日本人糖尿病家族歴濃厚家系の全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンスを併用した糖尿病関連遺伝子の同定

文献情報

文献番号
201307009A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人糖尿病家族歴濃厚家系の全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンスを併用した糖尿病関連遺伝子の同定
課題番号
H23-バイオ-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
稲垣 暢也(京都大学 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 長嶋 一昭(京都大学 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学)
  • 小泉 昭夫(京都大学 医学研究科 環境衛生学)
  • 松田 文彦(京都大学 医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 池田 弘毅(正名会池田病院)
  • 岡本 元純(大津赤十字病院)
  • 矢野 秀樹(彦根市立病院)
  • 水野 展寿(滋賀県立成人病センター)
  • 安田 浩一朗(大阪府済生会野江病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
・研究科名が「糖尿病・栄養内科学」から「糖尿病・内分泌・栄養内科学」に変更(平成25年10月1日~) ・池田正毅から池田弘毅に研究分担者変更(平成25年11月~)。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、日本人糖尿病家族歴濃厚家系を集積し、全ゲノム連鎖解析およびハプロタイプ解析による糖尿病発症原因遺伝子存在領域の絞り込み、全エクソンシークエンス併用による領域内エクソン変異の網羅的検出、さらには日本人コホートを用いた検証解析等により、日本人における新規糖尿病発症原因遺伝子の同定を目的とする。
研究方法
本研究の糖尿病発症原因遺伝子探索基盤となる膵島関連自己抗体陰性かつ3世代以上にわたり糖尿病患者を有する日本人糖尿病家族歴濃厚家系の集積を継続した。患者および親族末梢血由来DNAを用いて全ゲノム連鎖解析およびハプロタイプ解析を行ない候補領域に存在する遺伝子を同定するとともに、全ゲノム連鎖解析終了し有意連鎖領域認めた家系に関して、発端者から全エクソンシークエンスおよびマッピングし変異解析を行った。連鎖領域に含まれる塩基配列変化のうち、アミノ酸置換を起こす変異でありdbSNP131に未登録のものを候補変異として選択し、選択された変異はキャピラリシークエンサーにて再確認の後、家系内で罹患者のみにみられ非罹患者にはみられない変異を絞りこんだ。絞り込まれた候補遺伝子変異に関する家系内segregationの確認、患者臨床所見や既報データ等と比較・検討、日本人コホートを用いた遺伝子変異頻度検証等により、糖尿病発症原因遺伝子としての妥当性を評価し、糖尿病発症原因候補遺伝子を絞り込んだ。さらには糖尿病多発家系内糖尿病罹患者と非罹患者による全エクソンシークエンスより変異を抽出し、家系内segregationの確認、絞り込まれた糖尿病発症原因遺伝子に関して日本人コホートを用いた変異頻度の検証等により糖尿病発症原因遺伝子変異候補を検索した。本研究は京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院 医の倫理委員会承認のもと実施した。
結果と考察
本年度は、これまでに集積された糖尿病家族歴濃厚家系糖尿病多発家系70家系のうち大家系である3家系を解析対象とした。1家系については全ゲノム連鎖解析と全エクソンシークエンスを併用し、罹患者のみに集積するエクソン内塩基配列変化7個を絞り込んだ。絞り込んだ塩基配列変化につき日本人コホートデータの一般健常対照者と糖尿病患者にてタイピングし、糖尿病患者において有意に多発する変異が1個(EEA1遺伝子のN1072K変異)見いだされ、同変異が糖尿病多発家系において発症感受性遺伝子である可能性が示唆された。別の1家系については罹患者5名および非罹患者1名につき全エクソンシークエンスを行い、家系内糖尿病罹患者のみに集積するエクソン内塩基配列変化7個につき我々が整備・管理に参画している日本人コホートを用いて検討した。結果、一般健常対照者に比して糖尿病多発家系発端者に有意に多発し、タンパク質機能に変化を与える可能性が示唆される1変異が存在し(論文準備中)、発症感受性遺伝子候補と考えられた。さらに1型糖尿病多発家系につき計6名に関して全エクソンシークエンスを行い糖尿病発症原因遺伝子絞り込みを進めている。
結論
糖尿病発症原因候補遺伝子検索のため糖尿病家族歴濃厚家系を集積し解析を行った。全エクソン連鎖解析と全エクソンシークエンス併用による絞り込み手法だけでなく、家系内の特徴的な糖尿病罹患者および非罹患者を複数名選定し全員の全エクソンシークエンスを行う手法によっても糖尿病発症原因遺伝子変異候補が少数にまで絞り込める可能性が示唆された。今後も多数集積した家族歴濃厚家系検体を用いて糖尿病発症原因遺伝子の絞り込みを進めていく予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201307009B
報告書区分
総合
研究課題名
日本人糖尿病家族歴濃厚家系の全ゲノム連鎖解析および全エクソンシークエンスを併用した糖尿病関連遺伝子の同定
課題番号
H23-バイオ-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
稲垣 暢也(京都大学 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 長嶋 一昭(京都大学 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学)
  • 小泉 昭夫(京都大学 医学研究科 環境衛生学)
  • 松田 文彦(京都大学 医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 池田 弘毅(正名会池田病院)
  • 岡本 元純(大津赤十字病院)
  • 矢野 秀樹(彦根市立病院)
  • 水野 展寿(滋賀県立成人病センター)
  • 安田 浩一朗(大阪府済生会野江病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
・「糖尿病・栄養内科学」から「糖尿病・内分泌・栄養内科学」に研究科名変更(平成25年10月1日~)。 ・池田正毅から池田弘毅に研究分担者変更(平成25年11月~)。

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病の激増は深刻な社会問題であり発症予防・合併症進展抑制は喫緊の緊急課題である。糖尿病発症には遺伝素因および環境要因が深く関与する。遺伝素因解明のため、候補遺伝子アプローチ、連鎖解析および全ゲノム関連解析(GWAS)など多くの手法が試みられてきた。しかしながら原因遺伝子同定や得られた知見が診断・治療にまで貢献するに至った例は少なく、多くの糖尿病発症原因遺伝子は未同定のままである。本研究は、より効率的な糖尿病発症原因候補遺伝子絞込のため、糖尿病多発家系の集積と全ゲノム連鎖解析に加え、全エクソンシークエンスを併用し、変異を同定後、対照群での変異頻度検証等からcommon variantとmutationを選別し、上記連鎖解析結果と照合し、日本人における糖尿病発症原因遺伝子の絞り込みと同定を目的とする。
研究方法
糖尿病発症原因遺伝子検索に利する遺伝的背景濃縮のため膵島関連自己抗体陰性かつ3世代以上にわたる糖尿病患者を有する糖尿病家族歴濃厚家系を多数集積した。患者および親族の末梢血由来DNAを用いて全ゲノム連鎖解析およびハプロタイプ解析を行ない候補領域に存在する遺伝子を同定するとともに、全ゲノム連鎖解析にて有意連鎖領域を認めた家系に関して、発端者から全エクソンシークエンスおよびマッピングを行い変異解析を行った。連鎖領域に含まれる塩基配列変化のうち、アミノ酸置換を起こす変異でありdbSNP131に未登録のものを候補変異として選択し、選択された変異はキャピラリシークエンサーにて再確認の後、家系内で糖尿病罹患者のみにみられ非罹患者にはみられない変異を絞りこんだ。絞り込まれた候補遺伝子変異に関する家系内segregationの確認、患者臨床所見や既報データ等との比較・検討、日本人コホートを用いた遺伝子変異頻度検証等により、糖尿病発症原因遺伝子としての妥当性を評価し、糖尿病発症原因候補遺伝子を絞り込んだ。さらには糖尿病多発家系内糖尿病罹患者と非罹患者による全エクソンシークエンスより変異を抽出し、家系内segregationの確認、絞り込まれた糖尿病発症原因遺伝子に関して日本人コホートを用いた変異頻度の検証等により糖尿病発症原因遺伝子変異候補を検索した。本研究は京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院 医の倫理委員会承認のもと実施している。
結果と考察
継続的に家系集積を進めてきており、現時点で、膵島関連自己抗体陰性かつ3世代以上にわたる糖尿病患者を有する糖尿病家族歴濃厚家系70家系、268名のゲノムDNAを集積し、15家系について検体採取者全員で約10cM間隔の全ゲノムタイピングを完了した。一般人口での検証頻度解析等の基盤となる複数の日本人コホート(秋田県能代市コホート約3,500人、岐阜県高山コホート約970人、ながはま0次予防コホート事業約11,000人)整備に参画した。これまでに集積された糖尿病家族歴濃厚家系糖尿病多発家系70家系を用いて、全ゲノム連鎖解析と全エクソンシークエンス併用、あるいは家系内の特徴的な糖尿病罹患者および非罹患者を複数名選定し全員の全エクソンシークエンスを行う手法により、糖尿病患者において有意に多発する変異がEEA1遺伝子のN1072K変異を絞り込み、同変異が糖尿病多発家系において発症感受性遺伝子である可能性を示した。糖尿病多発家系での糖尿病罹患者5名および非罹患者1名につき全エクソンシークエンスを行い、家系内糖尿病罹患者のみに集積するエクソン内塩基配列変化7個見いだし日本人コホートを用いた検証により、一般健常対照者に比して糖尿病多発家系発端者に有意に多発し、タンパク質機能に変化を与える可能性が示唆される1変異が存在し(論文準備中)、発症原因候補遺伝子であると考えられた。また1型糖尿病多発家系で計6名に関して全エクソンシークエンスを行い糖尿病発症原因遺伝子絞り込みを進めている。
結論
膵島関連自己抗体陰性かつ3世代以上にわたる糖尿病患者を有する糖尿病家族歴濃厚家系70家系、268名のゲノムDNAを集積し、15家系について検体採取者全員で約10cM間隔の全ゲノムタイピングを完了した。全ゲノム連鎖解析と全エクソンシークエンス併用、あるいは家系内の特徴的な糖尿病罹患者および非罹患者を複数名選定し全員の全エクソンシークエンスを行う手法により、糖尿病発症原因候補遺伝子を複数絞り込み、糖尿病発症との関連を詳細に検討中である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本人糖尿病家族歴濃厚家系の集積、日本人コホートの整備を行い、連鎖解析、ハプロタイプ解析による糖尿病関連遺伝子領域検索と全エクソンシークエンス併用により、糖尿病発症原因候補遺伝子early endosome antigen 1 (EEA1)遺伝子を絞り込んだ(Mol Genet Metab, 2013)。糖尿病多発大家系の糖尿病罹患者および非罹患者複数名の全エクソンシークエンスから、糖尿病罹患者全員に集積し非罹患者に存在せず一般健常者に比べ高頻度で認められる変異を同定し検証解析進行中。
臨床的観点からの成果
糖尿病発症原因遺伝子の解明は重要であるが、多くは未同定であり、人種差も報告されている。効率的かつ生物学的妥当性が高い糖尿病発症原因遺伝子絞り込みが可能な新手法の開発と日本人を対象とした解析が求められている。本研究は、日本人糖尿病家族歴濃厚家系検体での連鎖解析・ハプロタイプ解析に全エクソンシークエンスを併用した新手法の提案と、同手法を用いて実際に新規糖尿病発症原因候補遺伝子を絞り込んだ研究である。これら知見の積み重ねは、今後の個別化医療の論拠構築に資するものと思われる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
42件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
76件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nasteska D, Harada N, Suzuki K, et al.
Chronic reduction of GIP secretion alleviates obesity and insulin resistance under high fat diet condition.
Diabetes , 63 (7) , 2323-2343  (2014)
原著論文2
Suzuki K, Harada N, Yamane S, et al.
Transcriptional regulatory factor X 6 (Rfx6) increases gastric inhibitory polypeptide (GIP) expression in enteroendocrine K-cells and is involved in GIP hypersecretion in high-fat diet-induced obesity.
J. Biol. Chem. , 288 (3) , 1929-1938  (2013)
原著論文3
Ikeda K, Fujimoto S, Goto M, et al.
A new equation to estimate basal energy expenditure of patients with diabetes.
Clin. Nutr. , 32 (5) , 777-782  (2013)
原著論文4
Sasaki M, Fujimoto S, Sato Y, et al.
Reduction of reactive oxygen species ameliorates metabolism-secretion coupling in islets of diabetic GK rats by suppressing lactate overproduction.
Diabetes , 62 (6) , 1996-2003  (2013)
原著論文5
Tanaka D, Nagashima K, Sasaki M, et al.
Exome sequencing identifies a new candidate mutation for susceptibility to diabetes in a family with highly aggregated type 2 diabetes.
Mol. Genet. Metab. , 109 (1) , 112-117  (2013)
原著論文6
Abudukadier A, Fujita Y, Obara A, et al.
Tetrahydrobiopterin has a glucose-lowering effect by suppressing hepatic gluconeogenesis in an endothelial nitric oxide synthase-dependent manner in diabetic mice.
Diabetes , 62 (9) , 3033-3043  (2013)
原著論文7
Nakamura Y, Ogura M, Ogura K, et al.
SIRT5 deacetylates and activates urate oxidase in liver mitochondria of mice.
FEBS Lett. , 586 (23) , 4076-4081  (2012)
原著論文8
Harashima SI, Horiuchi T, Wang Y, et al.
Sorting nexin 19 regulates the number of dense core vesicles in pancreatic beta -cells.
J. Diabtes Invest. , 3 (1) , 52-61  (2012)
原著論文9
Ogawa E, Hosokawa M, Harada N, et al.
The effect of gastric inhibitory polypeptide on intestinal glucose absorption and intestinal motility in mice.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 404 (1) , 115-120  (2011)
原著論文10
Yamane S, Hamamoto Y, Harashima S, et al.
GLP-1 receptor agonist attenuates ER stress-mediated b-cell damage in Akita mice.
J. Diabtes Invest. , 2 (2) , 104-110  (2011)
原著論文11
Fujimoto H, Toyoda K, Okitsu T, et al.
Three dimensional ex vivo imaging and analysis of intraportal islet transplants.
Transpl. Int. , 24 (8) , 839-844  (2011)
原著論文12
Sato H, Nagashima K, Ogura M, et al.
Src regulates insulin secretion and glucose metabolism by influencing subcellular localization of glucokinase in pancreatic β-cells.
J Diabetes Invest. , 7 (2) , 171-178  (2016)
原著論文13
Nagashima K, Tanaka D, Inagaki N
Epidemiology, clinical characteristics, and genetic etiology of neonatal diabetes in Japan
Pediatr Int. , 59 (2) , 129-133  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-06-04

収支報告書

文献番号
201307009Z