文献情報
文献番号
201310020A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスと高齢者の健康に関する疫学研究
課題番号
H24-長寿-若手-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
相田 潤(東北大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科)
- 近藤 克則(日本福祉大学 健康社会研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「健康日本21(第2次)」においても健康格差の縮小が明記された。高齢者の健康状態の地域格差が指摘されており、高齢者の健康水準向上のためにも、格差の解消が望まれる。これまで高齢者の転倒や鬱などの要介護状態になるリスクには地域差があると報告されているが、高齢者の全体的な健康状態や要介護リスクとも関連する日常生活動作(以下IADL)の地域格差については報告が少ない。要介護状態になる一つのリスクとして、IADLは重要であり、地域比較研究が求められる。
そこで本研究では、高齢者のIADL低下とその地域格差を解消するための提言の基礎資料とするために、IADLの地域差と、それに関連するリスク要因を明らかにすることを目的とした。さらに介入が比較的実施しやすい口腔と栄養に関する要因がどのような寄与をしているか明らかにすることも目的とした。
そこで本研究では、高齢者のIADL低下とその地域格差を解消するための提言の基礎資料とするために、IADLの地域差と、それに関連するリスク要因を明らかにすることを目的とした。さらに介入が比較的実施しやすい口腔と栄養に関する要因がどのような寄与をしているか明らかにすることも目的とした。
研究方法
本研究はJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study、日本老年学的評価研究)プロジェクトの2010年-2011年調査のデータを用いた横断研究である。要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象とした自記式郵送調査のデータを用いた。目的変数として、自記式質問紙によるIADLを用いた。13項目の質問に対し、それぞれ、はい(1点)・いいえ(0点)で回答を得て、合計点が10点以下を低IADL群、11点以上を高IADL群とした。説明変数として、基本属性変数(性別、年齢)、健康関連変数(BMI、うつ、外出頻度)、栄養と口腔関連変数(飲酒、喫煙、肉や魚の摂取頻度、野菜や果物の摂取頻度、残存歯数)、社会属性変数(教育歴、等価所得、家族構成、趣味の有無)、および、個人のソーシャルキャピタル変数(住居地区への信頼感)を用いてロジスティック回帰分析を行った。
結果と考察
2010年から2011年の間に、169,215人に自記式郵送調査を送付し、112,123から回答を得た(回収率66.3%)。そのうちIADLの質問を回答していた103,621人を対象とした。全国でIADLが低下していた者の割合は22.7%であった。自治体別では16.9%から32.3%の地域差が存在した。次に地域による年齢構成や性別構成、その他の変数の関連を考慮してIADLが低いリスクの地域差を検討した。年齢や性別の影響を調整した場合、最もIADLが良い地域に比べて、最も悪い地域では、2.37(95%CI=2.02-2.77)IADLが低いオッズが高かった。次に、IADLが低いことに関連する要因の分析を行った。残存歯数が20歯以上ある場合に比べて、無歯顎者ではIADLが低いオッズが1.35倍(95%CI=1.24-1.46)有意に高かった。栄養摂取状態では、肉や魚の摂取頻度では有意差がみられなかった。一方、野菜や果物の摂取頻度が毎日2回以上の者と比べて、週1回未満の者はIADLが低いオッズが2.34倍(95%CI=1.67-3.28)有意に高かった。さらに残存歯数が少ないことで野菜や果物の摂取量が低下するかどうかの検討を行った。年齢階級別のクロス集計の結果、残存歯数が少ないほど、野菜や果物の摂取頻度が少なかった。また、個人のソーシャルキャピタルが低いほど、趣味が無いほど、IADLが低いオッズが有意に高かった(OR=1.925、95%CI=1.669-2.220、OR=2.260、95%CI=2.149-2.377)。
日本においてIADLの地域差はオッズ比で最大約2.5倍であり、その地域差の一部は野菜や果物の摂取状態で説明できることが示唆された。また、野菜や果物の摂取が少ないことと、残存歯数が少ないことはIADLが低いことと有意な関連を示した。ソーシャルキャピタルが向上するような地域での取り組みや、趣味活動の促進も、IADLの低下を抑制する可能性が示唆された。IADLが低いリスクの地域差は一部、栄養摂取状態で説明できたが依然として約2.5倍のIADLが低いリスクの地域差が残った。今回使用した変数以外の要因によって、この地域差が生じている可能性があり、さらなる研究が必要である。
日本においてIADLの地域差はオッズ比で最大約2.5倍であり、その地域差の一部は野菜や果物の摂取状態で説明できることが示唆された。また、野菜や果物の摂取が少ないことと、残存歯数が少ないことはIADLが低いことと有意な関連を示した。ソーシャルキャピタルが向上するような地域での取り組みや、趣味活動の促進も、IADLの低下を抑制する可能性が示唆された。IADLが低いリスクの地域差は一部、栄養摂取状態で説明できたが依然として約2.5倍のIADLが低いリスクの地域差が残った。今回使用した変数以外の要因によって、この地域差が生じている可能性があり、さらなる研究が必要である。
結論
日本の30自治体においてIADLが低い者の割合に地域差が存在し、その一部は野菜や果物の摂取状態で説明できることが示唆された。歯の喪失を防ぎ、また義歯により咀嚼機能を回復させることで、野菜や果物の摂取量を増加させれば、IADL低下のリスクを軽減でき、地域差も縮小することにつながる可能性が弱いながらも示唆された。また、ソーシャルキャピタルが向上するような地域での取り組みや、趣味活動の促進も、IADLの低下を抑制する可能性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2014-08-26
更新日
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