先進的自立支援機器を用いた介護予防の効果検証

文献情報

文献番号
201310001A
報告書区分
総括
研究課題名
先進的自立支援機器を用いた介護予防の効果検証
課題番号
H23-長寿-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 隆雄(独立行政法人国立長寿医療研究センター 所長室)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 敦(独立行政法人国立長寿医療研究センター 病院)
  • 島田 裕之(独立行政法人国立長寿医療研究センター 研究所)
  • 大渕 修一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所)
  • 吉田 英世(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所)
  • 金  憲経(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,870,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、歩行アシストを用いた介入により虚弱高齢者に対する長期効果と要介護認定者に対する効果を検証し、歩行アシストの有効性を明らかにした。
研究方法
虚弱高齢者に対する歩行支援機器の長期効果について
【対象者】
研究対象は、虚弱のリスクを有する高齢者232名とした。対象者は、対照群(n=77)、歩行のみの群(歩行群:n=77)、自室支援機器使用群(アシスト群:n=78)の3群に無作為割付けした。
【介入】
介入期間は前半の集中期(週2回、3か月間)と後半の維持期(週1回、6か月間)に分けられ、歩行群とアシスト群は1回90分の運動介入プログラムを約9か月間(計48回)実施した。運動介入プログラムは、ストレッチ・筋力トレーニングを中心とした準備体操(20分)、屋内外での歩行運動(60分)、整理体操(10分)で構成され、アシスト群の歩行運動については、HONDA技術研究所が開発した歩行アシストを腰部に装着して行った。理学療法士や体育専門家による監督・指導の下、5~6名の補助スタッフが協同して進めた。対照群に対しては、同一期間中に健康講座を3回開催した。

要支援・要介護認定者に対する自立支援機器の適用可能性について
【対象者】
株式会社ツクイの通所サービスを利用する65歳以上の要支援・要介護認定者(要介護3以上は除外)とした。研究協力が得られた全国20事業所を対照施設(10事業所)と介入施設(10事業所)に無作為割付し、各事業所で対象者条件を満たす137名を決定した。
【介入】
介入事業所では、通所サービス利用時に通常の機能訓練に加えて歩行アシストを用いた介入プログラムを実施した。歩行介入は各施設専任の理学療法士が担当し、対象者に応じた個別の介入プログラムを実施した。施設間の介入プログラムに統一性をもたせるため、担当者は事前の研修会を受講し介入プログラムの基本指針についての理解を深めた。対照施設では、同一期間中は通常のケア・サービスと機能訓練のみ実施した。

結果と考察
結果
虚弱高齢者に対する自立支援機器の長期効果について
老研式活動能力指標の知的能動性において期間の主効果が認められた。また、単純主効果の検定の結果、手段的自立においてアシスト群のみ有意な向上を示した。日常での歩数においては、交互作用と期間の主効果が認められた。単純主効果の検定の結果、アシスト群と歩行群において事前評価と比較して最終評価で有意な向上が認められ、最終評価時のアシスト群と対照群に有意な差が認められた。体力測定においては、握力と6分間歩行距離において交互作用が認められ、このうち6分間歩行距離では、歩行群とアシスト群において介入前後における単純主効果が認められた。

要支援・要介護認定者に対する自立支援機器の適用可能性について
日常生活機能評価のFIMの得点について、介入前後で有意な期間と群の交互作用が認められ、対照群の得点は低下したのに対し、介入群は向上を示した。運動機能において、通常歩行速度と動的バランス指標であるdynamic gait indexにおいて交互作用が認められ、介入群の歩行機能が有意に向上した。

考察
虚弱高齢者に対する自立支援機器の長期効果について
老研式活動能力指標の手段的自立の得点においてアシスト群のみが事前評価より最終評価で有意に向上しており、日常生活を送る上で必要な手段的ADLに対する介入効果が確認された。また、その他、生活の質、疼痛、運動機能等においても部分的に歩行アシストの有効性が確認できたが、今回実施した低負荷でのトレーニングでは効果が十分に認められなかった側面もあった。歩行アシストを用いた介入効果を最大限引き出すためには、介入対象や方法について更なる検討が必要と思われた。

要支援・要介護認定者に対する自立支援機器の適用可能性について
 ADLを評価するFIMにおいて有意な交互作用が認められ、介入群の得点が向上し、介入の有効性が要支援や要介護高齢者においても確認できた。運動機能における効果検証では、歩行速度に加えて歩行の安定性も有意に改善した。このような歩行機能の改善効果は今回使用した歩行支援機器の注目すべき効果と考えられた。
結論
本研究では、自立支援機器を用いた運動介入を実施し、虚弱高齢者に対する長期介入効果と要介護認定者に対する介入効果を様々な視点から検証した。その結果、虚弱高齢者において歩行支援機器を用いた運動が通常の運動と比較して有効であるかどうかは、今回の介入試験で明らかにならなかった。一方、要介護高齢者では介入によるADLの改善効果が認められ、歩行機能改善効果も明らかであった。今後は歩行アシストを用いた介入効果を最大限引き出すための介入対象や方法について更なる検討をする必要がある。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201310001B
報告書区分
総合
研究課題名
先進的自立支援機器を用いた介護予防の効果検証
課題番号
H23-長寿-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 隆雄(独立行政法人国立長寿医療研究センター 所長室)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 敦(独立行政法人国立長寿医療研究センター 先端診療部)
  • 下方 浩史(独立行政法人国立長寿医療研究センター 予防開発部)
  • 島田 裕之(独立行政法人国立長寿医療研究センター 自立支援システム開発室)
  • 辻 一郎(東北大学大学院医学系研究科)
  • 大渕 修一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所)
  • 吉田 英世(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所)
  • 金 憲経(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 高齢者の老化に伴うさまざまな機能減衰を要介護状態の視点から見た場合、決定的な機能障害としては(1)移動能力の低下・障害、(2)排泄能力の障害、そして(3)摂食障害がある。特に(1)の「移動能力の低下・障害」は容易に要支援レベルとなるだけでなく、それ以降の障害を律速することから、移動能力の保持・機能向上は介護予防(介護の重度化予防)の基本であり、その予防対策は極めて重要となる。
 本研究では、この介護予防の根幹である移動能力の低下予防を最重要課題と位置づけ、各種の運動やトレーニングのみならず、近年著しい技術的進歩を遂げている先進的機器を用いた新たな介護予防のためのスクリーニング方法と介入プログラムの開発を目的とした。
研究方法
 平成23年度は、虚弱のスクリーニング指標やそのカットオフ値について検討し、これらの結果を踏まえて、愛知県大府市に在住する65歳以上の地域高齢者5,104名の調査を実施し、介入研究対象となる虚弱高齢者を選定した。
 平成24年度は、本田技術研究所が開発した歩行アシストを用いて虚弱高齢者の機能向上に対する効果検証を実施した。介入研究の対象者は、平成23年度に大府市で実施したスクリーニング検査によって虚弱あるいは虚弱予備群と判定された232名であった。対象者はランダムに対照群77名、歩行介入群77名、先進機器を用いた歩行介入群(アシスト群)78名に割り付けられた。介入期間は前半の集中期(週2回、3か月間)と後半の維持期(週1回、6か月間)に分けられ、歩行群とアシスト群は1回90分の運動介入プログラムを約9か月間(計48回)実施した。
 平成25年度は、要支援・要介護高齢者に対する先進的自立支援機器の効果を検証するために、施設をクラスターとしたランダム化比較介入試験を実施した。対象は通所サービスを利用する65歳以上の要支援・要介護認定者(要介護3以上は除く)で、研究対象となる通所サービス事業所は、通常の機能訓練のみ実施する対照事業所と、通常の機能訓練に歩行アシストによる歩行運動を追加する介入事業所に分けられた。介入期間は5か月間とした。
結果と考察
 高齢になるほど虚弱の有症率は上昇し、特に75歳以上の後期高齢者になるとその傾向は顕著になるなど、虚弱高齢者の実態は先行研究結果とほぼ一致した。なお、日本人における虚弱に対するこれらのカットオフ値は、握力は男性26kg、女性17kg、歩行速度は男女とも1.0m/sが妥当であると考えられた。
 虚弱高齢者に対する運動介入が生活機能に与える影響について検証した結果、手段的自立の得点においてアシスト群のみが介入前より介入9か月後で有意に向上していた。歩数においては交互作用が認められ、アシスト群と歩行群が介入前よりも介入9か月後に有意に増加した。また、リズム歩行アシストを用いた介入によって歩行機能の向上が認められた。歩行機能の代表的な評価指標である歩行速度は、高齢期に年間1~2%減少するが、介入によって歩行速度が有意に向上したことは、リズム歩行アシストを用いた運動が、高齢期の健康保持に有効である可能性を示唆するものであった。
 要介護認定者に対する自立支援機器を用いた運動介入が生活機能に与える影響について検証した結果、ADLを評価するFIMにおいて有意な交互作用が認められ、介入群の得点が向上していた。鈴川ら(2011)は、要介護高齢者のADLがわずか6カ月間で低下することを報告しており、健常高齢者よりも要介護高齢者ではADL低下の発生率が高いことを示している。実際、本研究においても対照群のFIM得点は減少傾向にあり、自立支援機器を用いた介入がADL向上に寄与できる可能性が示された。運動機能における効果検証では、歩行速度に加えて歩行の安定性が有意に改善した。虚弱高齢者を対象とした介入結果との共通点として、歩行速度の向上が挙げられ、このような歩行機能の改善効果は今回使用した歩行支援機器の注目すべき効果といえる。
結論
 本研究では、先進的機器を用いた虚弱高齢者のスクリーニング方法の確立と介入プログラムの効果検証を実施した。虚弱のスクリーニングでは、歩行速度や筋力が優れた指標であり、その最適なカットオフ値は、握力において男性26kg、女性17kgであり、歩行速度が男女とも1.0m/sであることが明らかになった。 介入研究の結果からは、虚弱高齢者の運動機能の向上に先進的介護予防機器が有効である可能性が示唆された。また、要支援・要介護認定者に対しては、歩行の自立に必要とされる動的なバランス機能の向上や歩行速度の向上が認められたことから、歩行の自立促進へ向けたツールとしてリズム歩行アシストを活用していくことは有意義であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2014-08-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201310001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 本研究で実施した虚弱に関する研究は、世界的に見ても十分な知見があるわけではなく、今回報告した大規模集団を対象とした虚弱の調査結果は、世界最大規模であり、今後の日本の虚弱に関する研究のマイルストーンになると考えられる。また、ロボット技術を活用した虚弱に関する研究は、先行的にほとんど行われておらず独創的であったと考えられる。また、介入効果の実証における研究デザインはランダム化比較試験であり、質の高いエビデンスの提示ができたものと考えられる。
臨床的観点からの成果
 本研究課題は、介護予防を目的としており、知見の適用は病院というよりは介護施設や保健施設となる。これらの施設において高齢者の歩行機能の向上を目的としたリズム歩行アシストの安全性が確認された。また、運動による歩行機能向上の効果がランダム化比較試験により確認でき、虚弱や要支援・要介護高齢者に対する介護予防や重度化予防のツールとして利用可能であることが示された。
ガイドライン等の開発
 本研究は平成24年度アクションプラン「先進的な機器を用いた介護予防プログラムの開発と人材育成」の中核的な事業内容である。その施策は「先進的介護予防機器である歩行アシスト装置を使用した「歩行訓練プログラム」を開発し、高齢者の日常生活動作能力の改善、介護者の負担軽減を図る。また、歩行訓練プログラムを用いて介入研究を行い、その有用性を証明し、プログラムが多くの自治体で利用されることにより、高齢者が自立して生活できる社会の実現を目指す。」とされ、本研究事業によってプログラムの効果が確認された。
その他行政的観点からの成果
 経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施する「生活支援ロボット実用化プロジェクト」において、生活支援ロボットの国際安全規格の提案が採用される形で 、 生活支援ロ ボットの国際安全規格ISO13482が発行された。本研究によって安全性が確認された知見は、生活支援ロボット実用化プロジェクトの一部として活用されている。
その他のインパクト
 本研究事業は各種マスコミに取り上げられ、社会的な反響を呼んだ。たとえば、日本経済新聞にて「ホンダ、歩行補助装置を医療機関に提供 高齢者向け」(平成24年7月30日)、週刊東洋経済にて「介護はロボットが救う」(平成25年7月6日号)、月刊介護保険にて「ロボット介護機器開発を成長戦略に―介護予防分野での効果検証もスタート―」(平成25年8月号 vol.210)、NHK総合テレビ「サキどり↑DX 60分スペシャル版!」(平成26年1月5日) など取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
53件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
70件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kim H, Suzuki T, Yoshida H.
The effects of multimensional exercise on functional decline, urinary incontinence, and fear of falling in community-dwelling elderly women with multiple symptoms of geriatric syndrome: A randomized controlled and 6-month follow-up trial.
Arch Gerontol Geriatr  (2011)
原著論文2
Kim H, Yoshida H, Suzuki T.
The effects of multidimensional exercise treatment on community-dwelling elderly Japanese women with stress, urge, and mixed urinary incontinence: A randomized controlled trial.
Int J Nurs Stud  (2011)
原著論文3
Kim H, Suzuki T, Saito K, et al.
Effects of exercise and amino-acid supplementation on body composition and physical function in community-dwelling elderly Japanese sarcopenic women: A randomized controlled trial.
J Am Geriatr Soc  (2012)
原著論文4
Yoshida D, Shimada H, Harada A, et al.
Estimation of appendicular muscle mass and fat mass by near infrared spectroscopy in older persons.
Geriatr Gerontol Int  (2012)
原著論文5
Shimada H, Makizako H, Doi T, et al.
Combined prevalence of frailty and mild cognitive impairment in a population of elderly Japanese people.
JAMDA  (2013)
原著論文6
Yoshida D, Suzuki T, Shimada H, et al.
Using two different algorithms to determine the prevalence of sarcopenia.
Geriatr Gerontol Int  (2014)
原著論文7
Yoshida D, Shimada H, Park H, et al.
Development of an equation for estimating appendicular skeletal muscle mass in Japanese older adults using bioelectrical impedance analysis.
Geriatr Gerontol Int  (2014)
原著論文8
Yoshimatsu T, Yoshida D, Shimada H, et al.
Relation between near-infrared spectroscopy and subcutaneous fat and muscle thickness measured by ultrasonography in Japanese community-dwelling elderly.
Geriatr Gerontol Int  (2013)
原著論文9
Kim H, Suzuki T, Saito K, et al.
Effectiveness of exercise with or without thermal therapy for community-dwelling elderly Japanese women with non-specific knee pain: A randomized controlled trial.
Arch Gerontol Geriatr  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201310001Z