癌に対する新たなコンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス療法開発のための前臨床研究 

文献情報

文献番号
201307017A
報告書区分
総括
研究課題名
癌に対する新たなコンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス療法開発のための前臨床研究 
課題番号
H23-政策探索-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
谷 憲三朗 (九州大学 生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腫瘍溶解性ウイルス療法は難治性悪性腫瘍に対する新たな治療法として近年注目されている。しかし、現行の腫瘍溶解性ウイルス療法では接種後にウイルス排除免疫が誘導され、長期的な抗腫瘍効果は期待できにくく、新規技術の導入が必要と考えられる。我々が開発したMV-NPL株(以後、NPLと略)は、インターフェロン抵抗性獲得により担腎癌免疫不全マウスに対する著明な抗腫瘍効果を認め、新規腫瘍溶解ウイルス療法剤としての可能性が期待できる。一方、コンドロイチン硫酸(CS)ポリマー法は研究分担者の濱田らが開発した、アデノウイルスに対する中和抗体による感染抑制を解除する新規人工エンベロープ加工技術であり、担卵巣癌マウスにおいて顕著な抗腫瘍効果を示した。本研究ではこれら2新規技術を組み合わせ、長期的抗腫瘍効果がさらに期待でき、全身投与も可能なコンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス(CS-MV)療法を開発し、その第I相臨床研究実施を目指す。
研究方法
(1)PEI及びCSの順次付加によるCS-MVを作製時の電荷変移は、順次ゼータサイザーを用いて確認した。本ウイルス製剤の正常免疫マウスにおけるin vivo抗腫瘍効果と抗麻疹中和抗体に対する抵抗性を検討するために必要となるヒトCD46発現マウス肺癌細胞株(LL/2-CD46)を樹立した。(2)抗麻疹ウイルス中和抗体存在下におけるin vitro癌細胞生存率を比較検証した。(3)CS−MV及びNPL腫瘍内投与による担ヒト癌免疫不全マウスモデルにおけるin vivo抗腫瘍効果の比較検討を行った。(4)野生型マウスモデル(抗麻疹ウイルス中和抗体存在)での抗腫瘍効果の比較検討を行った。(5)抗腫瘍免疫誘導(補体依存性細胞障害;CDC)の確認は、CDC assay法を用いて行った。(6)ポリマー加工腫瘍溶解アデノウイルス系での中和抗体解除法の基礎的検討を行った。
結果と考察
(1)ヒトCD46発現マウス細胞株(LL/2-CD46)はヒト癌細胞株と同様にNPL感染に対する高い腫瘍溶解感受性を示した。NPL液にPEI液を添加することで、複合体表面電荷はプラスへ、さらにCS液を添加することで再びマイナスへと移行することを確認した。CS-MV及びNPLは、抗麻疹ウイルス中和抗体非存在下において、ともに各種ヒト癌細胞株(HEp2、A549、WiDr、MDA-MB-231)に対してMOI依存性に著明な殺細胞効果を示した。この際、CS-MVはNPLより有意に高い殺細胞効果を示した。(2)抗麻疹ウイルス中和抗体存在下において、NPL、CS−MVともに非存在下と比較し殺細胞効果の減弱を認めた。NPL及びCS-MVの比較検討では後者が各種ヒト癌細胞株に対し有意に高い殺細胞効果を示した。LL/2-CD46細胞に対しては、NPL、CS-MVともにMOI依存性の殺細胞効果を示した。加えて、CS-MV液添加後のヒト癌細胞株、LL/2-CD46細胞が感染後に特徴的(広大)な多核巨細胞形成を示したことから、ポリマー加工により多核巨細胞形成あるいはウイルスの周囲細胞播種の促進によりNPLの腫瘍溶解性が高まることが示唆された。(3)HEp2細胞を用いた担ヒト癌皮下結節モデルでは、NPL、CS-MVともにコントロールと比較して著明な腫瘍増殖抑制効果が確認された。A549細胞、WiDr細胞を用いたモデルにおいては、NPL、CS-MV投与マウス群では、著明かつ有意な腫瘍増殖抑制効果を示した。(4)抗麻疹ウイルス中和抗体産生を誘導後の野生型マウスにLL/2-CD46細胞を皮下接種して得られた腫瘍に対して、CS-MVはコントロール、NPLに比較して有意に腫瘍増殖を抑制し、明らかな生存期間延長効果を示した。(5)CDC アッセイの結果、CS−MV投与マウス群は有意なCDC活性誘導を示した。また、CDC活性と腫瘍サイズ及び生存期間に有意な相関関係が確認された。(6)ポリマー加工腫瘍溶解性アデノウイルス系での中和抗体解除法の基礎的検討の結果、CS 量の減量とPEI との等量追加により凝集発生を防ぐことができ、薄層の多重加工が可能となった。また一定時間のミキシングにて、良好な中和抗体存在下における感染性と、走査型電子顕微鏡観察下での凝集が抑制できることが明らかとなった。
結論
コンドロイチン硫酸ポリマー修飾腫瘍溶解性麻疹ウイルス(CS-MV)は、非ポリマー加工ウイルス(NPL)より高いin vitro及びin vivo抗腫瘍効果を有すること、抗麻疹ウイルス中和抗体による抗腫瘍効果の減弱を回避すること、2次的な抗腫瘍免疫応答を誘導することを明らかにした。また、CS-MV製剤を用いた大動物実験として、サルを用いた毒性評価試験に着手した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201307017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
36,400,000円
(2)補助金確定額
36,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 19,530,052円
人件費・謝金 6,677,317円
旅費 1,548,020円
その他 244,611円
間接経費 8,400,000円
合計 36,400,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
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