文献情報
文献番号
201305032A
報告書区分
総括
研究課題名
ICDの改訂における発達障害の位置づけについて
課題番号
H25-特別-指定-026
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
市川 宏伸(東京都立小児総合医療センター/国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 内山 登紀夫(福島大学大学院 人間発達文化学類)
- 渥美 義賢(国立特別支援教育総合研究所)
- 深津 玲子(国立障害者リハビリテーションセンター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国においては、発達障害支援法の中に発達障害の定義があり、これは世界保健機構による診断基準であるICD-10を背景にしている。2017年に予定されているICD改訂に際し、現在の定義に含まれている発達障害者が、医療、福祉、教育等の分野で受けている支援を維持できるようにするためには、今後のICDの改訂に際して発達障害の定義をどう整理したら良いかについて検討する。
研究方法
ICDの改訂に関する最新の動向を把握するとともに、国内の制度への影響を確認する。また、海外においてDSM及びICDの改訂が当事者、家族、行政施策にどのような影響を与えると考えられているかについて調査する。
(a)国内における影響について「現時点の暫定的ICDの改訂案について発達障害児者支援への影響についての見解を中心に、国内の発達障害に詳しい医療関係者に対してインタビューとアンケートを併用して調査した。
(b)海外における影響についてDSM及びICDの改訂が欧米の行政制度にどのように影響するかついて、米国及び英国の発達障害を専門にする医療、行政等関係者の見解をインタビュー調査した。
(c)DSM-5の改訂及びICD-11における神経発達障害の最新の動向についてDSM-5及びICD-11の作業部会委員である研究者を招聘し、最新の改訂作業の動向、現在の状況ならびに今後の方向性について意見交換を行った。
(a)国内における影響について「現時点の暫定的ICDの改訂案について発達障害児者支援への影響についての見解を中心に、国内の発達障害に詳しい医療関係者に対してインタビューとアンケートを併用して調査した。
(b)海外における影響についてDSM及びICDの改訂が欧米の行政制度にどのように影響するかついて、米国及び英国の発達障害を専門にする医療、行政等関係者の見解をインタビュー調査した。
(c)DSM-5の改訂及びICD-11における神経発達障害の最新の動向についてDSM-5及びICD-11の作業部会委員である研究者を招聘し、最新の改訂作業の動向、現在の状況ならびに今後の方向性について意見交換を行った。
結果と考察
(a)インタビューによる回答6通、郵送、メールによる回答36通で、計42通を回収した。調査結果からは、我が国の医療関係者の多くが発達障害の範囲を従来通りICDによって規定することが適切であると考えており、DSM-5で提唱された「神経発達障害」の概念と対象範囲が現在の発達障害者の診療や支援と概ね親和性が高いものと考えられた。ICD-11において「神経発達障害(仮名)」とは別の診断カテゴリーに位置づけられると予測される障害については、自閉症スペクトラム障害や注意欠如多動性障害、限局性学習障害といった生物学的要因を考慮したものと分ける方がよいといった考え方が多かった。また、ICD-11の「神経発達障害(仮名)」に知的障害(ICD-10ではF7)が含まれることについては、医学関係者からは「妥当である」とする意見が多く、現行法との調整や支援体制を考慮する必要があると考えられた。
今回の調査は、医療関係者の意向は反映されているが、その他の関係者の意向にいては今後の検討が必要である。
(b)インタビューの結果、改訂の影響は国により異なっていた。
米国では臨床医はDSMを用いるため、DSMの改訂に関心が集まっていた。特に、当事者や家族たちは、DSM-Ⅳにおいてアスペルガー障害や特定不能の広汎性発達障害といった診断を受けている人々がDSM-5のASDの診断基準を満たすのか、または、新設された社会コミュニケーション症(social (pragmatic) communication disorder)と診断されるのか、その場合においては、現在受給しているサービスにどう影響するのか懸念していた。
DSM-5が刊行された翌年に、米国保健省はASDの診断及びサービス受給資格が継続されると発表したが、診断とサービス受給のためのニーズアセスメントが独立している英国においては診断分類の改訂がサービス受給に影響を与えることはなく、政府の対応を要すると考えられていなかった。日本は発達障害者支援法の定義にICDを用いており、米国とは異なる状況であるため、ICDの改訂作業については、今後もその経過を慎重に見守る必要があると考えられる。
(c)DSMとICDの双方の改訂作業部会に委員として参加している英国の専門家の招聘により、DSMの改訂の背景及びICD-11の現在の改訂経過、今後の方向性について、国内の関係者の間で情報を共有することが出来た。
今回の調査は、医療関係者の意向は反映されているが、その他の関係者の意向にいては今後の検討が必要である。
(b)インタビューの結果、改訂の影響は国により異なっていた。
米国では臨床医はDSMを用いるため、DSMの改訂に関心が集まっていた。特に、当事者や家族たちは、DSM-Ⅳにおいてアスペルガー障害や特定不能の広汎性発達障害といった診断を受けている人々がDSM-5のASDの診断基準を満たすのか、または、新設された社会コミュニケーション症(social (pragmatic) communication disorder)と診断されるのか、その場合においては、現在受給しているサービスにどう影響するのか懸念していた。
DSM-5が刊行された翌年に、米国保健省はASDの診断及びサービス受給資格が継続されると発表したが、診断とサービス受給のためのニーズアセスメントが独立している英国においては診断分類の改訂がサービス受給に影響を与えることはなく、政府の対応を要すると考えられていなかった。日本は発達障害者支援法の定義にICDを用いており、米国とは異なる状況であるため、ICDの改訂作業については、今後もその経過を慎重に見守る必要があると考えられる。
(c)DSMとICDの双方の改訂作業部会に委員として参加している英国の専門家の招聘により、DSMの改訂の背景及びICD-11の現在の改訂経過、今後の方向性について、国内の関係者の間で情報を共有することが出来た。
結論
ICDの改訂が我が国の「発達障害」の定義に与える影響を検討するため、国内の医療関係者、海外の発達障害の専門家を対象に調査を行い、また、DSM及びICDの改訂作業部会委員を招聘し最新の動向を把握した。ICD改訂の方向性については、我が国の発達障害の捉え方とは親和性を持つものであり、大きな混乱を招く可能性は低いものであること、診断分類の採用とサービス提供対象者決定の基準は国によって異なるが、我が国はICDによって発達障害の定義をしているため、ICD改訂の結果については、今後も引き続き積極的に情報収集を行い、対応を検討する必要があること、等の状況の把握ができた。
公開日・更新日
公開日
2015-05-28
更新日
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