沖縄における社会環境と長寿に関する縦断的研究

文献情報

文献番号
199800186A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄における社会環境と長寿に関する縦断的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
崎原 盛造(琉球大学)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀博(北海道医療大学)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 新野直明(国立長寿医療研究センター)
  • 鈴木征男(ライフデザイン研究所)
  • 尾尻義彦(琉球大学)
  • 秋坂真史(琉球大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沖縄県における長寿要因を解明するため沖縄県内で65歳および70歳平均余命が男女とも最高の今帰仁村に居住する65歳以上の高齢者を対象に身体的健康度や精神的健康度のみでなく社会環境とくに社会関係や心理的特性を明らかにし長寿との関連について検討する。併せて百歳以上長寿者の生活史から長寿を支えている要因について検討する。
研究方法
本研究は主に質問紙面接調査と骨密度測定等で実施した。面接調査は沖縄県今帰仁村19カ字から地区(字)を単位に無作為に8カ字を抽出し、平成10年6月末現在居住する65歳以上の全高齢者1,206名の内死亡、入院・入所等の140名を除く1,019名(男性397名、女性622名)を面接調査の対象とした。骨密度測定は今帰仁村に居住する65歳以上の全男性を対象とした。面接調査は社会学的調査および心理学的調査の他転倒経験や精神的健康度等の健康度調査を内容とした。骨密度測定はDXA法による前腕骨密度測定およびUSD法による踵骨骨密度測定を行った。また、村内在住の百歳以上長寿者6名の生活史に関する面接調査も実施した。
結果と考察
面接調査で得られた結果の概要は次のとおりであった。転倒の発生率は男性11.4%、女性16.8%で統計的に有意な性差があった。また、前期高齢者では12.6%、後期高齢者で17.4%であったが有意差はなかった。沖縄県内都市部の高齢者と比較すると農村である本年度の対象者は男女とも若干転倒発生率が高い。しかし、東北地方や新潟県農村部と比較すると沖縄県農村部では男女とも転倒発生率は低く、身体的に健康であることが示唆された。また、本土の長寿地域である都市部と比較しても沖縄県農村部の発生率が低いことが示された。65歳以上男性を対象にしたDXA法による前腕骨密度測定の結果は比較した秋田県の高齢男性に比べて有意な差は認められなかった。USD法による踵骨骨密度の測定結果骨密度低値者と判定された者は受診者の26.6%であった。踵骨骨密度と有意な正の相関がみられたのは足関節の底屈力であった。この底屈力は背屈力とともに高齢になるにつれて減少傾向を示した。これらの筋力の指標が低下することは転倒発生のリスクとなる可能性もある。日本語版Geriatric Depression Scale(GDS)の短縮版を用いて調査した抑うつ症有症率は男性で25.3%女性で31.3%であり従来報告されている日本の高齢者の抑うつ症状有症率(25~35%)の範囲内であった。今帰仁村の高齢者が抑うつ症状を有する危険性は日本の他の地域と大きくは変わらないと考えられる高齢期のライフスタイルを社会的・心理的・身体的領域から総合的に把握し健康指標との関連を検討した結果社会的ライフスタイルが特に健康指標との関連が強いことが確認された。このことは社会参加が高齢者の生活の質の維持に有用であることを示している。沖縄の高齢者の心理的特性について5因子モデル性格特性尺度により調査した結果沖縄の高齢者の性格特性として調和性が高く神経症傾向や外向性開放性の3因子は対照群より低いことが確認された。調和性が高いことは利他的あるいは他者に対する思いやりが強いことを示している。逆に神経症傾向が低いことは「くよくよしない」「ノンビリ」という一般的に表現される沖縄の県民性を明確に示しており長寿との関連性が示唆された。百歳以上長寿者の生活史について比較的一般的な生活歴を有する105歳の女性の調査結果から現在ADLが低下しているにもかかわらず比較的良好なQOLを維持している背景に家族や地域における良好な人間関係の存在が示唆される。
結論
対象とした今帰仁村の在宅高齢者の健康度は転倒発生率でみると概して低く男性高齢者の前腕骨密度は秋田県農村部の高齢者と比べて差はないが運動能力は低い。精神的な健康度は本土の調査報告と比べて差はみられない。高齢者の健康的なライフスタイルを総合的に捉えて健康指標との関連性を検討した結果男女に共通して健康指標と関連の強い領域は社会的ライフスタイルであり社会参加が高齢期の健康維持に重要であることが示唆された。沖縄の高齢者
の性格特性は調和性が高く神経症傾向や外向性開放性は対照群より低く沖縄の地域特性がより明確に示された。105歳女性の生活史調査から長寿を支えている背景に家族や地域における良好な人間関係が示唆された。

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