発がんリスクの低減に資する効果的な禁煙推進のための環境整備と支援方策の開発ならびに普及のための制度化に関する研究

文献情報

文献番号
201313012A
報告書区分
総括
研究課題名
発がんリスクの低減に資する効果的な禁煙推進のための環境整備と支援方策の開発ならびに普及のための制度化に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(大阪がん循環器病予防センター 予防推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 富雄(大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
  • 田中 英夫(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院研究情報支援センター)
  • 片野田 耕太(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部)
  • 望月 友美子(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策研究部)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,455,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、たばこによる発がんリスクの大幅な低減を目指して、禁煙治療・支援の推進と禁煙推進のための環境整備の両視点から、禁煙者を増加させるための効果的な方法論を開発するとともに、制度化等の普及方策を検討し、研究成果を政策につなげることにある。
研究方法
禁煙治療・支援の推進に関する研究として、喫煙者コホートのデータを使って健診や医療の場での禁煙アドバイスの効果を現実的な条件下で調べたほか、模擬喫煙者を用いた指導技術の評価手法により、禁煙支援のトレーニングによる指導技術の変化と喫煙者への禁煙支援の効果の関連性を検討した。
喫煙者に禁煙を動機づける環境整備に関する研究として、2010年のたばこ税・価格の引き上げ(1箱約110円)の影響を低価格帯のたばこ製品への消費移行について分析した。受動喫煙防止に関しては、受動喫煙防止の法規制がサービス産業の経済に与える影響についての文献レビューと、店舗の禁煙化を進めている某ファミリーレストランチェーンの営業収入の変化を分析した。
たばこ規制政策の健康面・経済面の効果予測に関する研究としては、がん対策推進基本計画で設定された成人喫煙率の減少目標(2022年に12%)達成の方策として、受動喫煙防止の法制化、検診・健診の場での禁煙支援の普及、クイットラインの整備の3つの政策とたばこの値上げの最適な組み合わせについて検討した。また、本研究班で開発したたばこ対策の効果予測のモデルを活用して、成人喫煙率の減少目標の達成により回避できる死亡数と医療費の節減効果について都道府県別に推計を行った。また、禁煙による健康状態や医療費への影響を集団単位で算出するシミュレーションソフトを開発した。
今年度は研究の最終年度として、政策提言用のファクトシートを作成した。内容は、たばこ税・価格の引き上げ、受動喫煙防止の法規制の強化、禁煙治療・支援全般、がん検診の場での禁煙支援、クイットラインの整備の5種類である。
結果と考察
健診や医療の場での禁煙アドバイスは禁煙試行率を有意に高めたが、禁煙率については有意な向上がみられなかった。その理由として、健診と医療の両方でアドバイスを受けた者でも禁煙治療の利用率が1割程度と低いことから、今後、医療や健診・検診時の禁煙アドバイスの実施率と質の向上、禁煙支援・治療の活動を有機的につなぐ日本版クイットラインの整備、諸外国で実施されている公的なメディアキャンペーンによる禁煙の啓発が必要と考えられた。また、禁煙支援のトレーニングにより指導技術が高まること、トレーニング後の指導技術と禁煙支援を受けた喫煙者の禁煙率との間に正の相関関係がみられることを国際的に初めて明らかにした。
次に、2010年のたばこ税・価格の引き上げの影響を分析し、低価格帯の製品への消費増加が増税によるたばこ消費低減効果を減弱することを明らかにした。今回の値上げは喫煙率やたばこ販売量に一定の影響があったものの、効果は単年度にとどまり、国際的にたばこ価格が安価な現状にあっては、国民の健康を守る観点から今後大幅な引き上げが必要と考えられた。受動喫煙防止の法規制がサービス産業の経済に与える影響について文献レビューを行い、たばこ産業との関連がない研究論文では、66論文中64論文で法規制による営業収入への影響はないことを確認した。また、店舗の禁煙化を進めている某ファミリーレストランチェーンの禁煙化前後の営業収入を分析した結果、客席の禁煙化は営業収入にむしろ好影響がみられた。
がん対策推進基本計画で設定された成人喫煙率の減少目標を達成する方策としては、受動喫煙防止の法制化、検診・健診の場での禁煙支援の普及、クイットラインの整備の3つの政策で成人喫煙率14%まで減少可能であり、12%を達成するためには200円以上のたばこの値上げを組み合わせることが必要と試算された。これらの推計結果は、成人喫煙率12%の実現可能性とその方策を検討する上での貴重な資料となる。また、都道府県別に推定した成人喫煙率12%の実現による回避死亡数と医療費節減効果のデータや、禁煙による健康状態や医療費への影響を集団単位で算出するシミュレーションソフトを国や都道府県に提供し、今後の対策の推進に役立てたい。
作成したファクトシートは、関連学会や学術組織などと連携して、政策決定者やたばこ規制に関わる関係者のほか、メディアにも提示して世論形成を図りながら、たばこ規制を推進していきたい。
結論
たばこ規制・対策は国民の命を守る上で優先順位の高い政策である。また、諸外国の経験から、たばこ規制・対策により、喫煙関連疾患の減少に伴い医療費も減少することが期待される。今後、たばこ規制枠組条約に基づいてたばこ規制・対策が総合的に推進されるよう、政策研究を継続することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313012B
報告書区分
総合
研究課題名
発がんリスクの低減に資する効果的な禁煙推進のための環境整備と支援方策の開発ならびに普及のための制度化に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(大阪がん循環器病予防センター 予防推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 富雄(大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
  • 田中 英夫(愛知県がんセンター研究所疫学・予防部)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院研究情報支援センター)
  • 片野田 耕太(国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部)
  • 望月 友美子(国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策研究部)
  • 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、たばこによる発がんリスクの大幅な低減を目指して、禁煙治療・支援の推進と禁煙推進のための環境整備の両視点から、禁煙者を増加させるための効果的な方法論を開発するとともに、制度化等の普及方策を検討し、研究成果を政策につなげることにある。
研究方法
禁煙治療・支援の推進に関する研究については、第2期特定健診・特定保健指導の見直しにむけて、本研究班の研究成果をもとに、関連学会と連携して喫煙に関する保健指導の強化にむけた政策提言と教材作成を行った。肺がん検診の場での短時間の個別禁煙介入(診察医師の禁煙助言と保健師による1分程度の禁煙支援)の有効性の検証、わが国の実態に合ったクイットライン(無料の禁煙電話相談)の制度化にむけた基礎的検討としてのパイロット研究、禁煙支援のトレーニングによる指導技術の変化と禁煙支援の効果との関連性の検討を実施した。
喫煙者に禁煙を動機づける環境整備に関する研究としては、2010年のたばこ税・価格の引き上げの影響の評価、神奈川県の受動喫煙防止条例の効果検証、受動喫煙防止の法規制がサービス産業の経済に与える影響についての文献レビューのほか、某ファミリーレストランのデータを用いて施設の禁煙化に伴う売り上げの変化を検討した。
たばこ規制政策の健康面・経済面の効果予測に関する研究としては、2012年のがん対策推進基本計画の見直しにおいて、成人喫煙率の減少と受動喫煙防止の数値目標の設定に必要なデータの提供や政策に関する提案を行った。さらに、成人喫煙率の減少目標(2022年に12%)を達成するために必要な政策の検討や、目標の達成により回避できる死亡数と医療費の節減効果の推計等を実施した。
4年間の研究のまとめとして、たばこ税・価格の引き上げ、受動喫煙防止の法規制の強化、禁煙治療・支援全般、がん検診の場での禁煙支援、クイットラインの整備の5種類からなる政策提言用のファクトシートを作成した。
結果と考察
本研究班が2011~12年度にかけて行った政策提言を受けて、第2期特定健診・特定保健指導において、喫煙に関する保健指導の強化が実現した。さらに、今後の取り組みを促すために厚生労働省が公開したマニュアル等の教材についても、本研究班が原案作成を行った。肺がん検診の場での短時間の個別禁煙介入については、禁煙率が約3倍有意に高まることが明らかになり、がん検診においても禁煙支援の制度化が必要であると考えられた。クイットラインの制度化については、今後、施策としてのインパクトが期待できるproactive方式での方法論の開発と有効性の検証が必要と考えられた。また、禁煙支援のトレーニングにより指導技術が高まること、トレーニング後の指導技術と禁煙支援の効果(禁煙率)との間に正の相関関係があることを国際的に初めて明らかにした。
2010年のたばこ税・価格の引き上げ(1箱約110円)の影響を評価した結果、今回の効果は単年度にとどまり、国民の健康を守る観点から今後大幅もしくは定期的な引き上げが必要と考えられた。神奈川県の受動喫煙防止条例の効果検証の結果、官公庁や学校などの公共性の特に高い施設においても喫煙室の設置を可としていることの見直しの必要性を確認した。受動喫煙防止の法規制がサービス産業の経済に与える影響については、文献レビューの結果、営業収入への影響はないことを確認した。某ファミリーレストランの営業収入の分析の結果、店舗の禁煙化によりむしろ好影響がみられた。
たばこ規制政策の健康面・経済面の効果予測に関して、特に重要な研究成果は、がん対策推進基本計画において成人喫煙率の減少と受動喫煙防止の数値目標を設定できたことである。研究班では数値目標の設定に必要なデータの提供や政策に関する提案を行った。成人喫煙率の減少目標を達成するためには、受動喫煙防止の法制化、検診・健診の場での禁煙支援の普及、クイットラインの整備の3つの政策に加えて、200円以上のたばこ価格の引き上げが必要であることを明らかにした。また、成人喫煙率の減少目標の達成により回避できる死亡数と医療費の節減効果を都道府県別に推計した。今後、これらのデータを国や都道府県に提供し、対策の推進に役立てたい。
4年間の研究のまとめとして、政策提言用のファクトシートを作成した。今後、関連学会等と連携して、ファクトシートを政策決定者や担当者をはじめ、メディアにも提示し、世論形成を図りながら、たばこ規制を推進していきたい。
結論
たばこ規制・対策は国民の命を守る上で優先順位の高い政策である。今後、喫煙の健康被害を防止するために、国際的にみて取り組みが遅れているたばこ規制・対策をたばこ規制枠組条約に基づいて総合的に推進する必要がある。そのためには、エビデンスと政策のギャップを解消するための政策研究の充実を図ることが重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2010年のたばこの値上げの影響を喫煙率やたばこ消費、税収、価格弾力性等から検討し、その総括として、効果は単年度にとどまり、国民の健康を守る観点から値上げの継続が必要であることを明らかにした。また、模擬喫煙者への面接による禁煙支援技術の評価方法を開発し、トレーニングによる支援技術の向上と、トレーニング後の支援技術と禁煙支援の効果(禁煙率)との正の相関関係を国際的に初めて明らかにした。肺がん検診の場で短時間の個別禁煙介入の効果を調べ、6ヵ月後の禁煙率が約3倍有意に高まることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
喫煙者の禁煙行動モニタリング調査から、禁煙試行者における禁煙治療や禁煙補助薬の利用率、医師からの禁煙アドバイスの実施率が欧米先進諸国に比べて低いことを明らかにした。また、医療や健診の場での禁煙アドバイスの現実的な条件下での効果を調べた結果、禁煙試行率は有意に高まるが、禁煙率の有意な向上はみられなかった。今後、禁煙治療の利用率を高める禁煙アドバイスの量と質の向上、日本版クイットラインの整備、公的なメディアキャンペーンが必要と考えられた。
ガイドライン等の開発
第二期特定健診・特定保健指導における喫煙の保健指導の強化を受けて厚生労働省が公開した「禁煙支援マニュアル(第二版)」等の教材について、本研究班でその原案の作成と指導者用ビデオ教材の作成を行った。また、研究成果をたばこ政策の推進につなげるため、たばこ増税政策、受動喫煙防止対策、がん検診の場での禁煙支援やクイットラインの整備に関する5種類の政策提言用のファクトシートを作成した。作成したファクトシートの普及を図ることにより、国ならびに自治体での効果的なたばこ規制の立案・実践につながることが期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究班での介入研究等の成果をもとに関連学会と連携して行った政策提言を受け、第二期特定健診・特定保健指導において喫煙に関する保健指導の強化が実現した。平成24年にがん予防重点健康教育ならびにがん検診実施のための指針が改正され、本研究班の成果に基づき、肺がん検診において短時間の禁煙指導の効率的な実施を図るよう記載された。平成24年のがん対策推進基本計画の見直しと健康日本21(第二次)の策定において、数値目標設定に必要なデータ等の提供を行い、成人喫煙率の減少や受動喫煙防止の数値目標の設定に貢献した。
その他のインパクト
本研究班が作成に協力した厚生労働省の「禁煙支援マニュアル(第二版)」の公開に合わせて、指導者の理解を深めるために本研究班で作成した講義やカウンセリングのビデオをホームページで公開した。5種類の政策提言用のファクトシートについても厚生労働省のe-ヘルスネットや関連の研究班等のホームページで公開している。また、2010年のたばこの値上げの影響が一時的で国民の健康を守る観点から今後継続した値上げが必要であることをマスメディアでの記事掲載を通して周知を図った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
100件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
79件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
8件
その他成果(普及・啓発活動)
12件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
伊藤ゆり, 中村正和
たばこ税・価格の引き上げによるたばこ販売実績への影響
日本公衆衛生雑誌 , 60 (9) , 613-618  (2013)
原著論文2
谷口千枝,田中英夫,武田佳司実,他
薬局での対面販売による禁煙補助薬によって禁煙成功者を生み出すのに要したコストの推計
厚生の指標 , 61 (3) , 25-31  (2014)
原著論文3
Taniguchi C, Tanaka H, Nakamura N, et al.
Varenicline is more effective in attenuating weight gain than nicotine patch 12 months after the end of smoking cessation therapy: an observational study in Japan
Nicotine & Tobacco Research  (2014)
原著論文4
大和 浩,太田雅規,中村正和
某ファミリーレストラングループにおける客席禁煙化前後の営業収入の相対変化-未改装店、分煙店の相対変化との比較
日本公衆衛生雑誌 , 61 (3) , 130-135  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-07-10

収支報告書

文献番号
201313012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,800,000円
(2)補助金確定額
14,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,144,618円
人件費・謝金 4,655,045円
旅費 1,247,620円
その他 4,408,802円
間接経費 1,345,000円
合計 14,801,085円

備考

備考
研究に必要な消耗品の購入にあたって、不足分を自己資金で補ったため

公開日・更新日

公開日
2015-09-10
更新日
-