糖尿病の新規バイオマーカーに基づく診断法と蛋白質構造解析に立脚した新規治療法の開発 

文献情報

文献番号
201307012A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病の新規バイオマーカーに基づく診断法と蛋白質構造解析に立脚した新規治療法の開発 
課題番号
H23-バイオ-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
  • 原 一雄(東京大学医学部附属病院統合的分子代謝疾患科学講座)
  • 庄嶋 伸浩(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 窪田 直人(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 脇 裕典(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 高本 偉碩(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 横山 茂之(独立行政法人理化学研究所 横山構造生物学研究室)
  • 白水 美香子(独立行政法人理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
原一雄(東京大学医学部附属病院統合的分子代謝疾患科学講座)が平成26年8月15日をもって退職したため,平成26年8月16日より庄嶋伸浩(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)へ研究者を交代した.

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人2型糖尿病感受性遺伝子としてTCF7L2, KCNQ1などが同定されたが、これら2型糖尿病感受性遺伝子の発現や機能の低下・亢進のいずれが糖尿病発症の原因となるのかほとんど解明されていない.本研究では,①テーラーメード医療の実用化に向けた2型糖尿病感受性遺伝子の発現・機能異常の解明と新規バイオマーカーに基づく診断法の開発,②2型糖尿病感受性遺伝子がコードする蛋白質の構造解析に立脚した創薬シーズの探索と新規治療法の開発を目指す.
研究方法
2型糖尿病感受性遺伝子に着目し,(A)ヒト組織を活用したトランスクリプトーム解析・エピゲノム解析,(B)遺伝子操作動物を用いた機能解析,(C)蛋白質の結晶構造解析に向けた基盤整備を実施した.
結果と考察
(A) 皮下脂肪と内臓脂肪における遺伝子発現についてメチル化の解析を行ったところプロファイルが異なっていた.また,アディポネクチンのプロモーター部位では,内臓脂肪においてメチル化亢進が認められた.これに一致してアディポネクチンは,内臓脂肪で皮下脂肪に比べて発現が低かった.また,FAIRE-seq技術を用いたエピゲノム解析では,脂肪組織全体を用いてオープンクロマチン領域を同定する手法を確立し,これまで褐色脂肪細胞でその機能が知られていない新規転写因子の結合モチーフが褐色脂肪組織特異的オープンクロマチン領域に濃縮していたことを見出した.
(B) 2型糖尿病感受性遺伝子操作動物の作製・解析では,KCNQ1の機能低下型遺伝子操作マウスを解析したところ,本マウスは明らかな耐糖能異常を示さないことを見出した.昨年度までの研究結果と考え合わせると,膵β細胞においてはKCNQ1の機能亢進がインスリン分泌低下をもたらす可能性が示唆された.
(C) 無細胞合成系で調製したKCNQ1/KCNE(αβ)複合体を用いて結晶化スクリーニングを行い,結晶化条件下での阻害剤による安定化効果を見出した.また,マイクロデバイスを用いた脂質二重膜中で,無細胞合成KCNQ1が実際にK+チャンネル活性を有することが確認された.さらにcrystal contactを促進する目的で作成した複数種の可溶性タンパク質とβサブユニットとの融合タンパク質を作成し,αサブユニットとの共発現とαサブユニットの精製タグを利用した共精製を行ったところ,αサブユニットとの結合能を保持していることと結晶化に適した性状であることを明らかにした.
結論
今後とも多面的な研究アプローチを有機的に推進することで,糖尿病の新規バイオマーカーに基づく診断法と蛋白質構造解析に立脚した新規治療法の開発を目指す.

公開日・更新日

公開日
2018-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201307012B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病の新規バイオマーカーに基づく診断法と蛋白質構造解析に立脚した新規治療法の開発 
課題番号
H23-バイオ-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
  • 原 一雄(東京大学医学部附属病院統合的分子代謝疾患科学講座)
  • 庄嶋 伸浩(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 窪田 直人(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 脇 裕典(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 高本 偉碩(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
  • 横山 茂之(独立行政法人理化学研究所 横山構造生物学研究室)
  • 白水 美香子(独立行政法人理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
原一雄(東京大学医学部附属病院統合的分子代謝疾患科学講座)が平成26年8月15日をもって退職したため,平成26年8月16日より庄嶋伸浩(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)へ研究者を交代した.

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人2型糖尿病感受性遺伝子としてTCF7L2, KCNQ1などが同定されたが、これら2型糖尿病感受性遺伝子の発現や機能の低下・亢進のいずれが糖尿病発症の原因となるのかほとんど解明されていない.本研究では,(i)テーラーメード医療の実用化に向けた2型糖尿病感受性遺伝子の発現・機能異常の解明と新規バイオマーカーに基づく診断法の開発,(ii)2型糖尿病感受性遺伝子がコードする蛋白質の構造解析に立脚した創薬シーズの探索と新規治療法の開発を目指す.
研究方法
2型糖尿病感受性遺伝子に着目し,(A)ヒト組織を活用したトランスクリプトーム解析・エピゲノム解析,(B)遺伝子操作動物を用いた機能解析,(C)蛋白質の結晶構造解析に向けた基盤整備を実施した.
結果と考察
(A) ヒトの皮下脂肪と内臓脂肪をトランスクリプトーム解析で比較すると,主成分分析にて両者は明確に分離された.2型糖尿病全ゲノム解析の結果と照らしあわせると,皮下脂肪と内臓脂肪で発現に差がある疾患感受性遺伝子CTBP1を見出した.また,皮下脂肪と内臓脂肪における遺伝子発現についてメチル化の解析を行ったところプロファイルが異なっていた.特に,アディポネクチンのプロモーター部位では,内臓脂肪においてメチル化亢進が認められた.これに一致してアディポネクチンは,内臓脂肪で皮下脂肪に比べて発現が低かった.また,FAIRE-seq技術を用いた脂肪細胞のエピゲノム解析を行い,脂肪細胞に特異的な転写制御領域をゲノムワイドに同定した.その結果,新たな脂肪細胞分化制御因子としてNFIファミリーを同定してその機能を明らかにした.さらに,FAIRE-seq技術を脂肪組織全体に用いてオープンクロマチン領域を同定する手法を確立し,これまで褐色脂肪細胞でその機能が知られていない新規転写因子の結合モチーフが褐色脂肪組織特異的オープンクロマチン領域に濃縮していたことを見出した.

(B) 2型糖尿病感受性遺伝子操作動物の作製・解析では,まずTCF7L2に着目して,TCF7L2の機能低下型遺伝子操作マウスを作製・解析した.その結果,TCF7L2は膵β細胞量の制御を通じてインスリン分泌に重要な役割を果たしていることを明らかにした.次に,KCNQ1に着目して,KCNQ1の遺伝子操作マウスを作製・解析した.その結果,膵β細胞においてKCNQ1は機能を亢進させた場合に耐糖能異常をきたすことと,KCNQ1の機能低下型遺伝子操作マウスは明らかな耐糖能異常を示さないことを見出した.従って,膵β細胞においてはKCNQ1の機能亢進がインスリン分泌低下をもたらす可能性が示唆され,膵β細胞特異的なKCNQ1チャネル阻害薬が,新たな糖尿病治療薬の開発のターゲットとなることが期待される.

(C) 大腸菌無細胞蛋白質合成系を利用してKCNQ1/KCNE蛋白質を大量に共発現させ,穏和な界面活性剤での可溶化・精製作業を進めた.KCNQ1のC端細胞内ドメイン欠損コンストラクトの活用や,添加する脂質種の検討から,良好な蛋白質発現・精製条件を見出した.無細胞合成系で調製したKCNQ1/KCNE(αβ)複合体を用いて結晶化スクリーニングを行い,結晶化条件下での阻害剤による安定化効果を見出した.また,マイクロデバイスを用いた脂質二重膜中で,無細胞合成KCNQ1はチャネル分子としての電流が観測され,KCNQ1阻害剤であるchromanol 293Bの添加により消失したことから,無細胞合成KCNQ1が実際にK+チャンネル活性を有することが確認できた.さらに,KCNQ1チャネル分子複合体は,膜貫通領域に対して細胞外側の可溶性領域が比較的小さいことから,crystal contactを促進する目的で作成した複数種の可溶性タンパク質とβサブユニットとの融合タンパク質を作成し,αサブユニットとの共発現とαサブユニットの精製タグを利用した共精製を行ったところ,αサブユニットとの結合能を保持していることと結晶化に適した性状であることを明らかにした.
結論
今後とも多面的な研究アプローチを有機的に推進することで,糖尿病の新規バイオマーカーに基づく診断法と蛋白質構造解析に立脚した新規治療法の開発を目指す.

公開日・更新日

公開日
2018-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201307012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
トランスクリプトーム/エピゲノム解析から,ヒトの内臓脂肪と皮下脂肪の差異を解明し、関連する新規遺伝子・メチル化の変化を見出すとともに,脂肪組織のオープンクロマチン領域の同定に成功し新規転写因子を発見した.遺伝子操作動物を用いた機能解析から,膵β細胞ではKCNQ1の機能亢進がインスリン分泌低下・糖尿病をきたすことを見出し,新規糖尿病治療薬の候補に膵β細胞特異的なKCNQ1チャネル阻害薬が考えられ,KCNQ1チャネル蛋白質の結晶構造解析に向けて大腸菌無細胞蛋白質合成系を利用し高純度の標品を得た.
臨床的観点からの成果
KCNQ1は人口寄与危険度からわが国の2型糖尿病の遺伝素因の10数%を説明するのみならず,致死性不整脈をきたすLong QT症候群等の他領域の難治性疾患にも幅広く関与し,創薬ターゲット分子として注目されているが,未だその結晶構造は不明である.本研究の成果を足掛かりとして,今後KCNQ1チャネルの結晶構造が完全に解明されることで,幅広い疾患領域での構造解析に立脚した新規治療薬の創薬シーズの探索に貢献することが予想される.
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
75件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-28

収支報告書

文献番号
201307012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
39,000,000円
(2)補助金確定額
39,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,622,149円
人件費・謝金 3,780,719円
旅費 309,950円
その他 12,326,639円
間接経費 9,000,000円
合計 39,039,457円

備考

備考
自己資金39457円

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-