rasがん遺伝子産物の新規立体構造情報に基づくがん分子標的治療薬の開発

文献情報

文献番号
201307018A
報告書区分
総括
研究課題名
rasがん遺伝子産物の新規立体構造情報に基づくがん分子標的治療薬の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
片岡 徹(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 島 扶美(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 閨 正博(神戸天然物化学株式会社)
  • 熊坂 崇(公益財団法人高輝度光科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
51,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、背景となる研究において独自に発見したRasのポケット構造情報に基づくコンピュータシミュレーションと生化学・細胞生物学的検証試験を駆使した独自の大規模Ras阻害物質探索研究を通じて、担がん動物において強力な腫瘍増殖抑制効果を示し、低毒性かつ経口薬適性に優れたリード化合物の同定に成功した。本研究では、背景となる研究で獲得・保有するリード化合物から医薬品開発候補獲得のための構造最適化を重点的に行う(先行開発)。また、最近決定した新規ポケット構造情報を用いた新たなインシリコスクリーニングと一連の検証試験も行い、本格的前臨床試験に入る候補品を創出する(後行開発)。
研究方法
先行開発では、保有リード化合物(KMR084ならびにその誘導体)に関する特許(WO2012/153775 A1)の実施権許諾契約を提携した国内大手製薬企業との協力型共同研究契約下において、前年度に引き続きフラグメントリンク法を活用したリード化合物の構造展開を実施した。後行開発では、特殊試料マウント法を利用した野生型H-RasのX線結晶解析ならびにNMR解析を通じて、リード化合物の構造最適化の際に検討すべき、Rasのポケットの辺縁構造の運動性に関する解析を行った。また、バックアップリードを創出するためにH24年度の新規スクリーニングで選抜したシード化合物の中から、Kobe0065に構造類似性を示す化合物を選択し、保有シード化合物Kobe0065とともにフラグメントリンク法による構造展開を実施した。
結果と考察
先行開発において、個体レベルでシード化合物KMR084を凌ぐRas機能の阻害活性を示す誘導体K18781の同定に成功した。この誘導体は腫瘍組織においてRas/Rafシグナル伝達系を有意に阻害したが、担がん動物レベルで濃度依存性の抗がん作用の増強が認められなかったことから、吸収・代謝安定性の改善が必要と考えられた。KMR084の部分構造からなるフラグメント化合物など用いたNMR解析を通じて、Rasと化合物との複合体の結晶作成が困難な場合にも、化合物とRasとの相互作用のNMR情報とシミュレーションとを組み合わせることにより、シードならびにリード化合物の効率的な構造展開(構造デザイン)を可能にするシステム基盤を構築した。後行開発において、フラグメントリンク法によるKobe0065の構造展開を実施したが、Kobe0065を上回る活性を示す誘導体の創出には至らなかった。活性改善に至らなかった理由の一つとして、薬剤結合ポケット構造の運動性に由来する誘導体の安定結合の阻害が考えられた。この結果を踏まえ、今後の構造展開においては、ポケットの運動性をも加味した構造展開を進めることが望ましいと判断された。一方、保有シード化合物Kobe0065には、個体レベルで腫瘍増殖抑制作用のみならず、市販薬sorafenibには認められない抗がん作用としてがん転移抑制作用が確認され、Lysyl Oxidaseの発現抑制を介する化合物のがん転移抑制の分子メカニズムの一端が明らかになった。
Kobe0065とその誘導体に関する研究成果の米国科学アカデミー紀要への掲載(2013 Proc.Natl.Acad. Sci. USA. 110, 8182)ならびにNature Reviews Cancerでの同研究成果のハイライト(2013 Nature Reviews Cancer 13, 381)の公開に伴い、著書などの執筆、招待講演(学会発表の項参照)などの依頼を国内外から多数受ける結果となった。
結論
リードならびにシード化合物の構造展開・最適化を加速するために、現在のX線結晶解析ならびにNMR解析システムをさらに進化・改良させ、Rasと化合物との複合体のより高精度の立体構造情報を収集する。得られた複合体の立体構造情報に基づき、Rasの薬剤結合ポケットの構造ダイナミクスをも考慮した誘導体の構造展開を推進する。また、がんの転移は患者の生命予後を大きく作用する主要要素であり、その分子メカニズムの解明は、抗がん剤開発上極めて重要な課題である。よって本研究開発を通じて、Rasを介するがん転移の分子メカニズムの詳細が解明されれば、Ras阻害剤の新たな用途が切り開かれる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201307018Z