文献情報
文献番号
201310010A
報告書区分
総括
研究課題名
尿マーカーを用いた骨粗鬆症検診の有用性の検証と骨折予防効果に関する研究
課題番号
H24-長寿-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
新飯田 俊平(独立行政法人国立長寿医療研究センター バイオバンク)
研究分担者(所属機関)
- 池田 義孝(佐賀大学医学部)
- 田中 伸哉(埼玉医科大学)
- 田中 清(京都女子大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
研究の目的は、①コストの低い尿γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(uGGT)検査を骨粗鬆症検診(骨検診)に導入した場合の費用便益の試算、②骨吸収亢進によって尿GGT値が上昇するメカニズム、③より低コストのFRAX問診票によるスクリーニング効果、④身長低下の骨検診における意義を検討しすること。
研究方法
便益試算の対象は、愛知県東浦町の骨検診でuGGTとBMD検診で要精査者と判定され、その後精密検査で骨量低下/骨粗鬆症と診断されて投薬となった者、便益は大腿骨近位部骨折の回避によって生じる額とした。便益項目は、①骨検診におけるBMD検査費用、②入院による費用の減少、③骨折によるQOLの低下に共なるQALYによる損失のマイナス増分。費用項目は①骨検診におけるBMD検査費用、②入院による費用の減少、③骨折によるQOLの低下に共なるQALYによる損失のマイナス増分とした。費用項目は、①骨検診費用、②精密検査費用、③治療でかかる薬剤費とした。uGGT検査の生化学的検討では、近位尿細管上皮細胞の培地中にフォルスコリンを添加し、GGT活性とGnT-III活性を測定した。測定は、ピリジルアミノ化した糖鎖の蛍光基質を糖受容基質とし、UDP-GlcNAcを糖供与体として反応させ、反応産物をODSカラムによるHPLCシステムにて分離定量した。尿サンプルについてもGnT-III活性を測定した。FRAXの有用性については、東浦町の女性ボランティア237名(43<age<75, 平均61±7.6歳)を対象に、身長・体重、椎骨・大腿骨DXA 、胸椎・腰椎の単純X線撮影と併せ、FRAXによる10年間の主要骨粗鬆症骨折発生率等を調査。これらを基に多重ロジスティクス解析を行い、骨粗鬆症の予測因子の探索とスクリーニング効果を検討した。身長低下の検診における意義については、骨粗鬆症スクリーニングに関する国内外の各種ガイドラインの記述の比較をし、その上で身長低下を骨検診に用いることの意義を文献的に考察した。
結果と考察
全国の骨検診受検者数を1,199,000人とした場合、uGGT検診では436,000人が、BMD検診では51,500人が要精査となる。その差337,000人において二次検査を受検する人数差は77,260人。これを基に費用と便益を調べた結果、純便益=5億4700万円~9億9800万円、B/C=1.08~1.25と算出された。すなわち、今回の推定ではuGGT検査導入がもたらす骨折予防効果は一定額の費用対便益を生むと推察された。uGGT検査の生化学的検では、細胞へのフォルスコリン添加でGGT分泌が有意に増加。細胞ホモジネートではフォルスコリン添加群でGnT-III活性が高い傾向があった。GGT分泌とGnT-IIIによる糖鎖構造変化に相関があればGGTおよびGnT-III活性は同じような挙動を示すと考えられた。尿サンプルにおける両酵素活性の相関を検討したがGGT活性は測定出来るもののGnT-III活性の測定は安定しなかった。FRAXの有効性:女性ボランティア237人(平均年齢61歳)の検診結果とFRAXによって導かれる「10年間の骨粗鬆症骨折発生確率」について多重ロジスティクス解析を行った結果、FRAXが示す骨折発生確率は骨粗鬆症の予測因子であることが示された。カットオフ値7%のとき、ROC解析によるAUCは約0.8を示した。FRAXは単独で骨検診に効果的であることが示された。FRAXは骨検診に効果的であることが示された。身長低下と骨検診:骨折リスクが世界的に重視される傾向にあり、骨粗鬆症の診断でも骨密度だけではなく、対象者のトータルの骨折リスクで判定する流れになってきた。骨粗鬆症スクリーニングでも、このような概念を取り入れるべきと考える。骨検診コストの問題が生じているが、その評価にあっては、骨粗鬆症患者を見出すのに必要なスクリーニング費用を単純に比較するのではなく、トータルとして骨折関連医療費削減効果とスクリーニング費用を比較するべきである。身長低下は感度・特異度に優れ、コストも低いことから検診に有用であるが、身長低下を有するということはすでに椎体骨折を持つので、再骨折を予防することにはついては有用といえる。しかし、新規骨折予防の目的には用いることはできないと考えられた。
結論
①uGGT検査による骨折予防効果は、BMD検査より、大きな額ではないが一定の費用対便益が得られると推察された。②近位尿細管細胞はフォルスコリン添加でGGT分泌が有意に増加したが、この現象にGnT-IIIが関与している可能性が示唆された。③FRAXは骨検診に効果的であることが示された。④身長低下は椎体骨折を予測し、再骨折を予測する。しかし、最初の骨折を予防する目安にはならい。
公開日・更新日
公開日
2014-08-26
更新日
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