文献情報
文献番号
201309013A
報告書区分
総括
研究課題名
肺胞蛋白症の吸入治療のための新規GM-CSF製剤の非臨床試験
課題番号
H24-臨研推-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田澤 立之(新潟大学 医歯学総合病院)
研究分担者(所属機関)
- 中田 光(新潟大学 医歯学総合病院)
- 湯尾 明(国立国際医療研究センター研究所 疾患制御研究部)
- 井上 義一(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 臨床研究センター)
- 中垣 和英(日本獣医生命科学大学 医学部)
- 内田 寛治(東京大学 医学部)
- 井上 彰(東北大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
29,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肺胞蛋白症は,肺胞の構造維持に重要なサーファクタント物質が末梢気腔内に異常に蓄積して呼吸不全を呈する疾患で,その9割が顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体が原因と考えられる自己免疫性肺胞蛋白症である.標準治療は,全身麻酔下での全肺洗浄とされるが侵襲が大きいため,私たちの研究グループでは,より簡便な治療としてGM-CSF吸入の治療研究を2000年より開始し,2005年―2008年に本邦9施設による多施設第2相試験を世界に先駆けて実施し,その有効性と安全性を示した.本研究では,本邦未承認のGM-CSF製剤の吸入薬の開発のため,CHO細胞由来GM-CSF製剤(以下CHO-GMCSF)のラボレベル製品について,薬理学的特性と哺乳動物を用いた吸入毒性試験の方法を検討する.本年度は,①糖鎖修飾と生理活性との関連,②コロニーアッセイによる増殖分化誘導作用の評価,③CD11b発現量測定によるシグナル伝達の評価,④他の動物種での活性,⑤気道内単回投与実験,⑥反復投与での抗体の出現,の6項目について検討した.
研究方法
CHO-GMCSFは,Clostridium perfringens由来 シアリダーゼで脱シアリル化された.Ultraflex TOF/TOF mass spectrometers (Bruker Daltonics)で質量分析を行った.TF-1 細胞をGM-CSF 添加無血清培地中で培養し,MTTアッセイで細胞増殖を評価した.コロニーアッセイは,正常ヒト由来のヒト骨髄血液細胞を作用対象細胞として,メチルセルロースを用いた半固形培地で実施した.細胞内のCD11bの量をフローサイトメトリー法で細胞内サイトカイン染色法を用いて定量し、GM-CSF刺激によって細胞内外のCD11b量の変化を調べた.各用量雌雄各1 匹のカニクイザルにGM-CSF 製剤をマイクロスプレーでの単回気管内投与(0.005,0.05 及び0.5 mg/body)又は2種のネブライザー(膜型/ジェット)を用いて単回吸入投与(0.05,0.5 及び5 mg/body)し,投与前および投与後24時間まで経時的に血漿を採取した.GMCSF製剤を,マイクロスプレーによる気管内投与(15μg/body/回,2回/週,12週)をオス2例のカニクイザルに施行し,1週間毎に採血し抗体の検出を行い,12週後に細径気管支ファイバースコープによる気管支肺胞洗浄液(BALF)採取を行った.なお動物実験にあたっては新潟大学動物実験倫理委員会に実験計画書を提出し承認を受けた(新大研第193号1,第269号7,第269号6).
結果と考察
①シアリル化糖鎖修飾をもつCHO-GMCSFは,大腸菌や酵母由来のGM-CSFに比べ、低濃度で細胞の増殖や生存を促進した.この効果は,シアル酸付加による、細胞への結合,細胞内への内在化・分解が遅れることによると考えられた.②コロニーアッセイでの正常ヒト造血前駆細胞に対する増殖・分化誘導作用の評価では,大腸菌由来製剤の活性がやや高い傾向にあった.③GM-CSFの生物活性を測定する簡便な方法として、CD11b 刺激 index(血中の好中球表面の接着因子CD11bがGM-CSF刺激により増加する現象を測定)を開発した.この測定系は,適切な実験環境管理下であれば,再現性が高く,GM-CSF生物活性を簡便に短時間で測定できる.CD11bの発現増強は他の炎症性疾患でも見られるので今後そうした疾患との違いを検討する.④他の動物種での末梢血顆粒球のCD11b発現増強作用の検討では,ウサギで増強作用がみられ,CHO-GMCSFの活性は他の製剤に比べ低かった.⑤カニクイザルへの酵母由来GM-CSF 製剤の単回吸入投与を,気管内噴霧,膜型ネブライザー,ジェットネブライザーを用いて行い,いずれでも血中GM-CSF濃度推移を検出できた.マイクロスプレーは、ネブライザーに比べ,1/10程度の用量で同等の効果が得られ,膜型とジェット型のネブライザーは、ほぼ同等の用量でよいことが分かった.⑥大腸菌製剤とCHO-GMCSFのカニクイザルへの常用量(5μg/kg/回)週2回,12週間の経気道反復投与を行い,3-4週後より血中で抗GM-CSF抗体が検出されたが,12週後のBALFでは肺胞蛋白症の所見はみられなかった.
結論
細胞の増殖や生存促進,他の動物種での顆粒球のCD11b発現などの面でCHO-GMCSFの糖鎖修飾が重要であることが示された.カニクイザルへの気道内投与として,膜型とジェット型のネブライザーはほぼ同等で,単回投与実験が可能であることが示された.GM-CSF製剤の経気道的反復投与4週程度で,血中抗GM-CSF抗体を検出できるようになることが明らかとなり,さらに検討を進める.
公開日・更新日
公開日
2015-03-11
更新日
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