin silicoスクリーニング法の確立等につなげて行きたい。
また、LNM35株とN15株を用いたプロテオミクス解析によって得られた情報と、肺がん並びに膵がん臨床検体から取得した情報との統合的な解析により、これらの難治がんにおける運動能・浸潤能の獲得へのDPYSL3の関与を明らかにすることができた。同時に、50種類余りの他の候補転移関連分子も同定しており、今後さらにこれらの分子についても、肺がん及び膵がんの転移・浸潤の成立過程における機能的な役割を含め詳細な検討を行い、これらの代表的難治がんに対する革新的な診断・治療法の開発基盤の確立につなげて行きたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肺がんにおける過剰発現を見出したCLCP1とCIMの二つの転移関連分子を中心に、肺がん死に至る病態の本態である浸潤と転移の分子機構の解明が進んだ。また、LNM35株と難治がん腫瘍組織試料を活用した横断的プロテオミクス解析を通じて、さらなる分子標的の探索・同定が進んだ。
臨床的観点からの成果
CLCP1とCIMが肺がんの発生・進展において果たす役割を明らかとした本研究成果は、これらの分子を標的とする、独自性の高い難治がんに対する革新的な診断・治療法の実現につながるものと期待される。また、本研究においてプロテオミクス解析を通じて探索・同定した新規転移関連候補分子について今後さらに詳細な検討を加えることによって、代表的難治がんに対する革新的な診断・治療法の開発基盤の確立につながることが期待される。
ガイドライン等の開発
該当せず
その他行政的観点からの成果
該当せず
その他のインパクト
該当せず

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawahara T, Hotta N, Ozawa Y, et al.
Quantitative proteomic profiling identifies DPYSL3 as pancreatic ductal adenocarcinoma-associated molecule that regulates cell adhesion and migration by stabilization of focal adhesion complex.
PLoS ONE , 8 , e79654-  (2013)
原著論文2
Yamaguchi T, Hosono Y, Yanagisawa K, et al.
NKX2-1/TTF-1: an enigmatic oncogene that functions as a double-edged sword for cancer cell survival and progression.
Cancer Cell , 23 , 718-723  (2013)
原著論文3
Hosono Y, Yamaguchi T, Mizutani E, et al.
MYBPH, a transcriptional target of TTF-1, inhibits ROCK1, and reduces cell motility and metastasis.
EMBO J , 31 , 481-493  (2012)
原著論文4
Osada H, Takahashi T
let-7 and miR-17-92: small-sized major players in lung cancer development.
Cancer Sci , 102 , 9-17  (2011)
原著論文5
Murakami H, Mizuno T, Taniguchi T, et al.
LATS2 is a tumor suppressor gene of malignant mesothelioma.
Cancer Res , 71 , 873-883  (2011)
原著論文6
Hu Q, Akatsuka S, Yamashita Y, et al.
Homozygous deletion of CDKN2A/2B is a hallmark of iron-induced high-grade rat mesothelioma.
Lab Invest , 90 , 360-373  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-08-03

収支報告書

文献番号
201313020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,600,000円
(2)補助金確定額
16,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,956,804円
人件費・謝金 813,196円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 3,830,000円
合計 16,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-09-10
更新日
-