浸潤・転移等、がんの重要な臨床的特性の病理・病態学分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に資する研究

文献情報

文献番号
201313006A
報告書区分
総括
研究課題名
浸潤・転移等、がんの重要な臨床的特性の病理・病態学分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に資する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 源一郎(独立行政法人 国立がん研究センター 東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理分野)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 保典(慶應義塾大学医学部)
  • 坂元 亨宇(慶應義塾大学医学部)
  • 加藤 光保(筑波大学大学院)
  • 荒川 博文(国立がん研究センター研究所)
  • 平岡 伸介(国立がん研究センター研究所)
  • 神奈木 玲児(愛知医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
26,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は、ヒトがん組織に特徴的な病理形態・病態像を抽出し、この分子機構を解明する手段として動物モデルおよび試験管内モデルを作製し、明らかになった分子基盤を元に新しい診断法
や治療法の開発を目指すものである。
研究方法
平成25年度までに、以下の5項目を主体に検討を行った。
1)がん組織を構成する非がん細胞の生物学的意義、およびその特性に基づいた動物試験 (石井)
2)がん細胞の悪性像に関わる分子の同定、悪性化に関わる分子機構、およびその特性に基づいた動物試験 (岡田、坂元) 3)がん細胞に特徴的なシグナル/代謝変化、特にTGF-bシグナル、ミトコンドリアの機能異常が悪性化に及ぼす機構の解明 (加藤、荒川) 4)がん組織における免疫微小環境の解明と抗腫瘍性免疫微小環境を目指した制御機構の検討 (平岡) 5)グライコーム研究によるがん進展に特徴的な糖鎖修飾の意義の解明と臨床応用(神奈木)
結果と考察
1)ヒト肺腺癌の流出血管 (肺静脈内) に存在するCD204(+)マクロファージ数は、術後早期再発の予測。因子となることが判明した。CD204(+)マクロファージをマウス尾静脈より投与すると、がん細胞の肺転移が促進され、MMPs inhibitor投与により、肺転移は抑制された。
2)ADAM28を標的としたヒト型中和抗体(Ab 211-12とAb 211-14)を開発した。本抗体をマウスに
投与することにより、乳癌細胞の局所増殖および肺癌細胞の転移抑制効果を確認することができた。
3)ヒト膵癌組織切片を用いた検討を行い、primary cilia 陽性膵癌症例では、リンパ節転移が有意に多く、予後不良であることを見出した。
4)がん細胞内におけるMafK-Gpnmbを介したシグナルは、TGF-bによる腫瘍形成促進機構を説明する一要因となりうることが示唆された。
5)低酸素環境下に於いてp53の変異やMieap/BNIP3のメチル化によるMieap制御性ミトコンドリア
品質管理機構の不活性化が、ミトコンドリアからのROSの産生上昇を引き起こし、大腸がん細胞の遊走能・浸潤能を増強することを明らかにした。
6)ヒト膵癌組織切片を用いて、腫瘍内部に3次リンパ装置が形成される症例を見出した (約15%)。
膵がん組織内の3次リンパ装置の存在が宿主の抗腫瘍免疫を量る指標になること、予後予測の指標になることを明らかにした。
7)ヒトB細胞性悪性腫瘍におけるα2-6シアリル6-スルホ糖鎖の発現解析を施行した。B細胞性悪性腫瘍細胞では、発現低下が認められ、腫瘍細胞のリンパ節浸潤の頻度と相関していた。

結論
上記研究結果は、いずれもヒト臨床検体を用いて確認された事象であり、今回作製した動物モデル、
試験管モデルは共に、ヒト生体内微小環境を模倣することが確認された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201313006B
報告書区分
総合
研究課題名
浸潤・転移等、がんの重要な臨床的特性の病理・病態学分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に資する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 源一郎(独立行政法人 国立がん研究センター 東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理分野)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田保典 (慶應義塾大学医学部)
  • 坂元亨宇(慶應義塾大学医学部)
  • 加藤光保(筑波大学大学院)
  • 荒川博文(国立がん研究センター研究所)
  • 平岡伸介(国立がん研究センター研究所)
  • 神奈木玲児(愛知医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、がんに特徴的な病理形態像・病態像を形成するがん細胞と間質細胞相互作用の分子基盤を明らかにし、新しい機能分子画像法の取得や血清診断法の開発を目指すとともに、がんに特徴的な病態を標的とした新しい治療法の開発を目指す。
研究方法
1)がん組織を構成する間質線維芽細胞やマクロファージの組織学的不均一性を明らかにし、組織学的不均一性とその生物学的な変化の分子基盤を解明する。特にがん転移の動物モデルを作製し、がん幹細胞との相互作用を検討する。がん組織の低酸素を可視化する内視鏡の開発を目指し、臨床応用へすすめる。扁平上皮がん細胞に高発現するTMEPAIの解析とその生理学的機能の解明を引き続き行う。腎細胞癌で高発現するTNFα/ADAM17の細胞内シグナル伝達機構への関係を明らかにする。
2)がん細胞における代謝変化とミトコンドリアの品質管理の変化、p53遺伝子により調節されるMiep分子の異常をヒトがん組織で引き続き明らかにするため、細胞株を用いたMieapによるMQC機構の解析を進める。
3)免疫微小環境を抗腫瘍性(免疫反応性)と好腫瘍性(免疫寛容)として特徴付ける、その指標となる分子発現や免疫担当細胞浸潤様式を同定し、微小環境形成の分子機序の理解を深めることを目指す。
4)グライコーム研究によるがんに特徴的な糖鎖修飾の生物学的意義の解明:がん組織特徴的な環境により惹起される糖鎖修飾の変化を解明し、がんの発生進展に伴い変化するグライコームを検討することで、これまでほとんど明らかにされていない糖鎖を介した細胞間相互作用のがん進展における役割を引き続き検討する。

結果と考察
1)ヒト肺腺癌の流出血管 (肺静脈内) に存在するCD204(+)マクロファージ数は、術後早期再発の予測。因子となることが判明した。
2)ADAM28を標的としたヒト型中和抗体(Ab 211-12とAb 211-14)を開発した。本抗体をマウスに
投与することにより、乳癌細胞の局所増殖および肺癌細胞の転移抑制効果を確認することができた。
3)ヒト膵癌組織切片を用いた検討を行い、primary cilia 陽性膵癌症例では、リンパ節転移が有意に多く、予後不良であることを見出した。
4)がん細胞内におけるMafK-Gpnmbを介したシグナルは、TGF-bによる腫瘍形成促進機構を説明す
る一要因となりうることが示唆された。
5)低酸素環境下に於いてp53の変異やMieap/BNIP3のメチル化によるMieap制御性ミトコンドリア
品質管理機構の不活性化が、ミトコンドリアからのROSの産生上昇を引き起こし、大腸がん細胞の遊走能・浸潤能を増強することを明らかにした。
6)ヒト膵癌組織切片を用いて、腫瘍内部に3次リンパ装置が形成される症例を見出した (約15%)。
膵がん組織内の3次リンパ装置の存在が宿主の抗腫瘍免疫を量る指標になること、予後予測の指標になることを明らかにした。
7)ヒトB細胞性悪性腫瘍におけるα2-6シアリル6-スルホ糖鎖の発現解析を施行した。
B細胞性悪性腫瘍細胞では、発現低下が認められ、腫瘍細胞のリンパ節浸潤の頻度と相関していた。

結論
本研究で作製された動物モデルおよび試験管内モデルは、実際のヒトがん組織から
得られる情報を基にしたモデルである。特に動物モデルと実際のヒトがん組織との対比検証は、
薬剤開発の前臨床研究に必要な情報を同時に得ることになり、今後のがん治療開発における新しいト
ランスレーショナル研究の基盤となる。さらには、病理・病態の解明と理解にとどまらず、
がん組織代謝変化を標的とした新しい診断・治療法の開発や、薬剤耐性機構の解明など臨床応用可能な新しい診断・治療法の開発につながるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201313006C

収支報告書

文献番号
201313006Z