子宮頸癌に対する粘膜免疫を介したヒトパピローマウイルス(HPV)分子標的免疫療法の臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201309038A
報告書区分
総括
研究課題名
子宮頸癌に対する粘膜免疫を介したヒトパピローマウイルス(HPV)分子標的免疫療法の臨床応用に関する研究
課題番号
H25-医療技術-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
川名 敬(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 知行(東京大学 医学部附属病院 )
  • 五十君 静信(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 立川 愛(東京大学 医科学研究所)
  • 永松 健(東京大学 医学部附属病院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 子宮頸癌の前癌病変CIN2-3に対する標準治療は、子宮頸部円錐切除術である。CIN2-3の罹患ピークが30才前後であり、これらの外科的治療を受けることは術後妊娠時の周産期における医療経済を大きく圧迫している。このような背景から、CINに対する薬物療法の必要性が極めて高い。
 子宮頸癌は、発癌性ヒトパピローマウイルス(HPV)によるウイルス発癌であり、HPV分子を標的とした分子標的治療薬が期待される。CIN1はウイルス感染症でありE2が発現する。CIN2-3は前癌状態でありE7が発現する。E2、E7ともにヒトでの抗原性が高く免疫療法の標的として最適である。
 本研究の目的は、HPV分子を標的にした子宮頸癌と前駆病変(CIN1-3)に対する新規の分子標的治療薬を開発することである。本研究の特長は、標的となるHPV分子を発現した感染細胞・腫瘍細胞に対する粘膜免疫(細胞性免疫)を誘導して殺細胞効果を発揮する経口薬を開発した点である。
 本研究の開発薬剤は世界初のCIN治療薬と期待される。外科的治療を回避できるため、妊娠時の周産期予後も改善され、対がん対策としての日本発の創薬はもちろん、少子化、周産期問題に対する一助になる研究として本研究を位置付けている。
研究方法
 HPV標的分子に対する細胞性粘膜免疫を子宮頚部に誘導するために、HPV16型E7発現乳酸菌(GLBL-101c)を試験薬としHPV16型感染に起因するCIN2に対するランダム化、二重盲検、探索的後期第II相臨床試験を計画する。GLBL-101c 投与群(試験アーム)20例、プラセボ投与群(標準アーム)20例、総症例数40例とした。服用量:4カプセル/日(1g/日)を20日間であり、試験薬の管理・交付手順:東大附属病院臨床研究支援センター試験薬管理部門にて管理・調剤する。
主要評価項目として16週時の子宮頸部病変の病理学的寛解、副次的評価項目として子宮頸部及び血液中の細胞傷害性T細胞の誘導とする。事務局、データ管理、監査、モニターは東大病院臨床研究支援センター中央管理ユニットが行い、外部に第3者による「効果安全性評価委員会」を設置し、有効性と安全性を客観的に評価する。本試験はアンジェスMG株式会社との共同研究であるが、共同研究者は臨床試験の進行及びデータ測定・評価判定には関わらない。
 また、E7:乳酸菌の量比最適化を含む第2世代E7乳酸菌の開発として、GLBL101cのE7発現量(E7:乳酸菌菌体量の量比)が、粘膜免疫誘導において最適な量比であるかは不明であった。本研究では、Lactobacillus casei株に様々な量比でE7を表面固定化した試料を作成し、E7に対する粘膜免疫誘導能の最も高い量比を決定しその量比になるようにE7発現系を改築する。
結果と考察
 CIN2を対象とするGLBL101cの有効性試験「HPV16型陽性の子宮頸部中等度上皮内腫瘍性病変(CIN2)に対する乳酸菌を利用したCIN治療薬(GLBL-101c Cap.)の探索的臨床研究」が当該施設における臨床試験審査委員会において2013年10月30日に承認された。2014年3月10日に第1例目の登録された。既に5例が登録、試験が開始している。
 E7:乳酸菌の量比最適化を含む第2世代E7乳酸菌の開発については、様々なE7:乳酸菌体量比に設定したE7表出乳酸菌を精製した。乳酸菌としては、Lactobacillus casei IGM393を用いた。固定化した実際の表面上のcA=E7Rbの状態をFACSにより確認した。E7:乳酸菌量比を5段階に変動させたE7アンカー固定化乳酸菌を用意した。これに加え、臨床試験で用いているGLBL101c(108cellの乳酸菌当たり1.0gのE7蛋白質)、乳酸菌のみ(陰性コントロール)の7群で5匹ずつのマウスに経口投与(1, 2, 4, 6週で5日間/週)による免疫誘導を実施中である。
結論
 本研究では、CIN2に対するHPVE7標的免疫療法の第IIb相に準じた二重盲検ランダム化自主臨床試験を開始した。臨床試験の質と透明性を高めるための準備を十分に行った後に試験を開始している。
本年度は、第二世代のE7標的免疫療法は特許出願をにらんで独自性を持たせた製剤を選定する実験に入った。基礎実験の結果をもとに、次年度には特許出願のうえ、新規薬剤を製剤化する予定である。
HPV分子を標的とする治療法は未だ世界的にも存在しない。粘膜免疫を介した免疫療法も存在しない。これらを融合させることで、独創性のある治療法の開発を始めた。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201309038Z