文献情報
文献番号
201311006A
報告書区分
総括
研究課題名
BPSDの症状評価法および治療法の開発と脳内基盤解明を目指した総合的研究
課題番号
H25-認知症-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
新井 哲明(筑波大学 医学医療系臨床医学域精神医学)
研究分担者(所属機関)
- 池田 学(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学分野)
- 松岡 照之(京都府立医科大学大学院 医学研究科 精神機能病態学)
- 安野 史彦(奈良県立医科大学 精神医学講座)
- 北村 立(石川県立高松病院)
- 烏帽子田 彰(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院)
- 横田 修(岡山大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
9,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚労省による新たな認知症施策により、患者の地域での生活を強化する方針が示されたが、BPSDはこの政策を阻害する最大の要因の一つである。BPSDの病態機序には不明な点が多く、入院の原因となりやすいBPSD症状の内容やその治療転機についての明確なデータはこれまで示されていない。さらに、各BPSDの症状の成り立ちおよび重症度を適確に評価し、それに基づいた適切な治療プログラムを施行するという試みもない。本研究は、後方視的研究による実態調査と介入研究および画像・病理研究を結びつけ、病態生理に基づいたBPSDの有効な評価法および治療プログラムを開発することである。
研究方法
本年度は、主として後方視的調査研究、画像研究、病理研究の3つの手法での検討を行った。まず、地域型認知症疾患医療センター(地域型センター)に1年間に入院した認知症患者のBPSDの実態調査、地域型と基幹型認知症疾患医療センター(基幹型センター)におけるアルツハイマー病患者の受診行動の差異、地域型の認知症治療病棟における入院治療のBPSDへの有効性について、後方視的に調査した。さらにMRI-拡散テンソル画像を用いた抑うつ症状の基質因および高齢者の剖検脳を用いた病理組織化学的検索による幻覚・妄想の病理基盤の検討を行った。
結果と考察
地域型センターにおける予備的調査の結果から、今後本研究において対象とすべき主な疾患はADとDLBであり、対象とする主なBPSDとして、暴言・暴力、妄想、徘徊、睡眠障害、幻覚、介護への抵抗、不安・焦燥、せん妄などが抽出された。自宅退院群と長期入院継続群との比較検討から、認知症の重症度とBPSDの種類(不安・焦燥)が入院後の転帰に影響を与える可能性が示唆され、今後の研究において留意すべきと思われた。
地域型センターを受診するAD患者では,妄想や興奮,睡眠障害などいずれも精神科専門治療を要すことが多いBPSDの有症率が、基幹型センターと比較して有意に高かったことは,地域型センターの外来診療に精神症状への対応がより強く求められていることを示しており,地域型センターに多くの単科精神科病院が指定されている現状は,認知症患者のニーズに沿うものであると考えられた.
認知症治療病棟での加療によって認知症患者のADLは有意に改善し、妄想と睡眠異常を含めた多くのBPSDに対して有効であった。このことから、認知症治療病棟での治療は有効であり、認知症の重症度と身体合併症との関連性が示唆された。
MRI-DTIを用いた画像画像研究から、大うつ病患者において、前方部白質神経路において微小構造異常を反映した白質神経路の異常があることが明らかになった。さらに、その低下は、axial diffusivityに基づくものであることが判明した。一般的に、axial diffusivityは軸索自体のダメージを反映するものとされることから、前方部白質の軸索の障害と抑うつ症状との関連性が示唆された。
病理研究の結果から、高齢者の精神病症状の病理基盤として、海馬、海馬傍回、扁桃核といった辺縁系におけるtauあるいはα-シヌクレインの蓄積を伴う変性が重要であることが示唆された。
地域型センターを受診するAD患者では,妄想や興奮,睡眠障害などいずれも精神科専門治療を要すことが多いBPSDの有症率が、基幹型センターと比較して有意に高かったことは,地域型センターの外来診療に精神症状への対応がより強く求められていることを示しており,地域型センターに多くの単科精神科病院が指定されている現状は,認知症患者のニーズに沿うものであると考えられた.
認知症治療病棟での加療によって認知症患者のADLは有意に改善し、妄想と睡眠異常を含めた多くのBPSDに対して有効であった。このことから、認知症治療病棟での治療は有効であり、認知症の重症度と身体合併症との関連性が示唆された。
MRI-DTIを用いた画像画像研究から、大うつ病患者において、前方部白質神経路において微小構造異常を反映した白質神経路の異常があることが明らかになった。さらに、その低下は、axial diffusivityに基づくものであることが判明した。一般的に、axial diffusivityは軸索自体のダメージを反映するものとされることから、前方部白質の軸索の障害と抑うつ症状との関連性が示唆された。
病理研究の結果から、高齢者の精神病症状の病理基盤として、海馬、海馬傍回、扁桃核といった辺縁系におけるtauあるいはα-シヌクレインの蓄積を伴う変性が重要であることが示唆された。
結論
ADおよびDLB患者における陽性BPSDおよび睡眠障害の病態解明とそれに基づく対応法の確立が今後の重要な課題となることが明らかになった。認知症疾患医療センターが提供する外来診療において,より早期の診断が基幹型センターに求められ,迅速なBPSDへの対応が地域型医療センターに求められていることが確認された.今後の課題として,BPSDの増悪により入院治療を要する場合の受け皿として,認知症疾患医療センターがどのように機能しているかを検討することが必要であると考えられた.認知症治療病棟で入院治療は、妄想や睡眠障害などのBPSDに有効であることが示されたが、多面的関わりの中でどの要因がより有効であるのかをさらに検討する必要がある。内因性うつ病患者において、軸索のダメージに基づく脳前方部の白質神経路の微小構造変化が存在し、抑うつ気分発現と関連することが想定された。このことが、BPSDとしての抑うつあるいはアパシーと関連するかどうかは今後の課題である。老年期の幻覚・妄想に海馬、海馬傍回、扁桃核のtauあるいはα-シヌクレイン病理が関与している可能性があり、病理基盤としての重要性をさらに症例を重ねて検討する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2014-08-26
更新日
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