腹腔内視鏡に搭載可能な組織吸引MEMSデバイスを用いた低侵襲かつ安全な新規核酸送達法の難治性腎臓・心臓疾患治療への応用

文献情報

文献番号
201308025A
報告書区分
総括
研究課題名
腹腔内視鏡に搭載可能な組織吸引MEMSデバイスを用いた低侵襲かつ安全な新規核酸送達法の難治性腎臓・心臓疾患治療への応用
課題番号
H24-医療機器-若手-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
清水 一憲(大阪大学 基礎工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 川上 茂(長崎大学 医歯薬総合研究科)
  • 木下 秀之(京都大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、吸引圧法を腎・心疾患治療への応用へと展開することである。本年度は、初年度に開発した吸引圧制御システムを用いて、吸引圧法の基本的特性を明らかにした。肝臓に対して、様々な条件で吸引圧法を行い、特に肝障害性について詳細に検討した。さらに吸引デバイスの形状を変えて吸引圧法を行い、吸引圧法では組織変形量が重要であることを明らかにした。また心臓への吸引圧法の最適化を進めた。圧力波形や最少到達圧力の違いによる、核酸導入量の違いを調べた。さらに心疾患モデルマウスの心臓に対して、吸引圧法が適用可能であることを明らかにした。
研究方法
吸引デバイスは三次元プリンターを用いて作製した型を鋳型として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を成型することで作製した。三次元プリンターで作製した型は、PDMSを硬化させるため、その表面に厚さ10 µmのパリレンを蒸着した後に使用した。
肝臓への吸引圧法は次のように行った。マウスに麻酔を行い、開腹し、肝臓を必要最小限露出させた。尾静脈からルシフェラーゼを発現するプラスミドDNAを100 µg含む生理食塩水を200 µl投与し、その直後に、肝臓の標的とする部位に軽くデバイスを接触させ、吸引圧制御システムを作動させた。ただちに閉腹し、6時間経過後、マウスを安楽死させて肝臓を取り出し、標的部位中のルシフェラーゼの発現量をルミノメーターで測定した。
心臓への吸引圧法は次のように行った。麻酔を施したマウスの呼吸を人工呼吸器で管理し、左第4番肋骨と第5番肋骨の間から開胸した。200 µlのプラスミドDNA溶液を尾静脈から投与し、直後に、吸引デバイスを標的部位に接触させ、圧力制御システムを作動させた。
結果と考察
本研究では、初年度に完成させた吸引圧制御システムを用いて、肝臓への吸引圧法を行い、吸引圧法の基礎的な特性を明らかにした。初年度に、最少到達圧力が-5 kPaで十分な導入核酸発現量が得られることが明らかになっていたことから、本年度は同条件での肝障害性に対する検討も進め、-5 kPaでの肝組織吸引は深刻な肝障害性を与えないことをALT値、AST値の測定から明らかにした。また複数の吸引口を持つデバイスを製作し、同様に肝障害性を調べたが、いずれも-5 kPaの最小到達圧力において、深刻な肝障害性を与えなかった。このことから、肝臓への吸引圧法は基本的に安全な手法であると考えられる。
最少到達圧力が導入核酸発現量の違いを生む大きな原因であることは明らかになったが、これが何に起因するのか、明らかになっていなかった。我々は、最少到達圧力が異なると、組織変形量が違うことに注目し実験を進めた。吸引口の面積は同じであるが、吸引口の数が異なるデバイスを作製して、それらを用いて同じ最少到達圧力で吸引圧法を行った。その結果、発現量の変化と組織変形量の変化に相関があることが明らかになった。このように我々は、吸引圧法において、組織変形が重要な因子であることを初めて示した。
またデバイスの硬さや形状を変化させることで、対象臓器に対して最適な吸引デバイスを開発可能なことを明らかにした。本研究では、2種の硬さの違うデバイスを用いたが、さらに硬さの違うデバイスを用いることで、それぞれの臓器に対して最適な硬さのデバイスを開発することができると考えられる。
さらに本研究では、心臓への吸引圧法の最適化ならびに心疾患モデルマウスの治療への展開を進めた。心筋梗塞モデルの心臓への吸引圧法では、梗塞部位を中心に吸引したが、健常マウスの心臓への吸引圧法と同レベルの核酸導入量が得られ、疾患治療応用への可能性が見いだされた。
心臓への吸引圧法の際の臓器特異性を調べたところ、肺でわずかにルシフェラーゼ発現が確認された。左肺での発現量が右肺よりも大きいことから、心臓への吸引圧法を行う際に、意図せず、左肺を変形させてしまっていることが、非特異的な発現の原因であると考えられる。今後、心疾患の治療を考えた際は、心臓特異的に核酸導入するために手技の改良が必要である可能性がある。一方で、これまでに肺に吸引圧法が適用可能であることは報告されておらず、本研究により、吸引圧法の新たな適用可能臓器が見いだされた。
結論
本年度は、マウス肝臓を対象に吸引圧法を行い、吸引圧法の特性を明らかにした。また吸引圧法の安全性を肝臓を対象に調べ、最適条件での吸引圧法は肝組織に深刻な障害を与えないことを明らかにした。また吸引圧法では組織変形が重要因子であることを明らかにした。心臓への吸引圧法の最適化も進め、発現量を最大とする最少到達圧力を見出した(-75 kPa)。さらに心筋梗塞モデルマウルの心臓に対しても吸引圧法が適用可能であることを見出した。

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201308025B
報告書区分
総合
研究課題名
腹腔内視鏡に搭載可能な組織吸引MEMSデバイスを用いた低侵襲かつ安全な新規核酸送達法の難治性腎臓・心臓疾患治療への応用
課題番号
H24-医療機器-若手-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
清水 一憲(大阪大学 基礎工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 川上 茂(長崎大学 医歯薬総合研究科)
  • 木下 秀之(京都大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々はこれまでに、in vivoネイキッド核酸導入法である吸引圧法の開発を行ってきた。本研究では、吸引圧法を腎・心疾患治療へと応用することを目的とした。まず吸引圧制御システムを構築し、吸引圧法の最適化を行った。これにより、肝臓、腎臓、心臓において、安全に効率よく吸引圧法を行うことが可能になった。さらに腎疾患モデル、心疾患モデル動物に対して、吸引圧法が適用可能であることを明らかにした。
研究方法
肝臓、腎臓への吸引圧法:麻酔下のマウスを開腹し、目的の臓器を必要最低限だけ露出させた。尾静脈から100 µgのプラスミドDNAを含む200 μlの生理食塩水を投与した。目的の臓器表面に生体組織吸引デバイスを軽く接触させた後に、吸引圧制御システムを用いて、デバイスに吸引圧を印加し、目的臓器を吸引変形させた。プラスミドDNAとしてCMVプロモーター制御下にルシフェラーゼ遺伝子をもつプラスミドDNAを用いた。臓器を吸引した6時間後にマウスを安楽死させて臓器を取り出し、臓器中のルシフェラーゼ活性を測定した。
心臓への吸引圧法:麻酔を施したマウスの呼吸を人工呼吸器で管理し、左第4番肋骨と第5番肋骨の間から開胸した。200 µlのプラスミドDNA溶液を尾静脈から投与し、直後に、吸引デバイスを標的部位に接触させ、圧力制御システムを作動させた。
結果と考察
本研究ではまず吸引圧法の最適化を行うために吸引圧制御システムを開発した。このシステムでは、吸引圧の大きさや吸引圧の波形を自在に設定、制御することが可能であった。システムはフットスイッチを使って作動するため、作業者は両手を自由に使うことが可能であった。これまでの吸引圧法では、手動で吸引圧を発生させていたため、最小到達圧力の正確な制御や吸引圧波形の制御が出来なかった。これに対して本研究では、吸引圧制御システムを構築することで、最小到達圧力や波形の制御が可能になり、吸引圧法の最適条件を見出すことに成功した。このようなシステムを用いることで、将来的には再現性が良い高精度で安全な吸引圧法を、広範な研究施設や医療機関で実施することが可能になると考えられる。
本研究では、肝臓、腎臓、心臓を対象に、吸引圧法の最適化を進めた。導入核酸発現量に対する最小到達圧力の影響を調べ、肝臓では-5 kPa、腎臓では-30 kPa、心臓では-75 kPaで吸引すると良いことがわかった。
また発現量に対する波形の影響を調べたが、波形への感受性は臓器により異なることがわかった。肝臓では、発現量が圧力供給時間や圧力維持時間によって変化したが、腎臓や心臓では違いが観察されなかった。この違いの原因は明らかではないが、臓器の形や硬さといったマクロな違いや組織内部構造といったミクロな違いがその要因ではないかと考えている。今後、この要因が明らかにすることで吸引圧法のメカニズム解明が進み、疾患治療応用への展開が進むと考えられる。
本研究では、核酸医薬品を用いた腎疾患、心疾患動物の治療を目指したが、腎臓や心臓において核酸医薬品のモデルとして用いたsiRNAにより、遺伝子発現が抑制されなかった。これまでの研究で、肝臓においては外因性、内因性の遺伝子の発現量を、吸引圧法によるsiRNAの送達で達成しており、本研究において、肝臓で効果があったsiRNAと同じ配列のsiRNAを用いたが、標的遺伝子の発現量を抑制することが出来なかった。
本研究では、疾患モデル動物の治療を行うことを優先し、遺伝子治療薬であるプラスミドDNAを用いて疾患モデル動物の治療応用へと研究を展開した。このため、なぜ腎臓、心臓でsiRNAによる遺伝子発現抑制効果が観察されなかったのかは現在のところ不明であり、この点は、今後の検討課題の一つであると考えられる。
結論
本研究では、吸引圧法を用いた腎・心疾患治療の実現を目指して研究を進めた。まず吸引圧制御システムの開発を行い、それを用いて腎臓、心臓に対する吸引圧法の最適化を行った。さらに腎疾患・心疾患モデル動物に対する吸引圧法の適用を行い、吸引圧法による疾患治療実現の可能性を示唆する結果を得るに至った。

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201308025C

成果

専門的・学術的観点からの成果
主にマウスの肝臓、心臓、腎臓を対象に吸引圧による組織変形刺激を利用したネイキッド核酸送達法を開発した。核酸導入に、化合物やウイルスなどを利用しないため、迅速な臨床応用への展開が期待できる。関連学会発表19件や論文発表3件の成果を挙げた。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
導入対象物質の送達装置の作動方法および導入対象物質の送達方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-238885
発明者名: 清水一憲, 小西聡, 川上茂, 橋田充
権利者名: 国立大学法人京都大学, 学校法人立命館
出願年月日: 20101025
国内外の別: 国内
特許の名称
Method for operating a device for delivering a substance to be introduced (字数制限のため以下省略)
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2011/062102
発明者名: 清水一憲, 小西聡, 川上茂, 橋田充
権利者名: 国立大学法人京都大学, 学校法人立命館
国内外の別: 国外
特許の名称
Method for operating a device for delivering a substance to be introduced (字数制限のため以下省略)
詳細情報
分類:
特許番号: 11835898.5
発明者名: 清水一憲, 小西聡, 川上茂, 橋田充
権利者名: 国立大学法人京都大学, 学校法人立命館
出願年月日: 20130521
国内外の別: 欧州
特許の名称
Method for operating a device for delivering a substance to be introduced (字数制限のため以下省略)
詳細情報
分類:
特許番号: 13/881304
発明者名: 清水一憲, 小西聡, 川上茂, 橋田充
権利者名: 国立大学法人京都大学, 学校法人立命館
国内外の別: 米国

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimizu, K., Zhang, G., Kawakami, S., et al.
Liver suction-mediated transfection in mice using a pressure-controlled computer system.
Biological Pharmaceutical Bulletin , 37 (4) , 569-575  (2014)
http://doi.org/10.1248/bpb.b13-00776
原著論文2
Taniguchi, Y., Kawakami, S., Fuchigami, Y., et al.
Optimization of renal transfection using a renal suction-mediated transfection method in mice
Journal of Drug Targeting , 24 (5) , 450-456  (2016)
https://doi.org/10.3109/1061186X.2015.1087526

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
2018-05-24

収支報告書

文献番号
201308025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,025,000円
(2)補助金確定額
12,025,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,777,516円
人件費・謝金 0円
旅費 751,914円
その他 720,570円
間接経費 2,775,000円
合計 12,025,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-