文献情報
文献番号
201313019A
報告書区分
総括
研究課題名
がん特異的細胞性免疫の活性化を基盤とする新たな治療の開発
課題番号
H22-3次がん-一般-029
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
葛島 清隆(愛知県がんセンター研究所 腫瘍免疫学部)
研究分担者(所属機関)
- 赤塚 美樹(藤田保健衛生大学 血液内科)
- 神田 輝(愛知県がんセンター研究所 腫瘍ウイルス学部 )
- 藤田 貢(愛知県がんセンター研究所 腫瘍免疫学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,334,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1)免疫逃避したがん細胞が提示する新規腫瘍抗原の同定、2)マイナー組織適合抗原特異的CTLの解析と臨床応用、3)WT1発現リンパ芽球様細胞株(LCL)の抗原提示細胞としての有用性の検証および4)肺がん転移性脳腫瘍発症における骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell, MDSC)の役割と治療標的の同定について実施した。1)HLA-A24拘束性にがん細胞を認識するCTLクローンD12の標的抗原を同定することを目的とした。2)HLA-A2/HA1を認識するchimeric antigen receptor(CAR)を導入したT細胞の機能を検討することを目的とした。3)改良型bacterial artificial chromosome(BAC)クローンの分子基盤を明らかにすることを目的とした。4)肺がん転移性脳腫瘍発症におけるMDSCの役割を検討することを目的とした。
研究方法
1)HLA-A24を導入したHEK293T細胞にK562細胞のmRNAから作製したcDNAライブラリーのプラスミドを導入しD12と混合培養した。上清中にD12から分泌されたIFNγをELISA法で測定した。短縮遺伝子と合成ペプチドを用いてエピトープを同定した。2)HLA-A2/HA1テトラマーで免疫したマウス脾細胞のmRNAを用いて、ファージdisplayライブラリーを作製し、HLA-A2/HA1に特異的な単鎖抗体遺伝子を単離した。これにCD28とCD3の細胞内ドメインの一部を結合しレトロウイルスベクターを用いてT細胞に導入した。標的細胞への反応性を細胞傷害実験とサイトカインELISA法で測定した。3)B95-8株EBウイルスで欠失しているBART領域をAkata株ゲノム断片で修復した。BAC導入細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで解析した。ターゲット検索プログラムから予測された結果と照合して候補遺伝子を選択した。4)マウス肺がん脳転移モデルにアスピリンを投与して生存率および腫瘍生着率などを観察した。肺がん既往がある脳腫瘍患者末梢血CD14+細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで解析した。
結果と考察
1)D12が認識する遺伝子としてHSP90AB1を同定しエピトープを決定した。D12は正常細胞は認識しなかったが、siRNAによってtransporters associated with antigen processing(TAP)を抑制した癌細胞株を認識した。免疫圧力を受けたがん細胞ではTAPが失われることがある。本エピトープは正常細胞では提示されないので免疫療法の標的となり得る可能性がある。2)異なる親和性を持つ2種のCARをそれぞれ導入したT細胞は、検出限界ペプチド濃度において差を認めなかった。これまで親和性が低いとして断念していた抗体や、抗原量が少ない腫瘍もCAR-T療法の対象とできる可能性が示唆された。3)BART領域補填BAC導入細胞において、BARTマイクロRNA群の高発現とWnt抑制因子をコードする遺伝子の発現抑制を認めた。結果的にWnt経路が活性化されることになる。こうしたシグナル伝達経路の活性化が、効率の良い組換えウイルス産生に貢献する可能性が示された。4)アスピリン投与マウスにおいて、生存率上昇、脳腫瘍生着率とMDSCの腫瘍内集積の著明な低下を認めた。肺がん転移性脳腫瘍患者では健常人と比べて末梢血中のMDSC増加がみられ、そこではCD276の発現が上昇していた。転移性脳腫瘍の発症初期にMDSCが組織内に集積し、腫瘍に有利な微小環境を形成していること、および共刺激分子CD276がMDSCの免疫抑制機能に関わっていることが示唆された。
結論
1)TAP欠損細胞表面のHLA-A24分子によって提示されるHSP90βに由来するCTLエピトープをcDNA発現クローニング法によって同定した。免疫逃避した後のがん細胞のみに提示されると推察されるため新しい免疫療法の標的となり得る可能性がある。2)HLAに結合したマイナー抗原ペプチドを認識するTCR様抗体とCAR-Tを作製し、その機能および抗体の親和性や抗原量との関係、エフェクター機能について詳細に解析し、TCR様抗体を組み込んだCAR-TがHLA/ペプチド複合体を認識することを示した。今後は実際の抗腫瘍効果やoff-target効果の有無を検討し、臨床応用が可能か評価する。3)EBウイルスマイクロRNAによって一部の細胞性遺伝子の発現が制御を受けていた。組換えEBウイルスを用いて作製するLCLのさらなる改良に資する結果と考えられた。4)転移性脳腫瘍制御のために、CD276を標的分子とするMDSC除去を軸にした新規治療・予防の可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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