総合画像診断による高齢者生体機能の解明

文献情報

文献番号
199800202A
報告書区分
総括
研究課題名
総合画像診断による高齢者生体機能の解明
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 健吾(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山田孝子(国立療養所中部病院)
  • 米倉義晴(福井医科大学高エネルギー医学研究センター)
  • 畑澤順(秋田県立脳血管研究センター)
  • 福田寛(東北大学加齢医学研究所)
  • 大山雅史(日本医科大学)
  • 石垣武男(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,870,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではPET、SPECT、MEG、fMRIなどの機能画像を用いて、正常者における脳高次機能の加齢変化を明らかにして高齢者の特質を理解する。また、病的加齢としての痴呆性疾患によって生じる脳の機能異常を明らかにして正常加齢との違いを検討する。
研究方法
各分担研究者が以下のような項目を検討した。
1)脳磁図を用いた認知機能の解明ー顔の認知過程における加齢変化ー
若年成人15例、高齢者7例を対象としてヒトの顔 、顔を格子状にスクランブルしたもの、果物、十字架の各画像をランダムに呈示し、 MEGで誘発磁界を記録して顔の認知過程における加齢変化を検討した。(山田)
2)PETおよび機能的MRIを用いた高次脳機能の加齢変化
記憶と注意の相互関係に対する老化の影響を調べる目的で、12名の若年者と12名の高齢者にfMRIを用いて脳賦活検査を施行した。記憶課題では視覚的に呈示された単語対を記銘し、後にその一方の単語を手がかりにもう一方の単語を再生する。同時に行う二次課題は音弁別課題で、全注意(低音呈示)と分割注意(高低の音がランダムに呈示される)を用いた。(米倉)
3)老化に伴う脳血流酸素代謝の変化ー高齢者の無症候性脳幹部病変と脳循環酸素代謝ー
MR病変の有無によって分類した健常高齢者の無症候有病変群を脳幹部病変の合併の有無によって、サブグループ(無脳幹病変群、有脳幹病変群)に分類し、PETにより脳循環酸素代謝の差異について検討した。また、脳底動脈の動脈硬化性病変の指標として、MRIのT2強調画像にて正中からの血管の偏位(a)、橋表面からの距離(b)の和(a+b) mmを脳底動脈動脈硬化指標として算出した。(畑澤)
4)正常血流画像データベースの作成とその脳疾患診断への応用
脳の解剖学的標準化システムであるAIR (Automated Image Registration)を用いて20例のアルツハイマー型痴呆(71.7±7.1、CDR1~3、MMSE17.8±5.3)を対象として脳血流SPECT像を標準化し、既に構築した正常者群の脳血流画像データベースと画像ベースの統計解析を行った。(福田)
5)PETによる痴呆と高齢者脳疾患の病態生理の解析
アルツハイマー病(AD)の自動診断を目指して基礎的な解析を行った。弾性モデルに基づく関心領域(ROI)自動設定システムを用いて、正常人(10例、55.2±11.7才)とAD(21例、60.6±10.4才)を比較した。(大山)
6)機能的画像と解剖学的画像の統合、および定量的画像解析による高齢者脳機能の評価
PET検査時間の大幅な短縮が期待できるPETのエミッション・トランスミッション同時収集法の有用性を検討した。トランスミッションスキャン後にFDGを投与し、40分後から20分間のエミッションスキャンを行う従来法に引き続き65分後から20分間の同時収集を行い、両者を比較検討した。
7)総合画像による高齢者脳機能解析ー痴呆性疾患におけるドーパミンニューロンの解析ー
FDOPA-PET機能画像(Ki map)の解剖学的標準化法をパーキンソン病10例およびレビー小体型痴呆10例(いずれもHoehn & YahrのII~IV°)に適用して既に構築した正常例データベースを用いて画像ベースの統計解析の手法で解析し、両疾患におけるドーパミンニューロンの機能障害の異同を検討した。(伊藤)
結果と考察
1)脳磁図を用いた認知機能の解明ー顔の認知過程における加齢変化ー
一次視覚野を発生源とする刺激関連誘発磁界100mの 頂点潜時は加齢により変化しなかった。一方、顔認知と関連する160mが加齢により遅延することから、一次視覚野到達後の情報処理過程が加齢により影響を受けやすいことが示唆された
2)PETおよび機能的MRIを用いた高次脳機能の加齢変化
記銘時の分割注意は正答率を両群で有意に低下させたが、再生時の分割注意では正答率の低下はなかった。記銘時の分割注意で、高齢者では若年者に比べ、右上側頭回 と右上前頭回が強く賦活され、より多くの注意が聴覚系に割り当てられることが示唆された。さらに高齢者は記銘時に左下前頭回の賦活が、また再生時に右楔前部の賦活がそれぞれ若年者より弱かった。高齢者では記銘時に前頭葉を充分に賦活できないことが正答率の低下につながり、記銘した単語を視覚的な像として再生できないため右楔前部が賦活されないと推測された。
3)老化に伴う脳血流酸素代謝の変化ー高齢者の無症候性脳幹部病変と脳循環酸素代謝ー
有脳幹病変群では橋、中脳、小脳における平均脳血流量、血液量、酸素摂取率、酸素消費量に有意の変化を認めなかった。有脳幹病変群の動脈硬 化指数は、無脳幹病変群と比較して有意に高値であった(p<0.05)。また、脳幹部の酸素摂取率は、もともと他の領域に比べて低値であり、血流低下に対して保護的な血管構築がなされている可能性が示唆された。
4)正常血流画像データベースの作成とその脳疾患診断への応用
アルツハイマー型痴呆(AD)では前頭葉、側頭葉および頭頂葉で有意な脳血流の低下が見られた。また、痴呆の重症度との関連では軽症群と比べて重症群で左頭頂葉領域での脳血流の低下が目立った。比較的早期の患者群でも前頭葉の血流低下が見られた原因としては解析の方法論的問題、対象患者群の設定の問題などが考えられ、さらなる検討が必要と考えられた。
5) PETによる痴呆と高齢者脳疾患の病態生理の解析
病期の進んだADについても弾性モデルによるROIは視覚的評価で全例比較的妥当な部位に設定された。ROI自動設定システムを用い、ADでは頭頂葉にてt検定にて糖代謝の有意な低下が認められ、正常との鑑別に有用と考えられた。また,記憶に関係したテストと各領域の糖代謝の関連を検討したところ,同一カテゴリーの物品の列挙と左右の下頭頂葉と,上,中,下側頭葉の間に相関が見られた.
6)機能的画像と解剖学的画像の統合、および定量的画像解析による高齢者脳機能の評価
同時収集法では、感度の低下に起因すると思われるノイズの増加がみられたが、FDGの分布画像に差はほとんど見られなかった。トランスミッションスキャンに要する時間の短縮に加え、トランスミッションスキャン時とエミッションスキャン時の患者のずれ、動きによる画像の劣化を防ぐことができた。
7)総合画像による高齢者脳機能解析ー痴呆性疾患におけるドーパミンニューロンの解析-レビ-小体型痴呆の痴呆ではパーキンソン病に比べて線状体以外の広い領域でKi値の低下が見られ、とくにに前部帯状回、左側坐核でのKi値の低下が目立った。これまで病理で報告されているレビー小体型痴呆における広範なドーパミンニューロンの障害をはじめて画像化したものであり、我々が開発した方法は脳内のドーパミンニューロンの障害を極めて鋭敏に検出できる方法であることが示された。
結論
加齢および痴呆性疾患によって生じる脳の機能変化および機能異常の画像解析を行った。顔の認知過程における加齢変化、記憶と注意の相互関係に対する加齢の影響、高齢者の無症候性脳幹部病変と脳循環酸素代謝で加齢に伴う脳機能の基本的変化を明らかにするとともに、アルツハイマー型痴呆の診断と病態解析、レビー小体型痴呆におけるドーパミン神経系の障害など痴呆性疾患の脳の機能異常についても解析の方法論的進展とともに新知見を得た。

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