進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射の実施の有無を比較するランダム化比較第III相試験

文献情報

文献番号
201309021A
報告書区分
総括
研究課題名
進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射の実施の有無を比較するランダム化比較第III相試験
課題番号
H24-臨研推-一般-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
山本 信之(和歌山県立医科大学 内科学第三教室)
研究分担者(所属機関)
  • 瀬戸 貴司(国立病院機構九州がんセンター 腫瘍内科)
  • 西尾 誠人(公益財団法人がん研究会有明病院 呼吸器内科)
  • 後藤 功一(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)
  • 金田 裕靖(近畿大学医学部 臨床腫瘍学 腫瘍内科)
  • 山中 竹春(国立がん研究センター 先端医療開発支援室)
  • 高橋 利明(静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科)
  • 坂 英雄(国立病院機構名古屋医療センター 呼吸器病学 臨床腫瘍学)
  • 高山 浩一(九州大学大学院 臨床医学部門 内科学講座 呼吸器内科学分野)
  • 軒原 浩(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)
  • 原田 英幸(静岡県立静岡がんセンター 放射線治療科)
  • 武田 晃司(大阪市立総合医療センター 臨床腫瘍学)
  • 大泉 聡史(北海道大学病院 内科)
  • 井上 彰(東北大学病院 臨床試験推進センター 臨床腫瘍学)
  • 澤 祥幸(岐阜市民病院 呼吸器科 腫瘍内科)
  • 吉岡 弘鎮(財団法人倉敷中央病院 呼吸器内科 外来化学療法センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)に対する予防的全脳照射(PCI)に関しては,初回治療の効果が完全寛解(CR)の症例に対しては標準的治療と考えられている。一方、これまでCRに至らなかった症例でのPCIの意義は明らかではなかったが、2007年にED-SCLCにおいて初回治療奏効例(CR以外も可)に対してPCIを行うことにより、生存率が有意に改善することが欧州より報告された(N Engl J Med: 357, 664-72, 2007)。しかしながらこの報告については
(1)治療開始時にCT・MRIにより脳転移の有無を確認した症例は29%にすぎない、 (2)PCIの照射線量,照射回数に大きなばらつきがあり、化学療法レジメンも統一されていない。
などの理由から、我が国の日常診療にそのまま導入すること困難である。そこで我が国の日常臨床に則して、治療前および治療後の経過観察中に脳画像診断にて脳転移の検索を行うことを必須として、ED-SCLC症例に対するPCIの有効性を検討する第3相試験を計画した。
研究方法
<研究対象>
1. 初回化学療法開始前に脳画像検査にて明らかな脳転移を認めないED-SCLC
2.初回化学療法に対して腫瘍縮小がみられた症例
3. 初回化学療法終了後かつ登録前4週以内の脳MRI画像検査で脳転移が認められない。
4. 年齢が20 歳以上、PS(ECOG)が0-2
5.問題となる精神疾患あるいは身体的合併症を有さない。
6.患者本人から文書で同意が得られている 。
<試験方法>
PCI非施行群に対しPCI群の生存期間に対する優越性を検討するランダム化第III相試験
Primary endpoint:全生存期間、Secondary endpoints:脳転移発症率,無増悪生存期間,PCIによる毒性
PCI非施行群の2年生存率を10~15%と仮定し、ハザード比=0.71のもとでは、PCI施行群は20~26%の2年生存率を達成できることになる。このとき、α=0.05(両側),検出力85%のもとで、必要な総イベント数(死亡数)は約300例と計算される(Freedmanの方法による)。登録期間、追跡期間を考慮し、片群165例,両群計330例を予定登録数とする。
2回の中間解析を実施する。 1回目は予定登録数の1/2の登録が得られた時点のデータを用いて行い、2回目は全ての登録患者のプロトコール治療が終了する時点のデータを用いて行う。中間解析の結果は、独立効果安全性評価委員会に報告し、継続の可否について検討する。
<治療方法>
最終化学療法開始から4-6週以内にPCIを行う(1回2.5Gy,1日1回,週5 日,計10 回,総線量25Gy)
結果と考察
本試験は、わが国の呼吸器悪性腫瘍診療の主要施設を網羅する研究体制を確立し(57施設が参加)、本事業1年目の時点で総計208例が登録されていた。本事業年度に入り、中間解析を実施したところ、PCI施行群で生存期間が有意に延長する可能性が0.00011であり、2013年7月17日、登録数224例にて症例登録を中止した。脳転移の発生率はPCI実施により優位に減少した(P<0.001)。
 本試験の結果により、抗がん剤治療後に脳MRIで真に脳転移がないことが確認された症例で、他の臓器に腫瘍が残存している場合にはPCIが不要であることが証明された。
欧米では、MRIの普及率はわが国と比較して低率であり、全症例で脳転移の有無をMRIを用いて確認することは困難である。放射線治療医は充足しているため、放射線治療を実施することに困難を感じることは少ない。逆に、わが国では放射線治療医は少なくMRI装置は潤沢に普及している。そのため、化学療法後にMRIを実施して脳転移の有無の確認することは普通に実施できるのに対し、放射線治療の実施件数を増やすことは容易ではない。
海外で報告された全てのエビデンスをわが国で再確認する必要はない。しかし、わが国の医療環境と大きく異なった状況下で得られたものについては、海外の結果を鵜呑みにせず、再検討する必要があるということが確認されたことも今回の試験の成果の一つであると考えている。
中間解析の結果ではPCI施行群で未施行群と比較して逆に生存期間で劣っているような生存曲線が得られている。追跡期間が不十分であるためPCIで有意に生存期間を短縮してしまうかどうかは現時点では不明である。今後、予定の追跡を行い最終的な生存期間を確定し、さらに毒性などのデータも検討して最終報告を行う予定である。
結論
ED-SCLCで化学療法で腫瘍縮小を認め、腫瘍が残存している症例に対しては、PCIの実施で生存期間の延長は認めなかった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201309021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,000,000円
(2)補助金確定額
19,468,000円
差引額 [(1)-(2)]
532,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,765,549円
人件費・謝金 1,340,036円
旅費 3,283,442円
その他 9,079,801円
間接経費 0円
合計 19,468,828円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-