ハイブリッドロングペプチドを用いた革新的次世代がん治療用ワクチンの開発とその臨床効果

文献情報

文献番号
201307005A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイブリッドロングペプチドを用いた革新的次世代がん治療用ワクチンの開発とその臨床効果
課題番号
H23-創薬総合-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
北村 秀光(北海道大学 遺伝子病制御研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 喜多 俊行(北海道大学 遺伝子病制御研究所 )
  • 武冨 紹信(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 山下 啓子(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 奥野 清隆(近畿大学 医学部)
  • 菰池 佳史(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究において、ヘルパーT細胞とキラーT細胞を同時に活性化するヘルパー/キラーハイブリッドロングペプチド(H/K-HELP)を用いた探索的第II相自主臨床試験および付随バイオマーカー研究を実施し、日本発の革新的次世代がん免疫治療用ワクチンの開発に繋ぐことを目的とする。
研究方法
進行・再発大腸癌もしくは乳癌を対象に、ヘルパーT細胞とキラーT細胞の両者を活性化できるヘルパー/キラーハイブリッドロングペプチド(H/K-HELP)ワクチン治療臨床試験を実施する。探索的第II相臨床試験研究として北海道大学病院、北海道大学遺伝子病制御研究所および近畿大学医学部の倫理委員会において承認された自主臨床試験実施計画書に従い、被験者腫瘍組織においてSurvivinがん抗原の発現が認められ、さらにHLA型が適合する患者をエントリーしH/K-HELP、OK432およびモンタナイドからなるワクチン治療、免疫モニタリングおよびバイオマーカー研究を、北海道大学遺伝子病制御研究所、北海道大学病院および近畿大学医学部附属病院とが連携して行なう。ワクチン投与前および各投与時に得られる血液サンプルを用いてSurvivinがん抗原特異的免疫応答の解析を行なうとともに、CT画像解析により抗腫瘍効果を検討する。また高い抗腫瘍効果を誘導するための鍵となりそうな因子を探索・同定する研究を実施し、より効果の高いがんワクチン開発へと繋げる。
結果と考察
進行・再発大腸癌あるいは乳癌を対象に、Survivin-H/K-HELPを用いたがんワクチン治療の探索的第II相臨床試験(大腸癌: UMIN000007506、乳癌: UMIN000007507)を実施した。平成25年度には、大腸癌10例のエントリーがあり、内所定の基準を満たした、9例に対してH/K-HELPワクチン投与を実施した。乳癌では1例のエントリーがなされ、内1例にワクチンを投与した。ワクチン投与を行った被験者の免疫モニタリングを実施し、前年度までにエントリーした被験者も含め、大腸癌28例について抗腫瘍免疫応答を評価した。その結果、ワクチン投与後27例において、Survivinがん抗原特異的な抗体価の上昇およびT細胞応答を認めた。乳癌については2例中2例において、抗腫瘍免疫応答が確認された。本試験の完遂症例について抗腫瘍効果に関する中間評価および追跡調査を実施することとした。さらに本探索的第II相臨床試験に付随して実施したバイオマーカー研究を実施し、被験者の血液検体を使用した抗原特異的抗体価のサブクラス解析とTh1/Th2免疫バランスを指標とした解析が有効であることを見出した。以上の研究成果から、当初の本事業における計画目標を達成することができたと考える。
結論
 本研究において、進行・再発大腸癌あるいは乳癌患者を対象とする探索的第II相臨床試験が実施され、がん抗原特異的ヘルパーT細胞とキラーT細胞を同時に活性化させるハイブリッドロングペプチドの抗腫瘍免疫賦活能および抗腫瘍効果の評価が可能となった。また、ハイブリッドロングペプチドワクチンを投与した被験者において、安全性の再確認と、これまで整備した標準化免疫モニタリング法による抗腫瘍免疫応答の解析と評価ができた。さらに、多施設でエントリーした被験者の免疫モニタリングの結果、ワクチン投与後、極めて早い段階でのワクチンペプチド特異的抗体価の上昇とT細胞応答の惹起が確認された。がん患者の血液検体を使用したバイオマーカー研究により、被験者の血液検体を使用した抗原特異的抗体価のサブクラス解析とTh1/Th2免疫バランスを指標とした解析が有効であることが示唆された。今後、本試験の完遂症例について抗腫瘍効果に関する中間評価および追跡調査を実施し、より精度・効果の高いがんワクチン治療の開発に繋げる事が可能と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201307005B
報告書区分
総合
研究課題名
ハイブリッドロングペプチドを用いた革新的次世代がん治療用ワクチンの開発とその臨床効果
課題番号
H23-創薬総合-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
北村 秀光(北海道大学 遺伝子病制御研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 喜多 俊行(北海道大学 遺伝子病制御研究所 )
  • 武冨 紹信(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 山下 啓子(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 奥野 清隆(近畿大学 医学部)
  • 菰池 佳史(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業において、ヘルパーT細胞とキラーT細胞を同時に活性化するヘルパー/キラーハイブリッドロングペプチドを用いた探索的第II相自主臨床試験を実施し、日本発の革新的次世代がん免疫治療用ハイブリッドロングペプチドワクチンを高度医療評価制度あるいは医師主導治験へ橋渡しするためのエビデンスを得ることで、医薬品の早期製造承認へ結びつける。
研究方法
北海道大学病院、近畿大学医学部附属病院の医師・研究者と連携し、進行・再発大腸癌もしくは乳癌を対象に、ヘルパー/キラーハイブリッドロングペプチドワクチンによる探索的第II相臨床試験研究を実施する。免疫染色によるSurvivin癌抗原の解析法、ELISA法による抗Survivin抗体価、ELISAおよびELISPOTによる抗原特異的T細胞応答、RECIST基準による画像解析および腫瘍マーカー測定に基づく抗腫瘍効果の判定プロトコル、付随バイオマーカー研究の研究計画書類を整備し、北海道大学病院、北海道大学遺伝子病制御研究所および近畿大学医学部の倫理委員会に提出する。各IRBにおいて承認された自主臨床試験実施計画書に従い、被験者腫瘍組織においてSurvivinがん抗原の発現が認められ、さらにHLA型が適合する患者をエントリーし、ハイブリッドロングペプチド、OK432およびモンタナイドからなるワクチン治療、免疫モニタリングおよびバイオマーカー研究を行なう。ワクチン投与前および各投与時に得られる血液サンプルを用いてSurvivinがん抗原特異的免疫応答の解析を行なうとともに、CT画像解析により抗腫瘍効果を検討する。また高い抗腫瘍効果を誘導するための鍵となりそうな因子を探索・同定する研究を実施し、より効果の高いがんワクチン開発へと繋げる。
結果と考察
平成23年度において、RECIST基準による画像解析および腫瘍マーカー測定に基づく抗腫瘍効果の判定プロトコルを確立し、大腸癌あるいは乳癌患者を対象にした癌ワクチン治療による抗腫瘍効果を評価する探索的第II相臨床試験の実施に向けた整備を行った。生物統計の専門家の指導に従い、本研究では大腸癌35例に対し、臨床評価として、最良総合効果(RECIST規準)による病勢コントロール率(CR+PR+SD)、乳癌においては40例を対象とし臨床的有用率(CR+PR+6ヶ月以上のSD)の評価を主要エンドポイントとして設定した。これらの実施計画について北海道大学病院、北海道大学遺伝子病制御研究所および近畿大学医学部倫理審査委員会にて承認を受け、患者のエントリーが開始された。
 平成24年度末までに、大腸癌25例、乳癌2例がエントリーし、平成25年度末までに、大腸癌でさらに10例、合計35例のエントリーがあり、その内Survivin抗原の発現、HLA型など所定の基準を満たした、29例に対してH/K-HELPワクチン投与を実施した。乳癌では、合計3例のエントリーがなされ、内2例にワクチンを投与した。さらにワクチン投与を1回以上行い、がん患者の免疫モニタリングを実施した28例について、抗腫瘍免疫応答を評価したところ、27例においてSurvivin癌抗原特異的な抗体価の上昇およびT細胞応答を認めた。乳癌については2例中、2例において、抗腫瘍免疫応答が確認された。引き続き、ワクチン投与による抗腫瘍効果について中間評価を開始し、さらに全症例の追跡調査も実施した上で、総合評価として判定することとした。さらに本探索的第II相臨床試験に付随したバイオマーカー研究を実施し、被験者の血液検体を使用した抗原特異的抗体価のサブクラス解析とTh1/Th2免疫バランスを指標とした解析が有用であることを見い出した。以上の研究成果から、当初の本事業における計画目標を達成できたと考える。
結論
 本事業において、進行・再発大腸癌あるいは乳癌患者を対象とした、ハイブリッドロングペプチドワクチンの標準化免疫モニタリング法による抗腫瘍免疫賦活能およびRECIST基準による抗腫瘍効果の評価が可能となった。被験者について、ワクチン投与後に、極めて早い段階でのワクチンペプチド特異的抗体価の上昇とT細胞応答の惹起が確認された。がん患者の血液検体を使用したバイオマーカー研究により、被験者の血液検体を使用した抗原特異的抗体価のサブクラス解析とTh1/Th2免疫バランスを指標とした解析が有効であることが示唆された。今後、本試験の完遂症例について抗腫瘍効果に関する中間評価および追跡調査を実施し、最終的にTh1型免疫応答を基軸とした、ハイブリッドロングペプチドワクチン投与による抗腫瘍効果・副作用の有無を精査することにより、患者のQOLを維持しつつ治療を行える日本発の安全かつ効果の高いがん免疫治療の医師主導型あるいは企業主導治験への橋渡しが可能であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
進行再発大腸癌・乳癌患者を対象とした、ハイブリッドロングペプチドワクチン治療を評価する探索的第II相臨床試験を整備し、標準化免疫モニタリング法による抗腫瘍免疫応答および抗腫瘍効果の評価が可能となった。ワクチン投与した被験者において、極めて早い段階での抗原特異的抗体価の上昇とT細胞応答の惹起が確認された。またバイオマーカー研究により、血清中の抗原特異的抗体のサブクラス解析とTh1/Th2型免疫応答とリンクする制御因子の評価について有用性が示唆され、より精度・効果の高いがん治療に継がると期待される。
臨床的観点からの成果
ハイブリッドロングペプチドを用いたがんワクチン治療の探索的第II相臨床試験について、RECIST基準による画像解析および腫瘍マーカー測定に基づく抗腫瘍効果の判定プロトコルを確立した。生物統計の専門家の指導に従い、本研究では大腸癌35例に対し、最良総合効果による病勢コントロール率、乳癌においては40例を対象とし臨床的有用率の評価を主要エンドポイントとして設定した。これまで大腸癌35例、乳癌3例をエントリーし、本試験の大腸癌完遂20症例について抗腫瘍効果に関する中間評価および追跡調査を実施した。
ガイドライン等の開発
本研究において、合衆国連邦保険福祉省食品医薬品局(FDA)、がん治療用ワクチンのための臨床学的考察、ガイドラインにおける「結果に対する特別な定義をしたうえで統計解析を計画することを推奨します」の特別な定義を、(A)CT画像診断による抗腫瘍効果(B)抗原特異的免疫応答と設定し、(A)がCR/PR/SDの場合次のワクチン治療に入る、(A)がPDでも、(B)が陽性の場合次の治療に入る、(A)がPDで、(B)が陰性の場合、ワクチン治療終了とする自主臨床試験研究計画が各IRBにおいて承認された。
その他行政的観点からの成果
本研究を基に、信頼・精度・効果の高い革新的ながん治療法の開発のみならず、コンパニオン試薬・診断薬の開発、病院などの活性化、さらに医療研究者の人材育成、新規プラットホームの提供も期待できる。最終的にがん治療における治療効果、副作用の発現を可能な限り早い段階で予見することで、高齢化社会を迎えた日本国民の健康維持、疾患時におけるQOLの改善、安心・安全かつ効果の高い治療法を提供することができることから、厚生労働行政の施策、政策形成の過程に活用される可能性も高い
その他のインパクト
札幌市教育委員会後援の北海道大学遺伝子病制御研究所一般公開においてアウトリーチ活動を行い、本研究成果について、来所した一般市民、学生、児童に対してポスター発表するとともに、直接参加者に説明を実施することで広く認識され、最新のがん免疫治療に関する大きな反響を得た。またJST新技術説明会やノーステック財団主催のセミナーにて、民間企業などのコーディネーターや研究者に対して本研究成果を紹介し、事業化への可能性が拓けた。実際に民間企業とコンパニオン診断システムの開発に向けた共同研究の締結にまで発展した。

発表件数

原著論文(和文)
40件
原著論文(英文等)
46件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
93件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
北海道大学遺伝子病制御研究所 一般公開にて、一般市民に対して本研究を説明した。JST新技術説明会やノーステック財団主催のセミナーにて、民間企業などの研究者に対して本研究成果を紹介した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohno Y, Kitamura H, Takahashi N et al.
IL-6 down-regulates HLA class II expression and IL-12 production of human dendritic cells to impair activation of antigen-specific CD4(+) T cells.
Cancer Immunology Immunotherapy , 65 (2) , 193-204  (2016)
doi: 10.1007/s00262-015-1791-4.
原著論文2
北村秀光、富樫裕二、西村孝司
革新的がんワクチン, helepr/killer-hybrid epitope long peptide (H/K-HELP)の開発とその作用
日本臨牀 , 72 (増刊号2) , 303-308  (2014)
原著論文3
大竹淳矢、増子和尚、角田健太郎、他
革新的癌ワクチン, H/K-HELPの開発ーショートペプチドからヘルパー/キラーロングペプチドへの移行
医学のあゆみ , 244 (9) , 767-778  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201307005Z