文献情報
文献番号
201310002A
報告書区分
総括
研究課題名
運動器疾患の評価と要介護予防のための指標開発および効果的介入方法に関する調査研究
課題番号
H23-長寿-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
阿久根 徹(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
- 鈴木 隆雄(国立長寿医療研究センター 研究所)
- 小川 純人(東京大学 医学部附属病院)
- 藤原 佐枝子(広島原爆障害対策協議会 健康管理・増進センター)
- 大渕 修一(東京都健康長寿医療センター 研究所)
- 西脇 祐司(東邦大学 医学部)
- 萩野 浩(鳥取大学 医学部)
- 大西 五三男(国際医療福祉大学 臨床医学研究センター)
- 時村 文秋(東京都健康長寿医療センター 病院)
- 西村 明展(三重大学 医学部附属病院)
- 吉村 典子(東京大学 医学部附属病院)
- 帖佐 悦男(宮崎大学 医学部附属病院)
- 藤野 圭司(藤野整形外科医院)
- 安村 誠司(福島県立医科大学 医学部)
- 島田 洋一(秋田大学 医学部附属病院)
- 遠藤 直人(新潟大学 医学部附属病院)
- 高岸 憲二(群馬大学 医学部附属病院)
- 石橋 英明(伊奈病院)
- 千田 益生(岡山大学 医学部附属病院)
- 石田 健司(高知大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
37,693,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
本班研究の目的は、1:運動器の客観定量的評価を行い、運動器の機能低下や要介護移行の予測指標を開発するとともに、2:運動機能訓練(ロコトレ)と電話呼びかけ(ロコモコール)を組み合わせた訪問型在宅介入プログラムを、行政による運動機能向上プログラム不参加者に対して実践して検証することにより、地域事情が異なる各自治体の実情に合わせて無理なく適用できるような、効果的な在宅運動介入システムを構築することである。
研究方法
運動器の評価法および指標開発研究においては、運動器の個々の要素の評価法の開発や基準値の解明を行うとともに、生活機能低下や要介護をアウトカムとした、コホート調査データの横断的、縦断的解析による運動器リスクの解明とその予測指標開発研究を、各研究分担者がそれぞれ独自のテーマを設定して行う。一方、運動器の効果的介入方法に関する調査研究は、宮崎大学を中心とする全国各地の介入フィールドで、呼びかけ介入(ロコモコール)による在宅運動プログラムを各地域の実情に即して工夫して行うことにより、通所型運動器介護予防事業に参加しない高齢者に対する効果を検証する。ロコモーショントレーニング(ロコトレ)は、日本整形外科学会により提案されたもので、開眼片足立ち訓練と膝を前に出さないスクワット訓練から成り、筋力とバランス力を強化しながら膝関節や腰への負担が少なくなるような、高齢者の身体に優しい訓練方法であり、運動能力に応じて工夫を加味して自宅にて自分で実践できる方法である。
結果と考察
運動器の評価法および指標開発研究グループでは、要介護移行率と危険因子の解明研究において、要介護移行率(要支援1以上)が2.3/100人年であること、筋力低下(握力、膝伸展筋力)と運動速度低下(歩行速度、椅子立ち上がり時間)が要介護の危険因子となることを明らかにした。要介護予防のためには、まず改善目標となる指標が必要であり、今後の予防に有益と思われる。またベースライン調査時における日常生活機能低下(WOMAC機能スコア)が要介護移行を予測し、4点から6点をカットオフ値とすると、2.5倍の要介護移行高リスク集団をピックアップできることが明らかとなり、高リスク者のスクリーニングに活用できる。EWGSOPサルコペニア研究では、中年期に運動習慣を有する者は、老年期において筋力、運動能力が高く維持され、サルコペニアの有病率が低いことが報告された。まだ元気なうちから運動習慣を保つことで、老年期になっても筋力や運動能力を高く維持して、要介護にならないよう取り組むことが大切である。筋評価研究においては、大腿筋厚、筋エコー強度は将来的な筋肉量の減少と有意に関連し、サルコペニア関連リスクの予測に有用であることが示唆された。DXAによる筋量評価を用いてのサルコペニアと死亡率の研究では、男性で筋肉量低下群において全死亡が約2倍、呼吸器疾患死亡が2.6倍に高くなることが報告された。3軸加速度センサーを用いた歩行分析による骨折後高齢者の機能悪化リスク研究では、歩行加速度の規則性が不良であることが骨折後高齢者の転倒危険因子として抽出された。骨強度評価研究においては、汎用化を目指した有限要素法解析プログラムの改良が行われた。関節機能の評価研究では、膝関節機能が将来の抑うつ症状と関連することが示唆された。膝関節動揺性の評価研究では、症状と膝関節動揺量との間に関連があることが報告され、外反母趾の住民コホート研究では、外反母趾が歩行速度低下と関連することが報告された。運動器の効果的介入方法に関する調査研究においては、本年度の参加者は125名で、プロトコール全てを実施したのは108名で全体の86.4%を占め、高い継続性が得られた。そのうち基本チェックリストの運動器の項目3点以上かつ「運動器の機能向上プログラム」に参加していない真の対象者は66名であった。参加者の平均年齢は78.3才で、75歳以上の後期高齢者は全体の70.4%を占めた。開眼片足立ち時間は開始時平均32.6秒、終了時平均49.4秒、椅子立ち上がり時間は開始時平均16.7秒、終了時平均14.9秒、ロコモ25アンケートの点数は、初回時平均19.8点と終了時平均17.9点であり、本介入研究により開眼片脚立ちや椅子からの立ち上がり時間を短縮でき、運動機能および生活機能向上に効果をもたらすことが示された。在宅訓練に興味を抱く高齢者は多く、今回のロコトレ体操を在宅訓練で継続的に行えれば、運動機能は向上し、要介護・要支援予防に貢献可能であると考えられた。
結論
本班研究の成果を現場に還元することにより、要介護の高リスク者のピックアップと効果的な介入により運動器障害による要介護移行を予防するための対策に役立てることができるものと思われる。
公開日・更新日
公開日
2015-03-24
更新日
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