文献情報
文献番号
201313005A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム・遺伝子解析情報に基づく、臨床応用可能な固形がんの予後予測法の開発と、免疫遺伝子治療に資する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
青木 一教(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 遺伝子免疫細胞医学研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 佐々木 博己(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 遺伝医学研究分野)
- 大上 直秀(広島大学大学院 分子病理学研究室)
- 菅野 康吉(栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室)
- 村上 善則(東京大学医科学研究所 人癌病因遺伝子分野)
- 金田 安史(大阪大学大学院 遺伝子治療学分野)
- 加藤 尚志(早稲田大学教育・総合科学学術院 先端生命医科学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
40,077,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
ゲノム解析や腫瘍免疫学等の進歩に基づく個別化がん診療法の確立を目的とし、A.ゲノム等解析情報に基づく予知医療の開発と、B.免疫遺伝子・核酸治療の開発を2つの柱とする。Aでは、食道がんや肺がん等の診断や治療効果予想に有用な分子群の同定と臨床応用を、B.では、難治固形がんに対する新たな免疫遺伝子治療・核酸医薬の開発を目指す。がん治療では多角的な治療戦略と治療薬剤のデリバリー技術の開発が重要であり、以下のサブテーマを分担して、遺伝子解析技術やベクター開発技術、試料・情報を共有しながら総合的に研究を推進した。
研究方法
①化学放射線治療前の食道がん生検試料の遺伝子発現情報に基づき、治療効果の異なるサブタイプを同定する。また、新規標的を同定するために、各サブタイプで活性化する特徴的な分子経路の同定を行う。②抗CADM1抗体によるCADM1v8/9検出が、肺小細胞がん血清診断法の開発するため、糖鎖構造の解析やバリアントを認識する単クローン抗体の作製を行う。③固形がんに対するインターフェロン(IFN)遺伝子導入と造血幹細胞移植(HSCT)複合療法の開発を行う。腫瘍免疫に関して、HSCTが抗腫瘍免疫を活性化する機序を明らかとする。④HVJ-Eに核酸・遺伝子等を封入し、抗腫瘍能の増強を図る。⑤大腸がん細胞において、トポイソメラーゼI阻害剤とpoly(ADP-ribose) polymerase (PARP) 阻害剤の併用効果を検討する。⑥乳がんでは多核化の認められる症例では予後が不良であり、固形腫瘍での多核細胞化の機序を解明する。
結果と考察
5つのサブタイプを分類、予後不良なサブタイプ1aと5、良好なサブタイプ7を同定し、その分子経路を明らかとした。サブタイプ毎の個別化医療の実現へ向けて、診断薬や分子標的薬の開発のために大手製薬会社との共同研究を進めた。また、podoplaninはCRTの効果予測マーカーであることを示した。②小細胞肺がんにおけるCADM1のO型糖鎖を解析し、特徴的なコア 1, 2 構造およびシアル酸を見出した。バリアントを認識する高特異性、高親和性単クローン抗体の作成を試みた。また、CADM1の下流経路を解析し、治療標的としてCADM1-MPP3-DLG-PI3L-AKT または RAC1の分子経路を見出した。③HSCT後、腫瘍内S100A8/A9の発現上昇によりNK細胞を活性化して、抗腫瘍免疫を誘導する新たな機序を明らかとした。また、段階的臨床研究としてIFN遺伝子治療単独の臨床研究の準備を進めた。④IL-12遺伝子封入HVJ-Eの抗腫瘍メカニズムとして、HVJが脾細胞に作用してIL-18を産生させ、IL-12と協調してT細胞よりIFN-の産生を亢進することにより、抗腫瘍免疫を誘導することを明らかとした。⑤olaparibはRad51を介した二本鎖DNA損傷修復を間接的に阻害することで合成致死を誘導すると考えられ、SN-38との併用による相乗効果が認められた。⑥多核化のモデル細胞としてヒト巨核芽球性白血病細胞を用いて、その成熟を促進するmicroRNAを同定した。
結論
①本サブタイプ分類法は、病理組織学的分化度等これまでの分類方法とは独立したものであり、新たな食道がんの分類方法となり得る。②CADM1 v8/9 バリアントが小細胞肺がんで疾患特異的に過剰発現し、CADM1 の糖鎖に特徴的な修飾が認められることを見出し、CADM1 v8/9 断片の検出による小細胞肺がん診断が有望であることを示した。③HSCTがNK細胞を活性化する機序を明らかとした。HSCTは、免疫療法の効果を増強できる環境を形成するため、様々な免疫療法とも組み合わせることが可能であり発展性がある。④HVJ-EにIL-12遺伝子を封入することにより、強力な腫瘍免疫を誘導できることを示した。⑤olaparibとSN-38の併用は、DSBsに対する遺伝子相同組み替えを介した二本鎖DNA修復を阻害し、MSI陽性大腸がん以外の大腸がん細胞株に対しても相乗的な抗腫瘍効果の増強を示すことから、今後の臨床応用の可能性が期待される。⑥固形がんに多核細胞化が認められることに着目し,その機序に関わる分子の探索を実施、巨核球の成熟の促進に関与するマイクロRNAを同定した。
公開日・更新日
公開日
2016-07-14
更新日
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