文献情報
文献番号
201307016A
報告書区分
総括
研究課題名
アポC3をターゲットとした高中性脂肪血症、動脈硬化症に対する革新的核酸医薬の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
斯波 真理子(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態代謝部)
研究分担者(所属機関)
- 小比賀 聡(大阪大学 薬学部)
- 柴田 雅朗(大阪保健医療大学 保健医療学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国の死因の4分の1は心および脳血管疾患で占められており、これらの疾患の予防法や治療法を開発することは超高齢化社会における喫緊の課題である。強力なLDL-C低下作用を有するスタチンが臨床の場で使用される現在、心血管疾患の残りのリスクである食後高TG血症などのリスクに対して、分子を標的とした特異的な治療法の開発が待望されている。アポC3は、RLPの代謝に関わり血清TG値上昇作用を有すること、さらに最近では血管壁において慢性炎症を引き起こし、動脈硬化の発症や進展に直接関わっていることが明らかにされてきた。アポC3欠損患者において低TG血症、冠動脈硬化の頻度が低いことが明らかにされ、アポC3が標的遺伝子として安全で適切であることは既に示されている。本研究で用いる架橋型人工核酸(BNA)は、分担研究者の小比賀らのオリジナルな創薬基盤技術である。核酸の糖部分に架橋を導入することにより、RNAとの結合が天然のものの十万倍以上に向上することから治療への応用が期待されている。アポC3の発現抑制により、動脈硬化症の予防や治療が可能であると考えられるが、現在のところそのような薬剤はない。そこで本研究では、高TG血症および動脈硬化発症のキーとなるアポC3分子を標的として、動脈硬化症の予防および治療を目的とした新しいアンチセンス医薬(ASO)を開発することを狙いとする。
研究方法
本年度は、2’,4’-BNA NCを搭載した14塩基長ASOを34種設計、合成し、マウス初代培養肝細胞を用いてin vitroスクリーニングを行った。in vitroで高い活性を示すアンチセンスについて、マウスを用いて尾静脈注射を行い、肝臓でのmRNAを定量してin vivoでの効果の評価を行った。また、コレステロール修飾型アンチセンス(Chol-ASO)を作成し、非修飾型(ASO)とのin vivo機能評価を行うとともに、それぞれのASOに蛍光標識し、in vivoイメージングを行い、さらに蛍光顕微鏡を用いて細胞内局在について検討した。マウスにおける動脈硬化症の評価を行うために、超音波、MRIを用いてイメージングを行い、病理組織所見との比較検討を行った。
結果と考察
本年度は、2’,4’-BNA NC搭載型ASを34種作製してスクリーニングしたところ、昨年度の2’,4’-BNAを用いた陽性コントロールの効果を上回る高活性化合物がいくつか見出された。より高い活性を示したAS分子のmRNAにおける標的位置は、2’,4’-BNA搭載型アンチセンスの標的サイトと酷似していた。mApoC3-436-NC(14)についてはin vivoにおいて約20%の有意な減少を確認した。コレステロール修飾のASO効果を調べるため、chol-ASOおよびASOをCy3蛍光標識して単回投与したところ、chol-ASO投与群はASO投与群と比較し、肝臓において明らかに強い蛍光を認めた。ASにCholを修飾することにより、期待通りに肝臓への移行性を向上させることが確認された。Chol修飾によるin vivo機能への効果を調べるため、chol-ASO を単回投与しASOと比較したところ、肝臓中apoC-III mRNAの量はASOが約6割の低下が認められたのに対し、chol-ASOは2割弱の低下のみであり、遺伝子発現抑制効果を減弱する結果となった。蛍光標識ASO投与後の肝臓組織の蛍光顕微鏡での観察により、chol-ASOは肝実質細胞の間隙に存在する肝臓内マクロファージであるクッパー細胞へと特異的に取込まれている像が得られた。非修飾型にも同様の傾向が認められたが、肝実質細胞内においてもASは多く認められた。動脈硬化症に対する薬効評価法の確立のため、本年度は動脈硬化モデルマウスのイメージングを行った。Gadofluorine Mを用いて、MRI T1WI強調画像により高輝度に動脈硬化性病変が描出された。超音波断層法によりApoE-KOマウスの大動脈弓に高輝度な隆起像が観察され、大動脈弓横断像にて径狭窄率は20±11%であった。また、動脈起始部より上行大動脈に血管壁肥厚像がみられ、ApoE-KOマウスの動脈弁、大動脈起始部、上行大動脈および腕頭動脈の位置でのIMT値は、Wild typeより有意に高値であった。
結論
2’,4’-BNANC搭載型アンチセンスのin vitroおよびin vivoスクリーニングを行い、有効配列を選択した。ASにコレステロール修飾を行うことにより、肝臓への取り込みは上昇するが、クッパー細胞への取り込みが増加するため、AS効果はかえって減弱する結果であった。ASの動脈硬化への効果を評価するため、動脈硬化モデルマウスを用いて、動脈硬化のMRIおよび超音波によるイメージングに成功した。
公開日・更新日
公開日
2015-03-03
更新日
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