後天的心疾患・不整脈解析モデルとしてのエピジェネティック変異

文献情報

文献番号
201307002A
報告書区分
総括
研究課題名
後天的心疾患・不整脈解析モデルとしてのエピジェネティック変異
課題番号
H23-創薬総合-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 純(東京大学 分子細胞生物学研究所エピゲノム疾患研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 塚原 由布子 (東京大学 分子細胞生物学研究所エピゲノム疾患研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、まずヒト心不全患者の心生検からの遺伝子発現解析から不整脈、心肥大を引き起こす可能性のある①ヒトエピジェネティック因子プロファイルを作製する。その中から、②候補因子の遺伝子破壊マウスまたは遺伝子過剰発現マウスを作製し、心負荷実験及び心筋梗塞を発症させ、組織学解析と生理学評価を行う。③抑制因子となり得る小分子の探索及び合成を目指す。本研究終了までには広く研究者、基礎臨床に提供出来るようヒト心疾患発症を引き起こすエピジェネティック因子の単離のみを目的とせず、最終的には心筋症発症、心不全発症抑制因子の単離を目指す。

研究方法
1:Brg1-Baf60c制御機構を模倣する心不全プロテクト低分子の探索
2:急性心不全発症とDNA脱メチル化の意味
3:男性ホルモン結合因子ARIP4の男性特異的心疾患との関連解明
4:心不全推進因子及び抑制因子としてのncRNA探索
結果と考察
Brg1-Baf60c因子が心筋増殖を活性化し炎症反応を抑制するエピジェネティック因子であることが明らかとなった(論文投稿中)。さらに、RNAシーケンスを用いて心筋再生(Brg1-Baf60cを亢進する)に関わる小分子因子を捜索した結果、興味深い発現変化をする小RNAを単離することが出来た。しかも、ヒト男女心不全患者で反応が異なることも分かり、雄については心筋梗塞モデルマウスを用いた結果と相関する(雌は性周期が不確定なため今後作製し行なう)(2014特許申請中)。さらに、胎児期心臓転写因子の発現調節に関わるlnc(長鎖)RNAが単離された。これは全く新規なRNA分子でゲノム変換を伴うことが予想され分子発生学的においても心不全抑制においても期待される。
ARIP4のアレイ結果からオートファジー関連因子の発現が減少していることが明らかとされた。今後は生化学的な解析と初代培養系を用いてオートファジー因子との作用を調べていく。
結論
エピジェネティックの作用機序を明らかにすることは疾病の重篤化の理解につながり、ひいては心筋再生に向けた研究に展開が可能となる(中村&竹内純 実験医学2012;堀&竹内 実験医学2013)。本研究は、マウスモデルとヒト疾患においてエピジェネティック因子群の機能を明らかにすることによって、心疾患発症におけるゲノム上の感受性ある制御領域と制御因子を同定してきた。本研究期間で心不全時または心筋再生時におけるエピジェネティック因子の作用機序が明らかとなっただけでなく、心筋が生存する上で細胞増殖・胎児期遺伝子群・血管新生因子・炎症系因子を制御していることが明らかにでき(論文投稿中)、心不全回復アプローチへの手助けとなり得る。
さらに、上記エピジェネティック因子群や心筋再生を向上する小RNA分子は、創薬開発を筆頭する臨床応用への展開が容易に見込まれ、今後初代培養系と生体投与を用いて研究を行なっていく(2014特許申請中)。

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201307002B
報告書区分
総合
研究課題名
後天的心疾患・不整脈解析モデルとしてのエピジェネティック変異
課題番号
H23-創薬総合-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 純(東京大学 分子細胞生物学研究所エピゲノム疾患研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 塚原 由布子 (東京大学 分子細胞生物学研究所エピゲノム疾患研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、ヒト心不全患者の心生検からの遺伝子発現解析から不整脈、心肥大を引き起こす可能性のあるエピジェネティック因子の特定とその作用機序を明らかにすることである。そのために3つのテーマを掲げて取り組む。①ヒト心不全患者において発現変化しているヒトエピジェネティック因子の発現プロファイルを作製しゲノム領域を特定化する。その中から、②候補因子の遺伝子破壊マウスまたは遺伝子過剰発現マウスを作製し、心負荷実験及び心筋梗塞を発症させ、組織学解析と生理学評価を行う。③抑制因子となり得る小分子の探索及び合成を目指す。本研究終了までには広く研究者、基礎臨床に提供出来るようヒト心疾患発症を引き起こすエピジェネティック因子の単離のみを目的とせず、最終的には心筋症発症・心不全発症抑制因子の単離とともに、心筋再生・心機能向上を目指す。
研究方法
1:ヒト心不全患者での遺伝子発現プロファイルとゲノム制御領域変化
2:ヒト心不全に関連する低分子の探索と同定
3: 不整脈モデルとしてのクロマチン構造変換因子Brg1の原因解明
4:心筋再生と新機能向上を目指したアプローチ
結果と考察
1:ヒト心不全患者と健常者でのRNAシーケンスを行い、遺伝子プロファイルを作製した。その中で一つ核内レセプターの転写活性に影響を及ぼすARIP4に着目した。ARIP4のKOマウスは心筋緻密化障害が観察され、ヒトnon-compaction表現型と非常に酷似する結果を得た。ARIPは男性ホルモン調節因子でもあることから、今後集中的に研究していく必要がある。ARIP4 KOでのアレイ結果からオートファジー関連因子の発現が減少していることが明らかとされた。今後は生化学的な解析と初代培養系を用いてオートファジー因子との作用を調べていく。
2:ヒト心不全患者と健常者でのmiRNAマイクロアレイを行い、男性と女性との間で興味深い発現変化をするmiRを数種単離した。マウス発生段階においても発現が異なることも分かり、雄については心筋梗塞モデルマウスを用いた結果と相関する(雌は性周期が不確定なため今後作製し行なう)(2014特許申請中)。
3:Brg1-Baf60c因子が心筋増殖を活性化し炎症反応を抑制するエピジェネティック因子であることが明らかとなった(論文投稿中)。クロマチン因子の後天的遺伝子発現阻害研究:先天的心疾患発症にはクロマチン因子の発現レベルが重要である(Takeuchi.,2011:中村遼&竹内純 実験医学2012)ことから、後天的心疾患・心不全発症の際におけるクロマチン因子の遺伝子破壊マウスを作成中である。
クロマチン関連因子の遺伝子破壊マウス作製:現時点で、Snf2h, Dnmt1, Dnmt3a/b, Ring1a/b, ARIP4遺伝子破壊マウスを得て
いる。全てホモで胎性致死である。TAC(心負荷)マウスを作製し術後、Dnmt1遺伝子、Ring1遺伝子は顕著に発現量が亢進する結果を得ているので、Dnmt1とRing1共に心肥大シグナル亢進因子である可能性が考えられる。逆にDnmt3aの発現は減少することから、心不全抑制因子であると考えられる。
4:心筋梗塞マウスおよび心臓切除マウスを作製し、Baf60cを始め心機能向上を期待される因子の強制発現を行い、心機能回復の可否を調べた。クロマチン因子の恒常的発現の結果、心筋の過剰増殖が見受けられ、MI(心筋梗塞)マウスでも問題無く機能していることが示された。このBaf60c強制発現された心臓においては線維化が抑制され、心機能の向上が見受けられた(論文投稿中)。
結論
本研究3年間で、心機能に関わるエピジェネティック因子の新たな役割を報告することができた。ヒト心疾患から単離されたすべての因子について科学論文および特許までエピジェネティックの作用機序を明らかにすることは疾病の重篤化の理解につながり、しいては心筋再生に向けた研究に展開が可能となる(中村&竹内純 実験医学2012;堀&竹内 実験医学2013)。本研究は、マウスモデルとヒト疾患においてエピジェネティック因子群の機能を明らかにすることによって、心疾患発症におけるゲノム上の感受性ある制御領域と制御因子を同定してきた。本研究期間で心不全時または心筋再生時におけるエピジェネティック因子の作用機序が明らかとなっただけでなく、心筋が生存する上で細胞増殖・胎児期遺伝子群・血管新生因子・炎症系因子を制御しているのかのことが明らかにできた(論文投稿中)。になれば、心不全回復アプローチへの手助けとなり得る。
さらに、上記エピジェネティック因子群や心筋再生を向上する小RNA分子は、創薬開発を筆頭する臨床応用への展開が容易に見込まれ、今後初代培養系と生体投与を用いて研究行なっていく(2014特許申請中)。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 本研究は、ヒト心不全患者の心生検からの遺伝子発現解析から不整脈、心肥大を引き起こす可能性のあるエピジェネティック因子の特定(ゲノム構造変換因子・オートファジー作用をするサルコメア制御因子・男女間で制御機能の異なる小分子)とその作用機序を明らかにしたことである。小分子は血液中の新規バイオマーカーとして、また、血管からの投与による治療薬として多いに期待される。
臨床的観点からの成果
ヒト心不全特異的なゲノム制御領域が特定されることは、今後ゲノム創薬を目指す上で貴重な知見となる。小分子はバイオマーカーとなることが期待されるだけでなく、治療薬としても期待される。基礎データを元に臨床応用へ展開可能な知見を得ることができた点は大きい。
ガイドライン等の開発
臨床研究への橋渡しとして、京都府立医大および東京医科歯科大学との共同研究を開始し、都立臨床研と東京大学倫理委員会の利益相反においても審議済である。
その他行政的観点からの成果
日本サイエンス専門書での編集(「発生のエピジェネティクス」竹内純 編)を刊行した。
その他のインパクト
2011日本分子生物学会にてシンポジウム(発生エピジェネティクス)。同学会ワークショップ(再生の最前線)。「エピゲノムからみた心筋再生と心臓再生 ―どうすれば強い心筋が生まれるのか?―」Merk Millipore BioScience Forum 2013 (東京)。「Heart cell survival by defined factors」European Society of Cardiology 2013 (ドイツ、Berlin) にてオーガナイズした。

発表件数

原著論文(和文)
1件
2012実験医学11月号編集を行った
原著論文(英文等)
6件
POLOS ONE 2017。JMCC 2016。DGD 2016。Nat. Commun. 2011。PNAS2013。BONE2014。
その他論文(和文)
12件
実験医学・Heart View。など
その他論文(英文等)
2件
Cardiovas. Res.2011。
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
3件
特願2015-187363
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
12件
2016文京区立小日向台町小、2015長崎県立北陽台高/科学未来館/文京区立小日向町小、2014長崎県立北陽台高/群馬県立高崎高/広島県立尾道北高/文京区立小日向小、2013文京区立青柳小

特許

特許の名称
成熟した心筋細胞を分化誘導させる方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-187363
発明者名: 竹内純、森田唯加
権利者名: 竹内純、森田唯加
出願年月日: 20150924
国内外の別: 国内
特許の名称
特定因子による心臓幹・前駆細胞の誘導/活性化方法
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/2012/011458
発明者名: 竹内純、森田唯加、塚原由布子
権利者名: 竹内純、森田唯加、塚原由布子
出願年月日: 20121221
国内外の別: 国外
特許の名称
高効率心臓細胞分化能を持った新規心臓前駆(幹)細胞制御因子の樹立法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-011458
発明者名: 竹内純、森田唯加、塚原由布子
権利者名: 竹内純、森田唯加、塚原由布子
出願年月日: 20120123
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morita Y., Andersen P., Hotta A. et al.
Sall1 transiently marks undifferentiated heart precursor and regulates their fate.
Journal of Molecular and Cellular Cardiology , 92 , 158-162  (2016)
原著論文2
Nakamura R., Koshiba-Takeuchi K., Tsuchiya M. et al.
Expression analysis of Baf60c during heart regeneration in axolotl and neonatal mice.
Dev. Growth Differ  (2016)
原著論文3
Tsuji M., Kawasaki T., Matsuda T., Arai T., Gojo S., Takeuchi JT
Sexual Dimorphisms of mRNA and miRNA in Human/Murine Heart Disease
PLOS ONE , in press  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2017-07-04

収支報告書

文献番号
201307002Z