文献情報
文献番号
201313003A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的なゲノム異常解析と詳細な臨床情報に基づく、ヒトがんの多様な多段階発がん過程の分子基盤の解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
河野 隆志(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 横田 淳(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野 )
- 野口 雅之(筑波大学大学院 基礎医学系病理学)
- 小川 誠司(京都大学大学院 医学研究科 腫瘍生物学)
- 森下 和広(宮崎大学 医学部 機能制御学講座・腫瘍生化学分野)
- 柴田 龍弘(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 がんゲノミクス研究分野 )
- 稲澤 譲治(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
36,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
がんは細胞内に遺伝子異常が蓄積することにより発生、進展していく病気なので、がんの罹患率・死亡率を減少させるためには、ゲノム異常を中心とした発がんの分子基盤を明らかにし、得られた情報を臨床へ導入していく必要がある。本研究の目的は、多段階発がん過程でがん細胞内に蓄積するゲノム異常を様々なゲノム網羅的解析法を用いて明らかにし、更にその分子基盤を解明して、個々のがんに最適の治療法を提供する個別医療・予知医療の実現へ向けて、がんの診断や分子標的療法に有用な新たな情報を集約することである。
研究方法
肺腺がん、肺小細胞がんを対象として、全トランスクリプトーム解読により融合遺伝子を、また、全エクソーム解析により変異遺伝子を、ゲノム網羅的に同定した。肺上皮内腺がん(Noguchi TypeA,B)と初期浸潤がん(Noguchi Type D,E)でArray-CGH解析を行い、qPCRと免疫染色の結果が最も相関する遺伝子を見いだした。腎細胞がんについては、全エクソーム解析、メチル化アレイ(Infinium HumanMethylation450)による網羅的なDNAメチル化解析を行いメチル化のプロファイリングを行った。Monosomy 7を有するAMLを中心として7番染色体にゲノム異常のある24症例について統合的ゲノム解析を行い、その原因遺伝子単離とin vitro及びin vivo機能解析を行った。EVI1 TGマウスとmono7欠損マウスを作製し、掛け合わせにより白血病発症機構を検討した。またEVI1-TGマウス造血幹細胞にshmono7発現させ、NOG免疫不全マウスに移植し白血病発症を検討した。胃がん臨床検体を用いて、全ゲノムにおけるコピー数異常を検出、同じ検体について遺伝子発現解析を行ない、ゲノムコピー数変化と遺伝子発現量の関連を調べた。悪性度の高い小児神経芽腫、甲状腺未分化がん、口腔がん、肝がんなどの生命予後が不良で有効な治療法が確立されていない難治がんを研究の主たる対象とし、増幅や欠失、さらにがん特異的DNAメチル化などをランドマークに、がん抑制性マイクロRNAを含む新規がん関連遺伝子を同定した。
結果と考察
全エクソーム解析により、RET, ALK, ROS1がん遺伝子の転座陽性、かつ、EGFR, KRAS, HER2, BRAF陰性の肺腺がんでは、他と比して、P53遺伝子等のがん関連遺伝子の変異頻度が低く、専ら遺伝子融合高いことに依存して発がんしていること、よって融合が治療標的に適していることを明らかにした。肺小細胞がんで10%以上の頻度で変異し、且つ、発現している治療標的候補遺伝子として10遺伝子を同定した。ECT2の増幅、発現亢進は初期の肺腺がんにおける予後推測のための有用なバイオマーカーであることを見出した。VHL複合体の異常は腎細胞癌の発生においてほぼ必須のイベントであり、HIFの蓄積という観点からはVHLおよびTCEB1のどちらが変異しても同様の結果が生じることを示した。Monosomy 7の原因遺伝子候補mono 7同定した。EVI1高発現とmono7の発現低下により有意に白血病発症が早まり、機能的にEVI1と協調して働くことから原因遺伝子であることが強く示唆された。低分化胃がんにおいて高頻度に観察される6p21領域増幅から、体系的な機能解析によりglycolysisに必要な解毒代謝酵素であるGLO1を新たながん遺伝子として同定した。新規腫瘍抑制型-microRNAとして、肝がんのmiR-124, miR-203, miR-497, miR-195、子宮体がんのmiR-152、口腔癌のmiR-218を同定した。
結論
本研究によって同定された新規治療標的RET融合遺伝子に関して肺腺がん個別化治療への橋渡しが成功しつつある。今後、遺伝子異常で規定される肺発がん経路に基づいた個別化治療、肺小細胞がん変異遺伝子をターゲットとした治療の実現が、肺がん治療成績の向上に役立つと考える。また、腎がんでの高頻度(95%<) のVHL complexの異常の解明、難治性AMLのMono 7遺伝子の、低分化胃がんのGLO1遺伝子、がん抑制性マイクロRNA群の同定は、いずれも、発がん機構の理解に有効な知見を与えるだけでなく、有望な治療標的分子の発出に役立つと考える。今回得られたゲノム異常の全体像から、今後、がん個別化医療のバイオマーカーや分子標的治療法のシーズをさらに同定できると考える。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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