文献情報
文献番号
201308026A
報告書区分
総括
研究課題名
グロメルロイド血管制御ナノsiRNAによる膠芽腫の革新的治療戦略開発
課題番号
H24-医療機器-若手-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
狩野 光伸 (岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 岸村 顕広(九州大学 大学院工学系研究科)
- 松崎 典弥(大阪大学 大学院工学研究科)
- 西原 広史(北海道大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我々はこれまでの研究から、グロメルロイド血管(GV)では血管内皮細胞周囲の壁細胞(PC)集積が豊富であることを見出しており、これによりPCの過剰増殖が血管バリア能を異常に強化している可能性を仮説とした。この仮説に基づき、本研究では膠芽腫組織内におけるPCを抑制することでGV形成を回避しうる可能性を考えた。GVは、悪性膠芽腫における特徴的血管構造である。しかし、その機能的側面にはほとんど着目されてこなかった。従って妥当な実験系も存在していない。これをヒト病理学的所見に照らしながら確立し、主にGVに含まれるPCを治療標的として、その血管内皮細胞(endothelial cells、EC)への接着や成熟を抑制するsiRNA配列を特定し、そのsiRNAを搭載したナノDDSをヒトにおける適用可能性を視野に入れつつ開発した。
研究方法
脳腫瘍モデル細胞マウス移植モデルにおけるGV様構造の解析を行った。本研究では、siRNA製剤の薬効を病理組織構築と比較をしつつ、十分に検証する必要があった。そこでより迅速な解析を行うために、TS-GFP細胞による皮下移植モデルの組織構築について解析を行った。CXCL12およびその受容体であるCXCR4について解析を進めた。CXCR4を阻害する低分子化合物を移植モデルに投与し、PC被覆およびナノ粒子分布に関して組織学的に解析した。CXCL12を抑制するsiRNA配列(siCXCL12)を決定した上で、siRNA送達用ナノデバイスであるcRGD付加PEG-イミノチオラン修飾ポリリシンによるミセルに搭載し(以下、siCXCL12ミセル)、同様にPC被覆並びにPICsome分布を評価した。倫理面への配慮を行った。
結果と考察
脳腫瘍モデル細胞を移植する際に調製する細胞懸濁液の至適条件について検討を行い、マウスに移植した。組織学的評価の結果、皮下腫瘍組織内の血管もSMA陽性細胞による被覆が顕著に見られ、血管密度が高く、形状も不整であった。この結果より、皮下移植モデルを用いることでより迅速にGV内PC抑制による薬効評価を行うことが可能であると考え、初期検討において皮下移植モデルを利用することとした。CXCR4阻害剤を、腹腔内投与すると、PC(SMA陽性細胞)による血管の被覆が約50%低下し、PICsomeの腫瘍内分布領域が有意に拡大することが明らかになった。siCXCL12をcRGD付加PEG-イミノチオラン修飾ポリリシンによるミセルに搭載し、同様にPC被覆並びにCy5-PICsome分布を評価した。PC被覆血管の有意な減少が確認でき、PICsome分布領域が拡大することを確認した。以上の結果より、TS-GFP細胞による膠芽腫モデルにおいてCXCL12を特異的に抑制するsiRNAミセルを投与すれば、その後に投与するナノ薬剤の腫瘍実質への到達効率改善が示された。
結論
膠芽腫は、効果的な化学療法の開発が待たれる疾患である。本研究では膠芽腫の特徴的病理構造、特にGVに着目し、ナノ製剤技術の応用で膠芽腫の新規治療戦略確立を目指した。GV構成細胞を抑制するシグナル分子の同定について、GV形成の責任因子として主に老化関連分泌因子群(SASPs)に着目してきた。既存データベースを用いたin silico解析結果を合わせ、CXCL12を標的分子候補として解析を進めた。その受容体であるCXCR4のヒト病理における発現解析の結果、GV構造が主に見られるGradeIVの検体においてのみ、GV構造においてCXCR4陽性細胞が確認できた。GradeIVの検体ではGV構造周囲においても、CXCR4陽性細胞がGVに向けて集積する病理像が得られており、CXCL12-CXCR4シグナルがヒト病理においてもGV形成に関与する可能性が示唆された。新たに腫瘍細胞の三次元培養に成功し、その技術基盤を確立した。cRGD付加PEG-イミノチオラン修飾ポリリシンにsiCXCL12を内包し、動物モデルに投与した結果、siCXCL12投与群において壁細胞が強く抑制され、siCXCL12ミセル処置後に投与されるナノ薬剤の腫瘍内分布向上が明らかになった。以上、siCXCL12をナノ担体に内包して腫瘍血管を特異的に抑制し、ナノ薬剤を投与すれば、膠芽腫においても治療効果を示しうることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2015-03-11
更新日
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