病院外来受診時の一定定額自己負担制度導入に関する調査研究

文献情報

文献番号
201305038A
報告書区分
総括
研究課題名
病院外来受診時の一定定額自己負担制度導入に関する調査研究
課題番号
H25-特別-指定-032
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
菅原 琢磨(法政大学 経済学部 経済学科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成25年8月の「社会保障制度改革国民会議報告書」では医療機関間の適切な役割分担を図るため「緩やかなゲートキーパー機能」の導入が必要と提言され、大病院の外来は紹介患者を中心とし、一般的な外来受診は「かかりつけ医」に相談することを基本とするシステムの普及、定着が必須とされた。具体的には、紹介状のない患者の一定病床数以上の病院の外来受診について一定の定額自己負担を求める仕組みを検討すべきと明記された。
国民会議報告書に基づく制度導入を進めるにあたっては、現状把握と導入に伴う様々な課題の整理と影響の検討が必要だがそれらは十分に行われていない。
本研究では、このような問題認識をもとに、病院外来の現状把握と一定定額自己負担制度導入時の検討課題の整理を行うとともに、定額自己負担導入にともなう患者受診行動の変化について検討することを目的とした。
研究方法
本研究は大きく以下の二つの内容で構成される。
1)半構造化インタビューによる病院外来受診の現状と今後検討が予定される一定定額自己負担制度導入に関する課題の論点整理
2)コンジョイント法による病院外来受診時一定定額自己負担制度導入時に予想される受診者の行動変容に関する実証分析
結果と考察
1)医療機関、診療科ごとに「初診」「再診」の定義や期間が異なる現状、院内における重複受診の扱い、自己負担回避のための救急の不適切利用への懸念、長期フォローを必要とする疾患や地域に受け皿の少ない精神科の扱いなど、制度導入に際して配慮すべき新たな課題も見いだされた。
選定療養での患者自己負担については病院がその徴収のための患者説明に多くの労力を費やしており、国による一律の自己負担導入により医療機関側の負担軽減がはかられるとの意見が聴かれた一方、自治体立の公的病院などでは公的病院への財政投入状況、市民の反発への懸念から、高額な自己負担の設定は首長をはじめ住民の理解を得ることが困難といった意見もみられた。いずれにしても制度導入にあたっては国民に対する制度趣旨の丁寧な説明が不可欠である。
診療所を主体とする地域医療機関との連携が上手く機能している病院では、永年かつ継続的な相互交流と「二人主治医制」といった仕組みづくりをしながら、医療機関受診に対する地域住民への普及啓発活動をおこなってきており、医療の機能分化について、金銭的動機づけ以外の取組みも併せて進めるべきであることが強く示唆された。
2)仮想質問票による実証分析では、軽症・初診でも大病院を選好するサンプルが全体の2割に及び、また、重症の場合には全体の約7割が初診・再診ともに大病院を選好することが示された。さらに定額自己負担の金額については、5千円から1万円の間に設定することにより、軽症と重症の場合で受診行動が異なる可能性が示唆されたことから、病院外来勤務医の負担軽減をはかるうえで軽症受診者の行動変容を促すためには、病院外来受診の定額自己負担の下限の目安が5,000円となることが示唆された。
結論
半構造化インタビューの結果からは、医療機関、診療科ごとに「初診」「再診」の定義、期間が異なる現状、院内における重複受診の扱い、自己負担回避のための救急の不適切利用への懸念、長期フォローを必要とする疾患や地域に受け皿の少ない精神科の扱いなど、制度導入に際して配慮すべき新たな課題が見いだされた。
定額自己負担導入にともなう患者行動の変化に関する実証分析からは、軽症・初診でも大病院を選好するサンプルが全体の2割に及び、重症の場合には全体の約7割が初診・再診ともに大病院を選好することが示された。さらに定額自己負担の金額については、5千円を下限とする価格設定をすることにより、軽症と重症の場合で受診行動が変容する可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201305038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「社会保障制度制度改革国民会議報告書」では、紹介状のない患者の一定病床数以上の病院の外来受診について、一定の定額自己負担を求める仕組みを検討すべきと明記されたものの必要な課題の整理と影響の検討は行われてこなかった。本研究では幅広く医療機関にヒアリング調査をおこない、制度導入に伴う課題、効果について情報を集約し論点整理した。また自己負担を導入した際の受診動向の変化、影響を具体的に把握するため、仮想質問票を用いて制度導入時に起こりうる影響を実証的に検証し、適切な自己負担額の水準について考察した。
臨床的観点からの成果
特記事項なし
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
本研究の内容は社会保障審議会医療保険部会の基礎的資料として活用された。平成28年4月より実施された実際の制度では、自己負担額、適用範囲、例外的取り扱い等の点について、本研究報告成果の内容が実際に反映された部分がある。
また制度導入後「2016年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」が実施され、精度導入の影響が平成29年5月31日の中央社会保険医療協議会総会で報告された。
その他のインパクト
本研究の成果は「定額負担と二人主治医制は車の両輪-法大・菅原教授に聞く外来機能分化」『医療経営CBnewsマネジメント』においてインタビュー記事として広く公開・配信されたほか(2014.12.3公開)、読売新聞2015年3月15日の朝刊における社会保障欄の定額自己負担導入に関わる解説記事においても本研究に基づくコメントが掲載されるなど広く社会に周知された。制度導入後の2016年4月には社会的関心も高く、NHKの朝の情報番組「朝イチ」より本研究内容に関する取材を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
社会保障審議会・医療保険部会の資料として提出
その他成果(普及・啓発活動)
2件
ネット媒体、新聞における本研究内容の紹介ならびにコメントの掲載

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
河口洋行・菅原琢磨
「大病院の外来受診に関する仮想的効用値の測定に関する研究」
成城大学『経済研究』 ,  (210号) , P163-P196  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
2023-06-09

収支報告書

文献番号
201305038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,950,000円
(2)補助金確定額
4,950,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 612,888円
人件費・謝金 355,600円
旅費 595,370円
その他 2,936,356円
間接経費 450,000円
合計 4,950,214円

備考

備考
「補助金確定額」と「支出合計」の差額214円は、当該研究期間に発生した「利息」によるものである。

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-