培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化

文献情報

文献番号
201306022A
報告書区分
総括
研究課題名
培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化
課題番号
H25-再生-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
木下 茂(京都府立医科大学 大学院医学研究科 視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 上野 盛夫(京都府立医科大学 大学院医学研究科 視覚機能再生外科学)
  • 羽室 淳爾(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
  • 外園 千恵(京都府立医科大学 大学院医学研究科 視覚機能再生外科学)
  • 小泉 範子(同志社大学 生命医科学部)
  • 奥村 直毅(同志社大学 生命医科学部)
  • 川上 浩司(京都大学 大学院医学研究科 薬剤疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
63,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究目的は、水疱性角膜症患者に対する培養ヒト角膜内皮細胞移植の臨床試験を実施し、有効性・安全性・安定性を確認し、最終的に我が国発の新医療技術として定着化させることである。
角膜内皮細胞は角膜の透明性の維持に必須の細胞で、傷害されると角膜は混濁し水疱性角膜症と呼ばれる病態に陥り、重篤な視覚障害を生じる。現在、水疱性角膜症に対する唯一の治療法はドナー角膜を用いた角膜移植術であり、水疱性角膜症は角膜移植の原因疾患の60%以上を占めている。しかしドナー角膜の不足や移植後の角膜内皮の再傷害による不良な長期予後などの問題があり、新規治療法の開発が切望されている。
我々は生体外で培養したヒト角膜内皮細胞を、細胞の基質接着を促進するROCK阻害剤とともに眼内に注入することでキャリアを用いない細胞移植が可能であることを発見した。本技術は低侵襲で、さらに正常な解剖学的構造の再建を可能とする。培養角膜内皮細胞の前房内注入により角膜内皮組織を再生する概念は、世界をリードする先駆的技術であり角膜内皮再生医療のパラダイムシフトをもたらす独創的なものである。
研究方法
水疱性角膜症患者に対して、「再生医療の実現化ハイウェイ」の支援により開発したROCK 阻害剤を併用した培養ヒト角膜内皮細胞移植を実施した。局所麻酔下で、角膜内皮剥離用シリコンニードルにてレシピエントの角膜内皮細胞を剥離した。次いで培養ヒト角膜内皮細胞5.0ないし10.0×105個をROCK 阻害剤(Y-27632)を最終濃度100μMで添加して懸濁液200μLを前房内に注入した。手術終了直後より3時間以上のうつむき姿勢をとった。角膜移植における薬剤投与レジメンに準じて、術後炎症の制御と拒絶反応予防の目的でステロイド剤等を投与した。
平成25年度には、ヒト幹臨床研究を京都府立医科大学附属病院において3例実施した。有害事象と安全性の評価、主要・副次的有用性の評価、ヒト検体の採取と基礎研究との連携を行った。
結果と考察
【結果】
1.「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」により了承されてプロトコールに従って培養ヒト角膜内皮細胞を生産・出荷した。
2.「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」により了承されてプロトコールに従って患者選定を行い、3例の培養ヒト角膜内皮細胞注入療法を実施した。
3.水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞注入療法の短期における有効性を確認した。
4.水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞注入療法の短期における安全性を確認した。
5.臨床研究の患者検体を用いてサイトカインプロファイル測定および血液生化学的検査を実施した本臨床試験の安全性を裏付けた。
6.培養ヒト角膜内皮細胞注入療法の手術手技を最適化した。
7.水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞注入療法の臨床研究の同意説明における補助資料の作成を行い研究協力者の理解促進を進めた。
【考察】
培養細胞の眼内への注入による角膜内皮再生医療は、キャリアを用いないために正常な解剖学的構造の再構築による高い視機能回復を低侵襲に行うことが可能である。また、ドナー角膜不足の解決、若年者由来のドナー角膜を用いることで得られる良好な長期予後など、既存の角膜移植に対して優位性を有することが期待されていた。平成25年度に3例の臨床研究を実施し、少数例かつ短期間のかんさつではあるが、その有効性と安全性を確認出できた。
企業との開発早期よりの連携、知財戦略、出口戦略の設定により、開発した細胞培養生産方法により採算性が担保できることを確認しており、本邦発のシーズの世界市場をターゲットとした産業化のモデルケースとすることで厚生労働行政の施策への活用が期待される。将来的にはアイバンクにCPCを併設することでアイバンクの有する医療機関へのネットワークを活用することが可能となり、世界的に培養角膜内皮移植が普及することが予測される。
眼科領域は再生医療の臨床応用が迅速に行われる分野であり、難治性疾患に対する既存治療を超える再生医療の有用性を臨床で実証することは、再生医療研究開発に関する政策形成の過程に直結するものである。さらには、iPS細胞・ES細胞による角膜およびその他の組織の再生医療を実現するために、有効性、安全性評価、臨床研究デザイン、産業化への橋渡し、知財管理など全てのノウハウを共有しそれらを普遍化することは厚生労働行政の課題の一つである、安全性の担保された新しい医療技術の迅速な開発に貢献すると考える。
結論
水疱性角膜症に対する培養ヒト角膜内皮細胞注入療法を3例実施し、短期間の観察期間であるが有害事象と安全性、主要・副次的有用性の偵察的評価、科学的妥当性を超える品質上の問題の有無などを確認した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201306022Z