文献情報
文献番号
201313015A
報告書区分
総括
研究課題名
低線量らせんCTを用いた革新的な肺がん検診手法の確立に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-020
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中山 富雄(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター 疫学予防課)
研究分担者(所属機関)
- 長尾 啓一(東京工業大学保健管理センター)
- 新妻 伸二(新潟労働衛生協会プラーカ健康増進センター)
- 峯岸 裕司(日本医科大学内科学講座呼吸器・感染・腫瘍部門)
- 中川 徹((株)日立製作所日立健康管理センタ)
- 西井 研治(公益財団法人岡山見健康づくり財団附属病院)
- 岡本 直幸(地方独立行政法人神奈川県立がんセンター 臨床研究所がん予防・情報学部)
- 佐藤 雅美(国立大学法人鹿児島大学医学部大学院医歯学総合研究科 先進治療科学専攻循環器・呼吸器病学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
低線量CTを用いた肺がん検診は、莫大な費用とマンパワーを要することもあり、安易に胸部単純X線検査の代替えとすることはできない。また、画像診断で早期に検出できない肺門部扁平上皮がんの発見のために喀痰細胞診が併用されてきたが、肺門部がんの罹患率の低下により、喀痰細胞診の併用についても再検討が必要な時期である。そこで、本研究では、1)低線量CT、単純X線、喀痰細胞診の肺がん死亡率減少効果を測定すること、2)肺門部扁平上皮がんの罹患数の将来予測を行うこと、3)3つの検診手の特性を生かし、医療経済学的に最適化された肺がん検診システムを構築することを目的とする。効果が確立した検診を普及させるにあたっては、費用やマンパワーなどの経済的な問題を解決する必要がある。そこで性・年齢・喫煙状況などのリスク要因毎に各検診手法による肺がん死亡率を測定し、費用効果分析を行うことで、医療経済学的に最適化された対象者・検診間隔・各検診手法の組み合わせ方を明らかにすることができる。このことにより、限られた資本の範囲内で、効果を最大化させた肺がん検診システムを構築することが可能となり、高齢化の進行により更に増加すると予想される肺がん死亡の延びを食い止めることが可能になると考えられる。
研究方法
(研究A)CT検診受診者と通常検診受診者のコホートを用いて、喫煙状況・検診受診回数別・年齢階級別の肺がん死亡ハザード比をPoisson regression modelを用いて測定した。(研究B)喀痰検診の効果の大きさを推定するために、平成21年度の男性喀痰細胞診検診受診者(40~79歳、20万人弱)での肺門部扁平上皮癌発見数を推計した。また喀痰細胞診の死亡率減少効果を5~30%として喀痰細胞診の肺癌死亡減少数を推計した。また喀痰細胞診の判定のバラツキを評価するため、C判定以上の標本150例について結果をブラインドとして6施設でそれぞれ再判定した。(研究C)研究Aで得られたCT、単純X線の死亡率減少効果を元に、喫煙者(年1回のCT検診)、非喫煙者(5年に1回のCT検診)のシナリオで、年1回の単純X線検診との間で、1人年延長に要する費用効果比と、増分費用効果比を年齢階級別に比較した。
結果と考察
(研究A)喫煙状況別・検診受診回数別の解析を行い、喫煙者では単回受診ではいずれの年齢階級でも死亡率減少効果は確認されなかったが、2回以上連続受診者では60歳代において27%の死亡率減少効果が確認された。非喫煙者では単回受診でも複数回受診でも死亡率減少効果は確認され、60歳代では統計学的有意であった。(研究B)平成22年度の男性の喀痰細胞診検診受診者中の肺癌死亡減少数を推計したところ、40~79歳199,892人の受診者では、大阪府がん登録資料での年齢階級別扁平上皮癌罹患率を用いると、283.9人が扁平上皮癌に罹患すると推計された。このうち肺門部扁平上皮癌を14.8~24.4%とすると、喀痰細胞診受診者の肺門部扁平上皮癌数は37.0~60.9例、喀痰細胞診による死亡率減少効果を5~30%とすると喀痰細胞診での推計死亡減少数は1.8~18.3人/年と推計された。C判定以上の細胞診標本を6施設で再判定したが、6施設すべて同一の判定となったのは14%(21/150)にとどまり判定のバラツキが大きいことが示唆された。(研究C)喫煙者では胸部X線の方が低線量CTよりも費用効果比が良好であったが、60~69歳の増分費用効果比(ICER)は860万円であり、かろうじて許容範囲内であった。非喫煙者では40~59歳をのぞき、他の年齢階級ではCT検診の方が費用効果比が良好であり、ICERも許容範囲内であった。
結論
低線量CT検診果は、喫煙者では年1回で60歳代に小さな死亡率減少効果、非喫煙者では60歳以上に大きな死亡率減少効果が確認されたが検診間隔は年1回でも単回でも差はなく検診間隔の拡大は可能と考えられた。喀痰細胞診については、罹患率そのものが小さいため現行の20万人弱の受診者数でも10名程度の死亡減少数しかないことが推計された。CT検診の費用効果分析は、喫煙者に限ると60歳代のみ許容範囲内であったが、非喫煙者では検診間隔を5年と設定すると60歳代・70歳代で医療経済学的にもCT検診の導入が可能であることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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