生殖補助医療により出生した児の長期予後と技術の標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201312005A
報告書区分
総括
研究課題名
生殖補助医療により出生した児の長期予後と技術の標準化に関する研究
課題番号
H25-次世代-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
苛原 稔(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部産科婦人科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 梅澤 明弘(独立行政法人国立成育医療研究センター研究所生殖・細胞医療研究部)
  • 竹下 俊行(日本医科大学付属病院産婦人科)
  • 齊藤英和(独立行政法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 不妊診療科)
  • 緒方 勤(浜松医科大学医学部小児科)
  • 久慈 直昭(東京医科大学産科婦人科学講座)
  • 有馬 隆博(東北大学環境遺伝医学総合研究センター情報遺伝学分野)
  • 宇津宮 隆史(医療法人セント・ルカ産婦人科)
  • 田中 温(セントマザー産婦人科医院)
  • 末岡 浩(慶應義塾大学医学部産婦人科)
  • 山縣 然太朗(山梨大学大学院医学工学総合研究部社会医学講座)
  • 橋本 圭司(独立行政法人国立成育医療研究センター外科系専門診療部リハビリテーション科)
  • 秦 健一郎(独立行政法人国立成育医療研究センター周産期病態研究部)
  • 大須賀 穣(東京大学大学院産婦人科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology、ART)が普及した現在、ART妊娠の予後を把握するとともに、ART児の長期予後と、新たなART技術の標準化と第三者が関与するARTに関する意識調査の方法を検討することを目的とする。
研究方法
我が国におけるARTの現状把握と長期予後調査の基盤となるデータベースを構築し、周産期データベースと連結して、周産期事象との関連性を検討した。さらにコホート調査として、2008年度にARTを行い出生した児3000例を対象とした3歳時発育発達調査を行った。加えて、近年特に注目されているARTとインプリンティングの関連性を検討するために、ART児のDNAメチル化状態を広範に検索するとともに、関連性が疑われるPrader-Willi症候群(PWS)などのインプリンティング疾患患者群におけるART治療との関連性に関する後方視的検討を行った。
 一方、現在国内での実施されている着床前診断(PGD)の現状調査と標準化の検討を行った。加えて、第三者が関与するARTに関しては、諸外国における状況を把握するとともに、我が国における意識を把握する有効な方法を検討した。
結果と考察
2011年の全国ART実施登録施設は586施設、総治療周期数269,659周期、総出生児数32,426人であった。ART分娩の17.5%が周産期データベースと連結が可能であった。凍結融解胚移植は、自然周期に移植する場合と比べてHRT周期で移植した場合は、児体重が増加する可能性が示唆された。ART児の長期予後コホート調査では、3歳時発育発達調査回収数は2041例で、現在、解析を進めている。調査群と調査非参加群で患者背景、母体妊娠合併症、生後12カ月までの運動発達に差を認めないことが明らかとなった。
 インプリンティング関連の検討では、Prader-Willi症候群(PWS)患者群でART児の頻度が高く、母親年齢が高齢であった。ART児13例を含むPWS患者138例の検討で、ART群でUPD(15)matの発症頻度が高かった。また、ART児でインプリンティング疾患を認める患者7例の検討では86%でインプリント異常を認めるなど、ARTとインプリンティング疾患の関連性を示唆する報告がある。一方、ART児のDNAメチル化状態を広範に検証し、自然妊娠と差が無いことが報告されるなど、今後も詳細な検討が必要であることが明らかとなった。
 PGDの現状は、大半は染色体均衡型転座保因者に対するものであり、76周期,46症例が施行されていた。重篤な遺伝性疾患に対するPGDは3施設で23症例に対して実施されていた。対象疾患はデュシェンヌ型筋ジストロフィー,筋緊張性ジストロフィーがそれぞれ11症例,8症例で、それ以外はオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTC),福山型筋ジストロフィー(FCMD),骨形成不全症(OI),先天性表皮水疱症(CEB)各1症例であった。PGD実施施設と分娩施設が異なる事例が多く,児の長期予後も含めた長期フォローアップシステムの構築の必要性が指摘された。
 AIDにおける告知と出自を知る権利に関しては、ニュージーランドでの経験から、親子関係を確定する法整備を前提に、出自を知る権利を認める立法が無くても非匿名性のAIDが可能となる可能性や、オランダでの経験から、匿名性AIDにより生まれた子に対する登録機関運営には経済的基盤が不可欠である事が示唆された。
 第三者の配偶子(卵子、精子)を用いるARTや代理懐胎を含めた新たなARTに対する社会的倫理的問題点の検証と合意形成に関して2003年に行われた調査結果と、現在の関連する見解などを再整理したところ、一般国民と実際にARTを受ける人の意識に相違が示唆された。従って第三者の関与するARTに関して参考となるデータ提供を行うためには、今後改めて、不妊経験の有無などの交絡因子が検討できる様式で無作為大規模データ収集を行う必要性があることが明らかとなった。

結論
我が国におけるARTは広く普及し、治療内容により周産期事象が改善する可能性が示唆された。ART児コホート調査では母体妊娠合併症、運動発達に差を認めず、安全性が示唆された。一方、ARTとインプリンティング疾患の関連性は、自然妊娠と差が無いとする結果もあるが、母体年齢など交絡因子の解析を含め、今後も検討が必要と考えられた。PGDの症例把握と標準化の環境を提案することが可能となった。第三者が関与するARTに関しては、諸外国の取り組みを参考にしつつ、今後改めて、不妊経験の有無などを検討できる様式で今後、無作為大規模データを収集し、社会全体で考えることができるデータを提供する必要性があることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2014-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201312005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
42,600,000円
(2)補助金確定額
42,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 19,864,706円
人件費・謝金 4,948,351円
旅費 2,431,903円
その他 8,755,040円
間接経費 6,600,000円
合計 42,600,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
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