24時間機能可能な携帯型人工膵臓の開発

文献情報

文献番号
201308018A
報告書区分
総括
研究課題名
24時間機能可能な携帯型人工膵臓の開発
課題番号
H25-医療機器-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 昌治(東京大学 生産技術研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 興津 輝(東京大学 生産技術研究所)
  • 高橋 正幸(テルモ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体における血液中のグルコース濃度(血糖値)の恒常性維持の破綻は生命の危機につながるため、インスリン依存状態糖尿病の治療として、安定した血糖値維持を可能とするインスリン製剤の投与方法確立が求められている。携帯型人工膵臓は24時間グルコース濃度を監視し、生体内のグルコース濃度に応じてインスリン投与量を調節するためのシステムである。これにより、無自覚的に糖尿病患者の血糖をコントロールすることが期待される。しかし、グルコース濃度変化やインスリンの吸収時間、運動、睡眠、食事といった様々な要素についての個体差が大きいため、完全な血糖コントロールを実現することは難しい。また、インスリン投与量を決めるための連続グルコース測定器の測定精度も十分ではなく、インスリン投与量の細かな調整は難しい。そこで本研究では、携帯型人工膵臓システムの大きな課題とされる連続グルコース測定システムのセンサ開発について重点的に研究を進め、これをインスリン投与ポンプ、インスリン投与アルゴリズムと組 み合わせたラットでの概念実証を行うことを目的とする。
研究方法
24時間機能可能な携帯型人工膵臓は、①連続してグルコースを測定する技術、②インスリン製剤を投与する技術、③それらを制御するアルゴリズムの3要素から構成される。本年度、連続グルコース測定システムについては、センサ機能の改善と細胞毒性試験による安全性評価、生体内に埋め込んだゲルからの信号の経皮測定を検討するための反射型蛍光検出装置の開発を進めた。インスリン投与システム開発については埋め込み型ポンプの 原理検討を進め、インスリン投与アルゴリズムについては上記連続グルコース測定システム開発とアルゴリズム開発の両面に活かせる動物 実験プラットホームの構築及び血糖コントロール条件についての検討を進めた。
結果と考察
センサの細胞毒性試験の結果、蛍光ゲルの抽出液処理群及び蛍光色素溶解液の相対コロニー形成率について、非処理群及び陰性耐性材料抽出液処理群と同等であり、コロニー形成に対する阻害作用は認められなかった。これらの結果から、本蛍光ゲルセンサに使用する蛍光物質及び蛍光ゲルはほ乳類培養細胞に対して毒性は無いと結論された。市販のLED、PDを用いた測定が可能な無線式の反射型蛍光測定器を構築し、in vitro及びin vivoでの機能実証に成功した。In vivo機能実証では耳へ蛍光ゲルを埋め込んだラットに対して糖負荷試験を行い、蛍光実体顕微鏡と反射型蛍光測定器にて同時測定において、蛍光強度の変動が両方の蛍光強度測定においてはほぼ一致していることが確認できた。次年度以降、本測定器の小型化及び省電力化を進め、長時間の連続測定を実現するとともにラットへの負担軽減を目指す。

インスリン投与モジュールの検討では、1mlを 注入した時のバルーン式タンクの経時的な排出圧力と排出流量の変化について検討した結果、バルーン式タンクのみでは経時的に排出流量と排出圧力が低下していくことが分かった。マイクロ流路の寸法と流量制御特性の関係を調べた結果、断面辺長が短くなるまたは流路長が長くなることで排出流量を一定にでき、断面辺長の変化の方が流路長の変化よりも流量制御に対して支配的に働くことがわかった。マイクロ流路の断面辺 長を短くすることで、より効果的に一定排出流量が実現可能であることが示唆された。さらに、マイクロ流路中にバルブを設けることにより、圧力に関わらず数十μL/minの一定流量での排出を実現した。

ラットの血糖値をクランピン グするため自由行動下のラットにカテーテルを挿管し、グルコース投与と採血を行えるシステムを構築した。本システムを用いた検討により、投与時間が短いほど血糖値のピークが高い傾向が認められた。投与時間が5min以下の場合は血糖値のピークを捉えることが難しかった。一方、30min以上の 投与時間の場合、血糖値は350㎎/dLを 超えず、投与終了後元の血糖値に戻るまで15min要した。グルコース投与時 間が10-15minである場合、血糖値のピーク値は500㎎/dLを超えた。グルコースの投与終了後に血糖値は低下し、元に戻るまで15min以上かかることが確認された。
結論
本年度は携帯型人工膵臓の連続グルコース測定モジュールの開発を中心に、要素技術開発と実験システムの準備を進めた。蛍光ゲルセンサについては細胞毒性での安全性を確認し、安定性を改善できた。また、反射型測定装置を作製し、反射測定検討を進める環境を整えることができた。今後は、同時に検討を進めてきたラットの血糖値制御システムと組み合わせることで、連続グルコース測定モジュールの測定精度についての検討を進めると共にインスリン投与アルゴリズムの概念実証へ向けた実験システムの構築を進めていく。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201308018Z