ハイリスク大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル的大動脈弁植込み術の有用性の評価-日本における大動脈弁狭窄症に対する総括的治療戦略の構築-

文献情報

文献番号
201309004A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイリスク大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル的大動脈弁植込み術の有用性の評価-日本における大動脈弁狭窄症に対する総括的治療戦略の構築-
課題番号
H23-臨研推-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
澤 芳樹(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 南都 伸介(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
  • 中谷 敏(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
  • 倉谷 徹(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
  • 鳥飼 慶(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
  • 竹田 泰治(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
  • 溝手 勇(国立大学法人大阪大学 医学系研究科)
  • 大門 貴志(兵庫医科大学医学部)
  • 前田 孝一(大阪大学医学部付属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先進医療を通じ、未だ不明な本邦での経カテーテル的大動脈弁植込み術 (TAVI あるいはTAVR) 手技の安全性及び有効性を検討し、本治療の妥当性を評価する。また、主要TAVIデバイス間での比較検討も行う。さらに治験対象外となる透析や重度心不全合併などの超ハイリスクな患者、大動脈弁置換術後の生体弁機能不全患者に対する本手技の臨床成績を蓄積し、TAVI適応範囲の拡大をめざす。
研究方法
1.高度先進医療制度 (先進医療) 下でのTAVIの実施
適応: 弁尖の硬化変性に起因する重度大動脈弁狭窄を有する患者。
大動脈弁置換術後の生体弁機能不全患者を含む
平成25年10月にこれまで先進医療で使用していたEdwards SAPIEN THV-9000の改良版 サピエンXTが保険償還されたことから、平成25年末より先進医療のプロトコル変更を行った。これにより適応は慢性透析患者に限ることとなった。
予定症例数:平成25年度開始当初は53症例を予定していたが、平成25年末の先進医療のプロトコル変更に伴い、76症例に変更となり、実施期間も計8年に延長となった。
上記他、本研究では大動脈弁置換術後の生体弁機能不全患者を対象 (予定症例数: 20症例、観察期間: 6か月以上) に行うこと、またMedtronic CoreValve ReValving Systemを用いたTAVIの施行も検討 (Edwards SAPIENとの差異を明らかにする) している。
2. 術後早期成績の検討
3. 術後中期成績の検討
4. TAVIナビゲーションソフトの開発及び手技の実践
 
結果と考察
平成25年度も引き続き、開心術の適応が困難とされるハイリスク大動脈弁狭窄症患者に対しEdwards SAPIENを用いたTAVIを実施し、本年度内に先進医療下に施行されたTAVI症例は10患者、10症例であった。平均年齢は78.8 ±9.7歳で、平成23年度から本年度までの平均で81.4 ±6.8歳であった。男性が5 例 (50.0%) で、平均の体表面積は1.44 ±0.15 cm2であった。本年度の手術成績は、手術死亡、在院死亡とも急性大動脈症候群による1例のみで、その率は10.0% (累計で4.3%) であった。通常の開心術による大動脈弁置換を行った場合の手術リスクはLogistic EuroSCOREで44.3%, STS risk scoreで17.9%であったことから、ハイリスクな患者を対象にTAVIは本年度も良好な術後早期成績を示した。退院後の遠隔期死亡としてはこれまでに3例を認めた。死因として誤嚥による窒息死、消化器感染症による敗血症、他疾患処置中の出血死である。いずれも心臓死ではなかった。また観察期間中、植込んだ弁の機能不全は認めなかった。
 サピエンXTの保険償還を受けて、本年度後半に先進医療のプロトコルを変更。それに伴い平成26年1月からは慢性透析患者に限って当該治療を行うこととなった。慢性透析患者5例においては、経腸骨動脈アプローチ 1例、経心尖部4例でTAVIを施行し、術後の成績は良好で、術中も大きな合併症なく経過。術後もmajorな合併症を認めることなく、全例軽快退院をはたした。観察期間中で植込んだデバイスの機能不全をきたした症例も認めていない。
 本年度は治験対象外であった低心機能・強心剤補助下の患者1例に対してもTAVIを施行した。結果的に急性冠動脈症候群を合併し、手術死亡となったが、TAVIの手技自体はPCPS補助下に比較的安全に行うことができ、今後も同様な患者に対する治療オプションとして有用と考えられた。
 本年度の症例の中にはvalveのcuspの長さが、冠動脈入口部の弁輪部からの高さより長い症例が1例あり、同血管に経カテーテル弁植込み前にワイヤーが留置され、弁植込み後造影及びIVUSにて右冠動脈入口部の病変を評価し、PCIを施行した。こうした治療により、トラブルなく冠動脈閉塞・狭窄の合併症に対応できた。本邦ではTAVI対象患者は体格的にもBSA 1.4 m2程度と極端に小さく、特有の大動脈基部解剖を理解しながら当該治療の戦略をたてることが肝要である。
結論
先進医療下に、平成25年度内に治験では適応外となる低心機能患者1例、維持透析患者5例を含む10例 (累計47例) の患者にTAVIを施行し、良好な術後早期成績を得た。引き続きデータの蓄積が必要なものの、現時点でまでで弁の耐久性に問題はなく、患者のQOLを維持し得る有効な治療オプションであることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201309004Z