アルツハイマー病の根本的治療薬開発に関する研究

文献情報

文献番号
201311015A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病の根本的治療薬開発に関する研究
課題番号
H23-認知症-指定-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科病態生化学)
研究分担者(所属機関)
  • 西道隆臣(理化学研究所脳科学総合研究センター プロテアーゼ研究)
  • 富田泰輔(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室、分子病態生化学)
  • 長谷川成人((財)東京都医学研究機構・分子神経生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
25,400,000円
研究者交替、所属機関変更
該当せず

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会に突入した我が国では、高齢で発症率が増加する代表的な認知症疾患であるアルツハイマー病の予防・治療法開発が急務となっている。本研究は、アルツハイマー病発症機構を説明する仮説である「アミロイドカスケード」における複数の標的を攻略することで、真に有効なアルツハイマー病の予防・治療薬を開発することを目的とした。複数の標的とは、(1) Aβ産生機構の解明と調節法の開発、(2) Aβ分解調節法の開発、(3) Aβ除去とコレステロール代謝恒常性維持を目的としたHDL療法の開発、(4) タウ病変の伝播制御である。
研究方法
1)HDL産生増加させる化合物をライブラリーを使って同定した。LPLが、Aβ代謝にどのような作用を持つかを、各種生化学的解析行った。2)ヒトApoE3、ApoE4ノックインマウスのBBB機能をエバンスブルー法によって評価した。3)培養アストロサイトを準備し、これにmicroRNA-33を処理して、培地におけるApoE, HDLレベルを解析した。4)Aβ産生に影響を与える候補分子について、主に培養細胞と薬理学的実験を利用して解析した。ADの新規遺伝学的危険因子と同定さした遺伝子の発現変動がAβ産生に与える分子機構について精査した。5)ネプリライシンによるADに対する遺伝子治療法の可能性を検証した。6)ADを含むタウオパチー患者脳に実際に蓄積する異常タウを細胞内に導入し、発現させたタウを蓄積させるかどうか、またそのシード能はどのような性質によるものかを検討した。
結果と考察
(1)脳内ApoE-HDLレベルを上昇させるseed化合物を3つ同定した。(2)ApoE-HDL によるBBB形成・機能調節の分子機構を明らかにした。(3)アンチセンス-microRNA-33が脳内ApoE-HDLを増加させることが明らかになり、マイクロ核酸治療薬の可能性を示した。 (4)脳内に存在するリポタンパクリパーゼ(LPL)は、新規Aβ結合分子でありAβレベルの低下を標的にしたLPL発現調節薬の開発の可能性を示せた。(5)歯周病、歯牙欠損が、ADモデルマウスで認知機能障害とAD分子病態の増悪を引き起こすことを明らかにした。(6)Aβ産生経路における膜脂質環境の重要性が明確となった。(7)Aβ分解酵素ネプリライシンの活性は、神経成長因子を起点とするMAPK経路により抑制され、ソマトスタチンを起点とするPP1aを介した経路によりネプリライシン活性が増強されることが明らかになった。(8)AD脳に蓄積する異常タウは、培養細胞に発現する正常タウを異常に変換し、その蓄積を引き起こした。。
結論
脳内ApoE-HDLレベルを上昇させるseed化合物を3つ同定した。ApoE-HDL によるBBB形成・機能調節の分子機構を明らかにした。マイクロ核酸治療薬の可能性を示した。LPLが、新規Aβ結合分子であり、創薬標的となる可能性を示せた。歯周病、歯牙欠損治療により、AD予防の可能性が示せた。Aβ産生経路における膜脂質環境の重要性を明らかにした。Aβ分解酵素ネプリライシンの活性調節は創薬標的になる。AD脳に蓄積する異常タウは、培養細胞に発現する正常タウを異常に変換し、その蓄積を引き起こした。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201311015B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病の根本的治療薬開発に関する研究
課題番号
H23-認知症-指定-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科病態生化学)
研究分担者(所属機関)
  • 富田泰輔(国立大学法人 東京大学 大学院薬学系研究科臨床薬学教室)
  • 西道隆臣(理化学研究所 脳科学総合研究センター )
  • 長谷川成人((財)東京都医学研究機構 分子神経生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
該当しない

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者数が激増している我が国では認知症患者数も増加の一途を辿っており、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病(AD)の制圧は急務である。ADの分子病態を引き起こし進行させる分子メカニズムである「アミロイドカスケード」における複数の標的を攻略することによって、真に有効なADの治療法開発を目指す。複数の標的とは、(1) Aβ産生機構の解明と調節法の開発、(2) Aβ分解調節法の開発、(3) Aβ除去とコレステロール代謝恒常性維持を目的としたHDL療法の開発、(4) タウ病変の伝播制御である。
研究方法
ABCA1の転写活性を指標に、低分子化合物のスクリーニングを行った。マウス脳から分離した血管内皮細胞等を用いて、培養BBBモデルを作成し、BBB形成に影響する因子を解析した。microRNA33のアンチセンス処理により、細胞から産生されるApoE-HDLレベルを解析した。歯周病・抜歯を起こさせたADモデルマウスを使用して、認知機能障害、脳内AD分子病態を解析した。スフィンゴ脂質・セラミド代謝経路に関連する低分子化合物およびRNAiスクリーニングを培養細胞を用いて実施し、Aβ産生に与える影響を検討した。それら化合物のin vivoにおける治療効果を検討した。孤発性ADの遺伝学的危険因子BIN1、PICALMの機能解明を行った。Aβ分解酵素ネプリライシン活性制御因子として、神経ペプチドの一つソマトスタチンや神経成長因子作用を検討した。患者剖検脳から異常タウに富む不溶性画分を調製し、生理食塩水にけん濁後に細胞に処理し、免疫組織染色、イムノブロットにてタウ蓄積の解析した。
結果と考察
(1)脳内HDLを増加させる化合物のスクリーングを行った結果、3つの化合物が低濃度でHDL産生を増加させることを見出した。これらの候補化合物をseedにした薬剤開発を企業との共同研究で開始した。また、アンチセンス-microRNA-33処理により培養アストロサイトでApoE, HDL産生を増加させることを確認した。 (2) Aβは分解以外に血液脳関門(BBB)を介して排出される。ApoE4型のBBBは、バリア形成が不良でBBB透過性が脆弱であることを明らかにした。(3)脳内に存在するリポタンパクリパーゼ(LPL)が、新規Aβ結合分子であり、Aβの細胞内分解を促進することを発見し特許出願した。(4)歯周病、歯牙欠損マウスでは認知障害の増悪と、Aβ沈着の増加、海馬神経脱落が見られた。これらの口腔疾患の予防・治療がADの予防・治療に応用できる可能性を示した。(5)スフィンゴ脂質経路に関連する低分子化合物としてSKI II、ABC294640、THIを見出し、これらはγセクレターゼの切断活性を制御することを見出した。一方、S1P受容体アンタゴニストがγセクレターゼの活性を抑制すること、その標的候補分子としてEDG3を同定した。(6)ADの遺伝学的危険因子BIN1はAβ産生抑制因子であること、PICALMはγセクレターゼの内在化速度を決定し、AD発症を低下させることをを見出した。(7)ネプリライシンの局在は、ネプリライシン細胞内領域(N末端から6残基目のセリン)のリン酸化/脱リン酸化により制御されている事を明らかにした。ソマトスタチン受容体(SSTR)アゴニストのスクリーニングを行った結果、SSTR-1とSSTR-4特異的なアゴニストにより、ネプリライシン活性が増強する事を明らかにした。(8)培養細胞に患者脳由来の異常タウを導入すると、培養細胞内にリン酸化、ユビキチン化されたタウ陽性の凝集体が観察され、また不溶性画分にリン酸化タウの蓄積が検出された。細胞内に発現したタウが患者脳タウを鋳型として構造変化をおこして蓄積したと考えられる。
結論
(1)脳内ApoE-HDLレベルを上昇させる3つのseed化合物を同定した。BBB形成・機能調節には、ApoE-HDLが深く関与することを明らかにした。アンチセンス-microRNA-33が脳内ApoE-HDLを増加させることが明らかにした。脳内に存在するリポタンパクリパーゼ(LPL)は、新規Aβ結合分子であることを突き止めた。マウスにおいて歯周病、歯牙欠損を治療することで認知症の発症を予防でき可能性がある。(2)Aβ産生経路における膜脂質環境の重要性が明確となった。Aβ分解酵素ネプリライシンの活性の制御機構を明らかにした。ネプリライシン活性賦活化のための新規創薬標的を提示できた。AD脳に蓄積する異常タウは、培養細胞に発現する正常タウを異常に変換し、その蓄積を引き起こした。ADにおけるタウ病変の広がりは異常タウのプリオン様性質によって起こる可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201311015C

収支報告書

文献番号
201311015Z