肺がんの分子診断法および分子標的治療法の開発

文献情報

文献番号
201307013A
報告書区分
総括
研究課題名
肺がんの分子診断法および分子標的治療法の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行 (東京大学 大学院医学系研究科細胞情報学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 仁木 利郎(自治医科大学 医学部統合病理学部門)
  • 中田 昌男(川崎医科大学 呼吸器外科学)
  • 池田 徳彦(東京医科大学 呼吸器外科・甲状腺外科)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院医学系研究科分子病理学分野)
  • 竹内 賢吾(がん研究会がん研究所 分子標的病理プロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
51,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺がんは我が国及び欧米先進国におけるがん死数の第一位を占める予後不良の疾患であり、旧来の抗がん剤による化学療法で延命効果が証明された治療剤は少ない。我々は肺がんにおける主要原因遺伝子を同定する目的で、独自に組換えレトロウィルスを用いた臨床検体のがん遺伝子スクリーニング法を開発した。本法を用いて喫煙歴を有する62才男性肺腺がん患者外科切除検体よりcDNA発現レトロウィルスライブラリーを構築し、マウス3T3細胞を用いて形質転換フォーカスのスクリーニングを行った結果、新規がん遺伝子EML4-ALKを発見することに成功した(Nature 448:561)。EML4-ALKは肺がんの全く新しい治療標的であり、現在既に6社を超える製薬会社のALK阻害剤が世界で臨床試験に入っている。なかでも最初に第I相臨床試験を開始したALK阻害剤crizotinibについては、すでにその第I/II相試験の成果公表されたが、単剤投与によって約9割が部分寛解あるいは完全寛解となるという驚くべき治療効果であった(NEJM 363:1693)。またこれを受けて2011年8月には米国においてcrizotinibが治療薬剤としての承認を受け、既に販売・使用されて、我が国においても2012年に承認・保険収載されたところである。今後ALK阻害剤が急速に臨床応用されると予想され、そのような中にあって臨床上最大の課題は薬剤耐性機構の解明とその克服である。本研究計画ではEML4-ALKの下流分子の探索と、実際の臨床検体のゲノム解析を通してその解明を目指した。
研究方法
EML4-ALKの下流に働く分子を解明するために、高感度phosphoproteomics解析を行った。3T3線維芽細胞に野生型ALK、EML4-ALK、EML4-ALK(kinase-dead)を安定導入し、それぞれの細胞においてリン酸化されるタンパクを検証したところ、EML4-ALKによって特異的にチロシンリン酸化されるタンパクを同定した。その一つについてshRNAによるノックダウン実験を行った。またこれまで収集したEML4-ALK陽性検体のなかで、ALK阻害剤であるcrizotinibに感受性期と、同じ症例の耐性期の検体ペアを合計で6ペア採取した。これらを用いて全エクソンの配列を次世代シークエンサーで解析し、耐性期にのみ出現するアミノ酸置換を同定した。
結果と考察
EML4-ALKによって特異的にリン酸化される分子の中で、チロシンリン酸化される事が知られているアダプター分子があった。この分子のリン酸化部位を決定するために、チロシンをフェニルアラニンに置換したYF変異体をそれぞれのチロシンについて作成し、EML4-ALKによるリン酸化を調べた。その結果、3種類のチロシン残基が標的である事が明らかになった。さらにこのアダプター分子に対するshRNAを導入し、発現を下げた際の細胞増殖について検討したところ、shRNAの導入によって細胞死が誘導されることが判った。したがって本アダプター分子はEML4-ALK陽性細胞の増殖に必須なものである事が明らかになった。感受性期および耐性期のペア検体についてそのゲノムDNAを抽出し、SureSelectシステム(Agilent社)を用いてエクソン領域を純化した。それを次世代シークエンサーによって解析したところ、各検体で6~7億リードの配列情報が得られ、塩基量としては60~70Gbpが検体毎に得られた。また全エクソンの88%程がカバーされていることが判った。塩基変異は~50 mutations/Mbpであり感受性期と耐性期で変異の総数に違いは無かった。アミノ酸を変える変異の数は感受性期~6個、耐性期~20個と有意に耐性期に多く認められた。
結論
EML4-ALKの下流分子の一つが明らかになり、しかも増殖に必須であることが示された。この分子の耐性期検体における発現量および変異の有無について検討する予定である。また感受性期と耐性期とのゲノムワイドな比較の結果、同一の変異が複数例で見つかるのは驚きであった。現在本変異を含む耐性期特異的変異群の機能解析を行っており、その役割を明らかにする予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201307013Z