急性期病院における認知症患者の入院・外来実態把握と医療者の負担軽減を目指した支援プログラムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201311007A
報告書区分
総括
研究課題名
急性期病院における認知症患者の入院・外来実態把握と医療者の負担軽減を目指した支援プログラムの開発に関する研究
課題番号
H25-認知症-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小川 朝生(独立行政法人国立がん研究センター東病院 臨床開発センター精神腫瘍学開発分野)
研究分担者(所属機関)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 井上 真一郎(岡山大学病院精神科神経科)
  • 上村 恵一(市立札幌病院精神医療センター)
  • 谷向 仁(大阪大学医学系研究科 精神医学教室)
  • 金子 眞理子(東京女子医科大学看護学部)
  • 平井 啓(大阪大学大学院医学系研究科/大型教育研究プロジェクト支援室)
  • 清水 研(独立行政法人国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科)
  • 木澤 義之(神戸大学大学院医学研究科先端緩和医療学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,372,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国は超高齢化社会を迎え、急性期病院においては、認知症を合併した身体治療を要する患者の入院機会が増えている。急性期病院では、認知症患者のBPSD管理に不慣れな上に、①せん妄のハイリスク状態であること、②疼痛管理に難渋すること、③調整に時間を要し、入院期間が長期化すること、④不適切な早期退院が増加し、結果として再入院を招いている問題が指摘されている。上記より本研究の目的は急性期病院における認知症患者の受け入れ・治療をめぐる医療提供上の問題点を把握すると共に、抽出された課題に基づき医療従事者の負担を軽減し、医療・ケアの質の向上に資する支援プログラム開発し、その実施可能性を検証する事である。
研究方法
1.認知症患者の救急外来受診の実態調査
救命センター、精神科救急の両面から、認知症患者の治療の実態を複数施設でレビューをおこない、認知症患者の救急外来受診状況ならびに入院後の医療やケアの実態、施設内外連携の実態を明らかにし、解決のための連携体制のあり方について検討する。
2.急性期病院入院中の認知症患者の医療・ケアの全国調査
急性期病院に入院した認知症患者の医療・ケアの実態を、せん妄や身体管理(疼痛)、専門家への連携、退院調整の点を中心に実態調査をおこなう。あわせて、全国の精神科コンサルテーション活動、リエゾンチーム活動、緩和ケアチーム活動を対象に、認知症患者の受療過程の調査をおこなう。
3.認知症患者の受け入れ適正化を目指した周術期支援体制の検討
認知症に身体疾患を合併した周術期患者を対象に、多職種介入による術前から支援体制を構築し、その実施可能性をオープントライアルで検討する。
結果と考察
1.認知症患者の救急外来受診の実態調査
1施設において予備調査をおこない、調査方法を検討することとした。認知症診察依頼患者のせん妄合併率が74%、認知症診察依頼患者の自殺企図症例が21%であった。自殺企図認知症患者の認知症の内訳では56%がレビー小体型認知症(以下DLB)であった。
2.急性期病院入院中の認知症患者の医療・ケアの全国調査
質的調査の結果、急性期病院における認知症看護の現状と課題について、フォーカスグループインタビューから、アセスメント・実施・システムに関する問題点が抽出された。アセスメントに関する現状と課題について9つのサブカテゴリーが抽出された。その内容は①身体状態②精神状態③栄養状態④セルフケア⑤危険行動⑥サポート状況⑦個別の特徴⑧予測をたてる⑨意思決定であった。実施に関しては①転倒転落防止②治療の方向性の確認③ケアの工夫・セルフケアの指導④退院調整⑤記録の5つのサブカテゴリーが抽出された。システムに関しては、①情報共有②連携の2つのサブカテゴリーが抽出された。
認知症患者の入院のバリア、入院中の問題、退院・転院調整の課題に関して、医療連携室のスタッフに対するインタビュー調査を実施し、精神科医の勤務状況(精神科医が不在の急性期病院あり)や認知症に精通するスタッフの有無、家族の介護体制などが影響している可能性が考えられた。また連携室のスタッフの勤務状況が依頼事例にかけられる時間に影響する可能性が考えられた。
3.認知症患者の受け入れ適正化を目指した周術期支援体制の検討
術前患者における認知症の有無について、専門・認定看護師が適切な評価を行っているかについての実態把握を行い、周術期支援体制として認知症患者の意思決定支援やせん妄発症予防対策などが可能かどうかを予備的に検討した。肺がん・食道がん手術を目的として入院した患者を対象とし、術前に専門・認定看護師が患者と面談した際に認知機能低下の有無を判断した。その結果、看護師の臨床的判断は、感度0.56、特異度0.91、陽性的中率0.42、陰性的中率0.94であった。看護師の臨床判断のみでは、認知症を有する患者を正確に把握できない可能性が示された。
結論
急性期病院において認知症患者に対するケアで課題となる点は、①精神症状、特にBPSDに関して、②家族への対応、③意思決定に関する倫理的ジレンマ、④身体症上管理、⑤業務が多忙で個別ケアに限界がある点である。認知症は老年症候群の一面であり、身体合併症を併存することは非常に多い。身体ケアを含めたトータルケアの視点を取り入れたあり方を検討し、示すことが急務である。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201311007Z