文献情報
文献番号
201313007A
報告書区分
総括
研究課題名
造血器悪性腫瘍及び転移性がんで高頻度に異常を来している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に資する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 造血器腫瘍研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 赤司 浩一(九州大学大学院 医学研究院 病態修復内科学)
- 堺 隆一(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 転移浸潤シグナル研究分野)
- 的崎 尚(神戸大学大学院医学研究科 シグナル統合学分野)
- 早川 文彦(名古屋大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
44,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、本研究事業の先行研究を通して申請者らが独自に明らかにしてきた成果の中で、特に再発や転移に深く関与するがん幹細胞やチロシンリン酸化シグナルに関する研究を発展させて、造血器腫瘍や転移性がんに対する新たな治療法の開発を目指す。本研究の目指す分子標的療法が確立され、再発や転移が抑制されることにより、難治性がんに対する新しい治療法が開発され、生存率を格段に改善することが期待される。
研究方法
治療抵抗性と再発の原因となるをがん幹細胞を死滅させ根治を得るために、がん幹細胞分画に特異的に発現する抗原を同定する。これまでに白血病幹細胞特異的分子としてTIM3およびM-CSFRを同定したので、これらに対する抗体医薬や阻害剤を用いて白血病幹細胞のみを根絶する新規治療法を開発する。また、多くのがんで高頻度に変異や活性化が見られるチロシンキナーゼ及びその下流シグナル分子の様々ながんの発症や転移・浸潤能の獲得における役割を明らかにし、チロシンリン酸化シグナルを標的とした新たな治療法を開発する。申請者らは、受容体型チロシンキナーゼFLT3、KIT、M-CSFRの阻害剤を開発した。FLT3阻害剤については臨床試験を開始し、その他についてもその検討を行っている。また、チロシンキナーゼの下流シグナル分子であるSTAT3/5阻害剤も開発済みで、この阻害機序を明らかにすると共に、治療対象となる最適の癌種を同定するなど臨床応用への検討を行なう。また、p130Cas、CDCP1、Ossaなどのsrcファミリーチロシンキナーゼの基質分子を中心に転移・浸潤治療のモデルを樹立し、そのシグナルのブロックにより腫瘍の転移・浸潤の防御をもたらす分子標的治療のモデルを開発する。さらに、Shp2やSAP-1などのチロシンホスファターゼ(PTP)のがん化や浸潤・転移におけるPTPの役割を明らかにし、これらの治療標的としての可能性を探る。
結果と考察
急性骨髄性白血病(AML)幹細胞に関しては、特異的に高発現する表面抗原Tim-3及びM-CSFRを同定した。白血病幹細胞を含むAML細胞がTIM-3のリガンドであるgalectin-9をautocrine機構により分泌し、自身の細胞表面のTIM-3分子と結合させてシグナルを生じている事を見出した。さらにTIM-3シグナルの標的としてNF-kB経路を同定した。本研究事業において抗腫瘍活性を確認したSTAT阻害剤OPB-31121は広範な造血器腫瘍において上流キナーゼを阻害する事なくSTAT3及びSTAT5を抑制し、その腫瘍抑制効果は、STATシグナルへの依存性の強い事が確立されている癌遺伝子(BCR-ABL、FLT3/ITDなど)を持つ腫瘍において特に顕著でそれはマウスモデルにおいても示された。また、リンパ球分化に重要な転写因子PAX5の異常による初めての白血病モデルとしてPAX5-PMLを導入したproB細胞を移植したマウスによる白血病モデルを作製し、このモデルにおいては数多いPAX5の転写標的の中でも、BLNK、CD23、CD72の発現低下が顕著である事を発見した。転移性がんの多くで高発現やリン酸化の見られるCDCP1の発現はRasが活性化した腫瘍で有意に高く、Ras-Erk経路の下流でCDCP1が誘導されることが示された。同時に活性型Rasで誘導される浸潤能はCDCP1経路の抑制でキャンセルされ、活性型Rasのもたらす悪性形質の少なくとも一部はCDCP1に依存していることが明らかになった。さらにCDCP1における足場非依存性の獲得はオートファジーの抑制を伴い、CDCP1を抑制した時に誘導される浮遊状態での細胞死(アノイキス)はオートファジーを抑制すると減少することが示された。また。乳がんの浸潤モデルにおいては、CDCP1は細胞外マトリックス分解を伴うinvadopodiaという構造体の形成に関わることが明らかになった。受容体型チロシンホスファターゼであるSAP-1の脱チロシンリン酸化基質として膜貫通型糖化分子であるpp90を同定し、p90はSAP-1と同様に腸上皮細胞に高度に発現し微絨毛に局在すし、その細胞質内領域に会合するチロシンキナーゼを介して炎症に重要なシグナルを刺激し、ケモカインの誘導を促進することを明らかにした。細胞質型チロシンホスファターゼShp2の結合分子SIRPαはマクロファージによる貪食を抑制的に調節している。がん細胞株に対する分子標的薬の腫瘍抑制を、抗SIRPα抗体がさらに増強することを明らかにした。
結論
本研究で得られた知見は、正常造血幹細胞には影響を与えずに、腫瘍の本体ともいえる白血病幹細胞を特異的に標的とした種々の治療戦略を構築する基盤になるものであると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
-